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隣の残念教師  作者: 虎元チョコ
2/18

今日は高校ジャージ

 出ていった、隣の住人を、ただボーゼンと見送った、俺は、ゆっくりと立ち上がり、彼女が開けっ放しにした、玄関のドアを閉めて、俺の実家に住む、従姉妹の沙織姉ちゃんに、電話で質問した。


「もしもし、沙織姉ちゃん、隣の部屋の人と仲いいの?」


「何かあったの?」


「いきなり部屋に乗り込んで来て、何処かのお土産らしき箱を、俺にぶつけて出ていった。」


「あっちゃ~!瑛里子さんに、引っ越ししたの教えてなかったわ。」


「あの不思議な人、瑛里子さんって言うんだ。」


「不思議なの?一応、私の大学の先輩で、来年から社会人なんだけど、」


「なんかさ~!中学のジャージ着てたし、俺の事見て、フリーズして何も言わずに逃げてったよ。」


「中学ジャージだったの?あの人部屋着には、頓着無いからねぇ~(笑)」


「まぁいいけど、あの人が投げた、お土産って多分、沙織姉ちゃんへのお土産だと思うんだ、俺から姉ちゃんに渡すより、瑛里子さんから直接、手渡された方がいいと思うから、あの人に返してくるよ。」


「そうね、それが良いと思うわ。」


「じゃあ、ちょっくら返し行ってくる、序でに、姉ちゃんが、今、住んでる場所教えておくね。」


「うん分かった、ありがとうね。」


 沙織姉ちゃんとの電話を終わらせ、瑛里子さんが投げ込んだ箱を手に、隣のドアをノックすると、音もなくドアが5cm程開き、


「どなた?」


「隣に住んでる、沢村と申します、先程、投げ込まれた箱を返しに来ました。」


「それ、貴方にあげる。」


 そう言ってドアを閉めようとするので、


「これって、沙織姉ちゃんに渡すお土産じゃないんですか?」


 そう言うと、閉まりかけたドアが今度は、10cm程開き、


「貴方、沙織ちゃんの知り合い?」


「沙織姉ちゃんは俺の従姉妹です。

 瑛里子さんは、沙織姉ちゃんのバイト先知ってますか?」


「よく知ってるわ、私結構、あの店に通ってたから。」


「そこ、俺の実家なんですが、沙織姉ちゃんは、今そこに住んでます。」


 そう言うと瑛里子さんは、俺の顔をまじまじと見詰め、


「そう言えば、貴方、あの店の厨房で働いてたわね、何度か喋った事あるけど覚えてない?」


「すいません、あまり記憶に無いです。

 それに、春先から、最近迄、入院していたから、店のバイトもしてなかったし、仕事が厨房だったので、お客様の顔もあまり覚えてないんですよ。」


「そうなの、少し残念、貴方いつも真面目に働いていたから、気に入ってたのよ。」


「あっ、ありがとうございます。」


「そうそう、沙織ちゃんに渡すお土産は、ちゃんと有るから、貴方は遠慮しないで、それ食べてね。

 じゃあ、お休みなさい。」


 瑛里子さんは、そう言って、最後は、優しそうな笑顔を見せてドアを閉じた。


 部屋に戻り、少し頭を悩ませた。

 瑛里子さんに、ああは言ったが、本当のところ、店のお客様、会話した事がある人の顔は、ほとんど覚えてる筈なのに、瑛里子さんの顔は、思い出せなかった。


 翌日の朝、寒かったので、車で学校に行く事にした駐車場を出ようとしたら、昨夜とは違うジャージに綿入れを羽織った瑛里子さんが居たので、車の中から、声を掛けた。


「おはようございます、寒いですね、これから何処か行かれるのですか?」


「うん、近くのコンビニまで、君は、高校の制服を着て何処にいくんだい?」


「高校の制服を着てたら、行き先は高校じゃないてすか(笑)」


「えっ?でも自動車通学?」


「事故の後遺症と言うか、脚が未だ完治していないので特別に許可されています。

 良かったらコンビニ迄送りますよ。」


「ありがとう、助かるわね。」


 そう言って車に乗り込む瑛里子さんの綿入れの下の胸元には漢字で高とプリントしてあるのが見えた。


