人って誰にでもどこか、ポンコツなところって有るよね。
ぼちぼち不定期で更新します。
その日、俺、沢村和彦は何故にあれ程、浮かれていたのだろう?
まぁ考えてみれば理由は簡単、高校2年の全教育行程が終わり、明日から待望の春休みが始まる。
その上、終業式の後クラス中で最も整った顔立ちで学校中でも人気の美少女、御笠川綾姫から、彼女にして欲しいと告白されて、天にも昇る気持ちで即OKの返事をし晴れて憧れの美少女と恋人同士になれたのだ。
そして、春休みには「たくさんデートしましょう!」なんて言われたものだから、俺の浮かれようは、半端じゃなかった。
まぁ、その2つが主な原因で、目覚めた時には、病院のベッドの上だった。
目が覚めると、心配そうに覗き込む大学生に通う従姉妹の沙織姉ちゃんが、大慌てで看護師さんを呼びに行った。
俺自身は、一体何が起こったのかサッパリ解らなかったのだが、理解出来たのは、上半身に大袈裟に巻かれたギプスのせいで、身体(主に左腕)が動かせない事、全身隈無く痛い事、どうやら右脚にもギブスが巻かれている事、横を見れば点滴のパックが目に入り、何らかの理由で、大怪我をして、病院のベッドに寝かされているのだという事位しか解らなかった。
目覚めたばかりの、覚醒しきらない頭で何が起こったのか思いだそうにも、何も思い出す事が出来ずにいると、従姉妹の沙織姉ちゃんが、看護師を連れて戻って来た。
看護師さんは、俺の目にペンライトの光を当てたり、手首を握って脈をみたりしていると、医師らしき白衣に身を包んだ眼鏡が似合う、いかにもナイスミドルといった感じの男前がやって来て、色々と質問した後に、骨折や怪我の状態、今後の治療方針など説明して部屋を後にした。
医師と看護師が出て行った後、従姉妹の沙織姉ちゃんが、どうして俺が病院に搬送されたのか教えてくれた。
早い話が、車に弾き飛ばされたのだ。
姉ちゃんが、警察に聞いた話によると、歩行者用の信号が点滅を始め、いきなり駆け出した俺を後方から左折しようとした車が、ほぼノーブレーキで突っ込んで来て衝突した際に5メートル以上吹っ飛んだらしい。
普段なら、信号の点滅で慌てて走って渡ったりしないのに、浮かれていたんだな俺。
しかし、ぶつかった車どんだけスピードだしてたんだよ!
沙織姉ちゃんの話では、今は昼時で、親父もお袋も家で経営しているレストラン風のカフェが忙しいけど、俺が目を覚ましたと連絡したので、客が引いたら見舞いに来ると教えてくれた。
暫くして、両親が俺と同じ学年の妹の美月(ちなみに、双子ではない、俺は4月生まれで、美月は翌年の3月生まれの年子なのだ)と、中2の妹の栞を伴い見舞いに来たが、両親と沙織姉ちゃんは、夕方の店の仕込みのために、早々に帰って行った。
栞と共に病室に残った美月の話によると、事故の直後、大勢の友達が病院に駆け付けたらしいが、緊急手術中で面会など出来る訳が無く、翌日出直したらしいのだが、翌日はICUの中でやはり、面会謝絶で顔を見る事すら出来なかった。
流石に3日目には、誰も来なくなったらしいが、くしくもその日の朝には、命の危険も無くなったので、昏睡状態のまま一般病棟の個室に転室したが、家族以外は病室に立ち入る事ができなかった。
そして事故から4日目の昼に目覚めたのだが、一般病棟に移ってから、目を覚ます迄に、病院を訪れたのは、高2の時の元担任と、事故の加害者の会社の上司だけだったらしい。
事故の相手(加害者)の上司の話しによると、加害者は事故当時社用車で会社の取締役の送迎中だった事を教えてくれた。
そして、事故後、俺がまだ目を覚ましていないと知り加害者の上司は、青ざめた顔で、保険以外に会社の方から出来る限りの事をさせてもらいますと言って高価な果物を置いて帰ったらしい。
付き合い始め彼女になったばかりの、御笠川綾姫は、弱ってる俺の事は、痛々しくて見るのが辛いから、元気になった頃に見舞いに来るので、早く良くなって、と美月に電話してきたらしい。
私に会いたければ早く元気になれ!と言う彼女の思いやりらしいのだが、俺的には、お見舞いに来て欲しかった。
美月に、そんな話しをしている横で栞は、大人しいと思ったら足のギブスにマジックで落書きをしていた。
