目黒の秋刀魚?
実家のカフェレストランで昼食を済ませ、アパートに戻り、俺の部屋で2人少しの休憩と午後からの掃除の大まかな流れと役割分担を話し合い、再び瑛里子さんの部屋の掃除を再開する。
午前中で、台所が綺麗になった事に気を良くしたのか、瑛里子さんのペースが良い感じに上がってきたのだが、口数も増えだして、俺の集中力が切れそうになるので、
「口を動かすよりも、手を動かしましょう!」
と注意を促すと、
「和彦君は、うちの、おかん(母親)みたいだ。」
と言われたので、
「瑛里子さんは、実家の部屋もこんな感じなんですか?」
あまり口に出して聞きたくはなかったのだが、思わず尋ねてしまった。
「さすがに、ここまで酷くはないよ、それにこの部屋も、常時こんなに散らかってる訳ではないし…」
と言い始め、長くなりそうなので、
「口よりも手を動かしましょう!」
再び言うと
「君は、和彦君の皮を被ったうちのおかん(母親)に間違いない!」
等と意味不明な突っ込みを入れてきた。
その後は、適当に何だかんだ言いながらも、片付けは捗り、夜の8時頃に瑛里子さんの部屋か綺麗に片付いた。
流石に1日中、働いてこの時間になったので、この後、食事や風呂の用意とか何もする気が起きなかったので、瑛里子さんにスーパー銭湯のただ券が有るので行くか?と誘うと、喜んで「行く!」と応え、スーパー銭湯の帰りに夕食を奢って貰える事になった。
ちなみにスーパー銭湯のただ券と言うか回数券は、俺の親父の悪友の、樋口工務店の専務の樋口さんがくれたモノだ、昔から家に来る度に、何かプレゼントを持って来たりしていたのだが、事故の後は、もっぱらスーパー銭湯の回数券を持って来てくれる様になった。
電気風呂やラジウム風呂、薬湯が有るので、事故後の身体に良いと気を利かせてくれているのだろう。
家の親父には勿体無い友人だと思う。
スーパー銭湯で、のんびりと電気風呂やラジウム風呂に浸かって出てくると、同じ位のタイミングで瑛里子さんも出て来ていた。
相変わらずの、高校ジャージなのには少し笑いがこみ上げそうだったが、風呂上がりの瑛里子さんは、なかなか破壊力があった、いつもより血色良く見える肌の美しさもそうなんだが、何よりも、いつもボサボサにしている長い髪の毛が、艶やかなストレートヘアになっているのに驚いて、聞いてみると、
「風呂上がりは、いつもこんな感じたが、家から出る予定がなければ、ブラッシングすらしないから、朝起きると寝癖で1日中ボサボサだけど、大学に通っている時は、毎日、綺麗にセットしてたんだよ。」
基本的にこの女性は、物臭で、引き籠りがちなんだと理解した。
しかし、髪の毛1つで、凄く魅力的に見えるから不思議だ、高校ジャージ着てるけど(笑)
「瑛里子さん、いつも髪の毛とか、身嗜みをキチンとすれば、凄く魅力的なのには勿体無いですよ。」
「おや?和彦君は、私に惚れてしまったのかな?」
「いやいや、そんなんじゃなくって、ちゃんとすれば綺麗な顔をしているのに勿体無いと言っているのです。」
「前はチャンとしていたんだよ、ただ、チャンとすると、周りが煩わしい事になるから、基本的にチャンとしたくないんだ。」
スーパー銭湯を出て、そんなやり取りをしていると、
「和彦君、この店に入ろう。」
瑛里子さんが選んだ店は、居酒屋だった。
「瑛里子さん、俺は、まだ未成年何ですけど。」
「大丈夫よ、この店は、美味しい食事も提供してくれるんだから!」
そんな事ならと、店に入ると確かに料理はかなりのレベルと言うか、炭火で焼いた秋刀魚の旨かった事、ガスで焼いた物とは、食べる前の香りからして全くの別物に感じられた。
炭火の上で焼かれた秋刀魚から滴り落ちた余分な油は、炭の熱により瞬時に煙となり、秋刀魚に美味しそうな燻香を与え、炭の遠赤外線の効果なのか?普段、苦いだけで、あまり旨いと思わなかった秋刀魚のはらわたの苦味が、程好いアクセントに感じられたのだ、そして、秋刀魚の身を食べた時の歯触りと言うか弾力、噛みしめた時に口の中に溢れる程好い油と旨味!秋刀魚は目黒に限る!と言った殿様の気持ちが良く解る、炭火焼き侮り難し!と言うか惚れてしまった。
アパートの台所に炭用の焼き台って無理たがらアウトドア用品店で炭用のバーベキューコンロを買う事を心に誓ってしまった。
食事中、瑛里子さんは、明日、一緒に学校に行かないか?と言ってきたので、快くOKしたが、俺は、よそ行きの瑛里子さんに驚く事になる。