 今朝は、高校ジャージだった、思わず笑いが込み上げてきたが、グッと堪えていると、


「高校生がプリウスで通学とは、所でこれは親の車なのかい?」


「いえ、自分のお金で買いましたよ、事故の慰謝料が入りましたので、それに実家でバイトしていた時のバイト代も、ほぼ手付かずで持っていましたから。」


「倹約家なのだなぁ君は、見た目も良いし、車も持ってるならば、きっと可愛い彼女も居るのだろう(笑)」


「彼女なんて居ませんよ、9月に振られました。」


「それは、悪い事を聞いてしまった、お詫びと言っては何だが、温かい飲み物を買ってあげるから、コンビニで降りておいで。」


「ありがとうございます、でもそんなに気を使わなくても良いですよ。」


「若者は、遠慮しないで、年上の好意に甘えておきなさい!」


 そんな訳で瑛里子さんにコンビニに引っ張り込まれ2人で飲み物を選んでいると、


「あら、沢村君じゃない。」


 と声を掛けられた。


 僕の留年が決まると、別れを告げに来た御笠川綾姫だった。


「ああ、おはよう、御笠川さん。」


「沢村君、大学受験関係ないのに、また試験で無駄に良い成績を残すの?」


「そりゃ、わざと悪い点数取る必要なでしょ。」


「そうやって、嫌みったらしく、私に頭の良いところを見せ付けたいんでしょ。」


「そんな事は、無いよ。」


 しかし、御笠川さんってこんなに刺々しい性格だったなんて少し驚いていると、


「和彦君、友達との会話中、悪いけど、そろそろ行きましょう。」


 瑛里子さんが俺の手を繋ぎレジの方へと引っ張ってくれた。

 良いタイミングで会話を切ってくれた、あのまま喋り続けたら、もっと嫌な気分になっていたと思う。


 支払いを済ませた瑛里子さんに、御礼を言って、アパート迄送りますよ、まだ学校には、時間がありますから、と言うと、じゃあお言葉に甘えさせてもらうわね!と微笑む瑛里子さんの素朴な笑顔に心が惹かれた。


 アパート迄の道程のなか、瑛里子さんが、あの嫌みったらしい女の子って何者?と聞いてきたので、


「9月に僕の留年が決まって僕を振った、元彼女です。」


「綺麗な女の子だったけど別れて正解だったのかもね、あんな言い方しなくても良いのに………」


 それっきり瑛里子さんは、喋らなくなり、アパートの前で車から降りる時、


「学校終わったら、何か用事有る?」


「別に無いです。」


「しゃあ、帰って来たらら声掛けてね。」


 そう言って手を振りながら自分の部屋に戻って行った。


 学校に着くと、掲示板の前に人だかりが出来ていた。

 朝イチで、期末試験の順位か貼り出されていた。


 今回も1位だった、朝の会話で少しムカついていたので、御笠川さんの名前を探すと、なんと5位に美月の名前を見付けて、少し驚いていると、ちょうど美月が登校してきたので、凄いじゃないか!と声を掛けると、沙織姉ちゃんに勉強を見て貰ったお陰だよ!と喜びを口にした。

 そして御笠川さんの名前は、上位者の中には無かった。

 今朝、俺に突っ掛かって来たのは、試験で思う様な結果を出す事が出来なくて、八つ当たりしたのだと納得した。

 掲示板を離れると、2年のクラスの女子達に囲まれて、


「先輩、今回も1位なんて、凄過ぎ~!冬休み勉強教えて下さい!」「家何処ですか?」「彼女居るんですか?」


 等、色々言ってきたが、愛想笑いしながら、3年の教室に入るとクラスの半分くらいの人から、冷たい視線を浴びせられた、と言うか冷たい視線って男子ばかりじゃん。

 可愛い後輩女子に揉みくちゃにされていたから、ヤッパ嫉妬とかされてるんだと思った。

 男の嫉妬に燃える視線って嫌だなぁと思っていると、中には、好意的な人もいて、そんなに頭良いのに勿体無いと言ってくる奴や、問題集を持って教えて欲しいと言ってくる者も少しは、このクラスにいるので、それ程気分を悪くするモノでもない。