何書いてるんだ?と聞くと、栞は、早く良くなる様に、応援のメッセージだよ!と笑い、
「でもお兄、顔を怪我しなくて良かったね!お兄さんの事、紹介してって。3年の先輩にちょくちょく頼まれた事あるし、お兄がイケメンで先輩達、栞に優しくしてくれるんだよ。」
「その割に栞が先輩を紹介してきた事ないよな。」
「へへぇ!お兄に特定の彼女が出来たら、お兄のファンクラブの先輩達が悲しむからね(笑)」
「ファンクラブなんか有るわけないだろ!栞が紹介するの面倒なだけだろう。」
「面倒かけてるのお兄の方だよ、お兄宛のラブレターは、私がちゃんと差出人が傷つかない様に、お断りの返事書いてるんだよ。」
こいつ今、何か凄い事さらっと言った。
「ああ、兄貴は確かに、うちのクラスの女子にも人気あるなぁ。」
「そうなのか?」
「だって、うちの学校、男子の見てくれのレベル低いから、兄貴ぐらいの顔でも、体育会系クラブのエース級よりも帰宅部の兄貴の方が人気だし。」
何か、こいつ、さらっと毒吐いて、うちの学校の全男子を敵にまわす様な台詞を吐きやがった!
「おい美月、うちの学校の男子そこまでレベル低くないぞ。」
「そうだよ、みー姉お兄は、そこら辺のアイドルよりも可愛いんだから!」
栞から見て、俺って可愛いのか?自分では普通と思っているのだが……
「ああ、分かった分かった、私は家に帰って、兄貴の見舞いに来てくれた人達に、兄貴が目覚めたって一斉メールするから、ところで栞は帰らないのか?」
「私は、もう暫くお兄の相手してから帰るよ。」
そんな事を言って栞は、夕方迄、僕の話し相手をしてくれた、心優しい女の子に育ってくれて、兄貴としては、嬉しい限りである。
翌日からは、美月が連絡してくれたお陰なのか、学校の友達の見舞いも増え、それなりに余り退屈しない日々をすごしたが、春休みが終わり友達が3年に進級すると、友達も見舞いに来なくなったが、代わりに、僕が入るクラスの担任の教師がたまに見舞いに来る様になった。
毎日顔を出す家族の誰かと、たまに来る担任の見舞いだけになり、静かな時間を過ごす様になったので、担任が持って来た3年の教科書を見て勉強したりして過ごしながら、暫く経った6月半ば、やっと上半身と右足のギブスが外れたのだが、3ヶ月もの間ギブスで固定されていた右脚と左側の肩と腕の関節は、見事な迄に可動域が少なくなり、動かさなかった腕と脚の筋肉は、反対の腕や脚と見比べるまでもなく、痩せ衰えていた。
今後は、リハビリによって関節の可動域と筋肉を増やしていく事になると、眼鏡の似合うナイスミドル医師が説明してくれた。
そして俺は、ギブスが外れた事で、今後の事を軽く考えていた。
骨さえ繋がって元に戻ったなら、軽く筋トレでもすれば、すぐに退院出来ると思っていたのだが、関節が曲がらなくては筋トレどころではなく、まずは、関節の可動域を広げる為の治療やマッサージと平行して歩行訓練等が行われたが、車とぶつかった時に、アキレス腱と膝の靭帯に深刻なダメージを受けていた事がギブスを外してから判明した。
その結果、肩や肘は、1ヶ月程で関節の可動域が元に戻ったが、膝と足首は、更なる加療が必要でまだまだ病院の世話にならなければならないと腹を括った。
やがて、世間の学生達は、夏休みに入り浮かれまくっているのだろうと、羨ましくも思ったが、俺自身は、受験生としての自覚は有るので、沙織姉ちゃんや美月が見舞いに来ると、教科書や担任教師が「出来る所があったらやってみろ。」と持って来た夏休みの宿題用のテキストを出し解らない、若しくは、あやふやな所の解説や解き方を教えてもらい、休みによるビハインドを失くす事に努めた。
学校の友達連中が、多分、夏休みの宿題の追い込みに掛かっている頃には、テキストをを終わらせ、美月に休み明けの提出を頼んだら、美月は、嬉しそうに、解らない所写させて貰えると、大喜びだった。
お前も追い込み中やったんかい!と心の中で、突っ込んでおいた。
夏休みが終わり9月に入り、担任教師が見舞いに来て、夏休みのテキストほぼ完璧だったと誉めてくれたが、そろそろ出席日数がヤバくなるが、まだ退院は出来ないのか?と聞いてくるが、こればかりは自分で決められないので、応え様が無かった。