 学校から帰り、瑛里子さんの部屋をノックすると昨夜の様に少しだけドアを開けると、


「良かったら、和彦君の部屋で、お喋りをしたいのだけど了解してくれると嬉しいのだか………」


「それは、構わないですよ。」


「ありがたい、昨日戻って来てから、部屋の中が片付いてないんだ、片付いたら、改めて部屋に招待させてもらうよ。」


 ニコニコ笑いながら、出て来た瑛里子さんは、高校ジャージに綿入れの朝と同じスタイル。


 部屋に入ると、昨日の夜は、すまなかったといきなり謝ってきた。


「そりゃぁ少しは、驚いたけど、喋ってみると、瑛里子さん優しくて面白いし、それに年上と思えないと言うか、可愛いし。」


 瑛里子さん、ほんのり頬を染めて、


「可愛いって、初めて言われた!」


 と少女の様に喜びながら、


「綺麗とはよく言われるが、可愛いは初めてだ、ありがとう和彦君。」


 何か、凄い勘違いしてないか?この人、一体誰が勘違いさせるんだ?

 そうか!瑛里子さんって、きっとアニオタサークルのお姫様なんだ!俺は脳内で瑛里子さんの事をそう結論付けた。


「瑛里子さん、お昼食べましたか?僕これから作るんで、良かったら一緒に食べませんか?」


「良いのかい?」


「ええ、遠慮しないで下さいね、それと、パスタを作るんですが、茹で置きの物を使うので、アルデンテじゃないと文句を言わないで下さいね。」


「それはありがたい、実は私は、柔らかいパスタの方が好きなんだよ。」


「瑛里子さん珍しいですね、普通の女性って、テレビやマスコミなんかで、パスタはアルデンテみたいに言われると、それが最高と思って、自分の好みでもないのでも、それが1番美味しいと自分に暗示をかける傾向があるらしいのですが、しっかりとした好みが有るのですね。」


「へえ、そうなんだ!」


「だいたい、日本の男性の殆んどは、柔らか目のパスタの方が好きなんですよ。」


「へえ、知らなかったよ。」


「と言う事で、カルボナーラ出来上がりました。」


「何か、出来上がるの、無茶苦茶早くないか?」


「ええ、パスタ茹でてませんから(笑)」


「これ、美味しい!普通に店で食べるのと比べると、全然違う物だけど、て言うか初めて食べるタイプのカルボナーラだね。」


「ええ、イタリアの有名店の少し変わり種のカルボナーラのレシピで作ったんだ、日本で普通に食べる奴と違ってシンプルな味が好きなんだよ。」


「これは、癖になりそうだわ。」


「作り方は、とても簡単てすぐに作れるのがいいですよ。」




 食事が終わると、瑛里子さんは、御笠川綾姫との事を聞いてきたので、彼女にコクられた事から、今日の試験の結果迄を、慰謝料で大金を手に入れた事以外、事細かに話すと、瑛里子さんは、


「もしかすると、彼女は、まだ君の事を好きなのかも知れないね、別れたものの、まだ吹っ切る事が出来ないから、ああ言う態度を取って、自分自身にも言い聞かせているのかも知れないから、和彦君からは、何もせず無関心を装っておけば、勝手に彼女の方でどうにかする筈、それで、また今日みたいに、突っ掛かって来た時は、感情を出さずに優しく相手して上げなさいね。」


 と今後の事に対してどう対応すれば良いのかアドバイスをしてくれた。

 瑛里子さんの事、何か最初のイメージと違い優しいお姉さんとして認識し始めている自分に気が付いた。





 



 瑛里子さん、近いうちに変身します。


 そして壊れます。

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