そして9月も半ばを過ぎた頃、担任が見舞いに来て、「残念ながら、卒業資格を得る為の単位が足りなくなったので、留年する事が、決定的になった。」と伝えに来た。
まぁ学校行ってなかったから仕方ないですね、と応えたものの、事故は相手が悪かったのに、何故、俺がこんな目に遇わなければならないのかと、やりきれなかった。
悪い事は重なるもので、これまで1度も見舞いに来なかった、御笠川綾姫が病室を訪れ、少しの会話の後に、別れを告げて病室を後にした。
彼氏らしい事何もしてないし、半年もの間顔も会わせなかったので、サッパリした別れだったが、後になって、ボディブローの様に、ジワジワと効いてきた。
今後あれ程の美少女と付き合う事など出来ないと思うと、逃した魚の大きさに、後悔しか残らなかった。
そんなこんなで、塞ぎ込んでいると、医師から、9月いっぱいで退院して良いと退院の許可が下りた。
その日の午後、親父が見舞いに来て、事故の相手の会社から、慰謝料と見舞金、留年させた事に対するお詫びも含め2千万円もの大金を振り込んだと連絡があった事を教えてくれた。
親父は、お前が身体を張って稼いだ金だから、好きに使っても良いが無駄遣いはするなよ!と念を押しながら、右手の親指を立てて白い歯を見せて笑ってくれた。
9月に入ってから、何一つ良い事が無かったが、大金が手に入った事で、顔が緩み、留年の事など無かったかの様に嬉しかった。
失恋の痛みさえ無くなった様に思え、自分自身、現金な奴としか思えなかった。
そして迎えた9月30日、退院して家に戻ると、俺の部屋は見事なまでに沙織姉ちゃんの部屋へと様変わりしていた。
どうやら、親父の画策で、家でバイトしている沙織姉ちゃんの大学も、家からが近いので、沙織姉ちゃんのアパートと俺の部屋をトレードしたらしい。
親父、何考えてんだよ!
仕方なく、沙織姉ちゃんのアパートの鍵を受け取り、沙織姉ちゃんが、住んでたアパートへ行ってみた。
ベッドやタンス等の大きな物は、いい具合の場所に設置されていたが、衣類や書籍等の小物、生活用品は、無造作に段ボールに詰めて部屋の真ん中に放置されていた。
俺は、一旦片付けを諦めて、学校に退院した事を伝えに行き、10月から復学する意思が有る事を伝えると、留年が決定しているので、来年の4月迄休んでも構わないと言われたが、大学受験の為に、この留年をアドバンテージにしたいから、授業を受けたいと申し出ると、快く申し出を受け入れてくれた。
しかも、2年でも3年でも好きな学年の授業を受けて良いと、言われたので、教科によってどちらに行くか、自分で決めると言ったら、3年の元々のクラスと、2年の比較的、静かに授業を受けられるクラスに席を用意して貰える事になった。
そして、生活指導の教師に医師の診断書を見せて、免許を取得した後に、バイク若しくは自動車での通学の許可を貰い、その脚で自動車学校に入学の申し込みをして、アパートに帰った。
部屋の荷物を片付けながら、スマホで原付の試験の日程を調べると、明日受けられる事が分かったので翌日、試験場に行く事にしてその日のうちに、部屋の片付けを終わらせた。
原付の試験は、無事合格したので、中古のスクーターを購入して、通学や生活に使える脚ができた事で、自分自身、事故前と比べると何か少し大人になった様な気がして、明日からの生活が待ち遠しく思えた。
原付スクーターで学校に通う通学路では、結構好奇の目に晒されたが、留年が決定しているのだから、そちらの方が恥ずかしいと思えば、なんて事はない。
一旦、教室に入るも、席が分からないので、職員室に行くと担任が朝のホームルームの時に連れて行くからと、職員室の中で待機させられた。
担任に連れられて教室に入ると、2年の時に同じクラスだった懐かしい顔が何人かいて、少し心強かった。
休み時間になると、友達が集まって来て、色々な事を話して楽しかったのだけど、やはり受験を間近に控えた友達と、後1年高校に通う俺とでは、温度差を感じずにはいられなかった。
それからは、普通に学校に通い、3年のグラスで体育等の主要科目以外の授業は2年のクラスで授業を受けていた。最初2年のクラスメイトは、明らかな異物混入に教室の中に重苦しい空気が充満していたが、ある女生徒に、数式の解き方を教えたところ、解りやすいと喜ばれ、妙に人気が出て、3年の教室にいる時でも、休み時間に教科書を持って来る、来年の同級生が何人かいる。
受験を控えたクラスの連中からは、冷やかな視線を浴びせられたが3年の教室に来るのは、可愛い女の子ばかりだったので、多分、半分は羨ましくて嫉妬していたのだろう。
そんな日常の中、学校が終ると次は、着替えてすぐに自動車学校に向かい自動車の免許取得に向けて、運転の練習をする日々が続いた。
10月も半ばを過ぎて、自動車学校では、路上教習が始まった頃、高校では、2学期の中間テストが始まった。
もちろん俺は、3年の試験を受けたのだが、後日、貼り出された試験の上位者30人の中に名前が載っているのを2年の女生徒が見つけて、俺に報告しに来た。
実のところ、これ迄も成績は上位だったが、他人と比較する順位にはあまり興味が無く、ただ良い点数が取れれば満足していたが、2年の女生徒に手を引かれ順位を見に行くと、学年1位だった。
貼り出された順位を見に来ている中には、俺を振った御笠川綾姫の姿もあり、俺と目が合うと気まずそうに視線を反らした。
掲示板に彼女の名前を探すと18位に彼女の名前を見つけ出す事が出来た。
気が付くと、俺の手を引っ張って来た女生徒は、いつの間にか、恋人同士の様に手を組んで、
「先輩、凄いですねぇ!ほとんど学校に来てなかったのに、いきなり学年1位なんて、本当に来年も3年生なんですか?」
と周りの大学受験を控えた生徒達の神経を逆撫でする様な台詞に、周りの3年生達は神妙な顔をしているのを横目に、
「ああ、出席日数が足りなくて、来年は、君たちと同級生になるから、宜しく頼むよ。」
と笑って応えた。
その後、無事に自動車の免許を取得し、アパートの駐車場を借りる為に、大家さんの家を訪れた時、今年一杯でアパートを売りに出して、息子の世話になるために引っ越すから、オーナーが代わると、立ち退きになるかも知れないと聞かされた。
何となく、どの位で売買されるのか聞くと、土地の評価額が安いので7~800万だろうと言うので800万円ならば、僕に売って下さいと申し出たところ、お金があるなら、序でにうちの家も買わんか?と笑顔で言われたが、そこまでお金が無いと言えば、両方買ってくれるならば、1500万円で売ると言われ、アパートの方は確約したが、家の方は保留にして、親父に相談すると。
「家は、立地条件次第で儂が買っても良いぞ。」
と言ったので、親父を連れて見に行くと、「ここなら、買ってもいい」と言い出したので、大家さんと、家、アパートの売買契約を交わした。
結局、不動産陶器や難しい事柄は、親父に丸投げして、2人でお金を払うと、大家さんは、年明けを待たずに息子の暮らす都会へと引っ越し、12月から俺がアパートのオーナーになるので、アパートの各部屋を回り、オーナーの変更と家賃の振込先の変更を知らせたが、隣の部屋の住人だけが会う事が出来なかったので、と言うか、そもそも住み始めた10月から、隣に人の気配すら無かったのでメモを残すに留めておいた。
12月になり、各部屋からの家賃が振り込まれる中、元の大家さんから現金書留が届き、隣の住人から家賃が、こちらに振り込まれたのでと、わざわざ手紙と元気そうな写真を添えてお金を送ってくれた。
そんな事があって数日後、ちょうど期末試験の最終日、俺が暮らし始めてから、初めて俺の車以外の自動車がアパートの駐車場に停まり、隣の部屋のドアが開く音を聞いた。
そして隣の部屋に人が入り、その後すぐに、俺の部屋の玄関が開き、
「ただいま、沙織ちゃん、今帰って来たよ!」
でっかい眼鏡をかけた、ボサボサの髪の毛を無造作に輪ゴムで留めたジャージ姿の女性が、無許可で俺の部屋に乗り込んで来た。
「「あんた誰?」」
2人共、顔を見合せてフリーズしていた。
そこそこに張りのある彼女の胸元に、視線が吸い寄せられた、悲しき男の性だけど、ジャージの胸の部分のマークの中に漢字で中の文字、俺より少し年上位のオタクっぽい中学ジャージの女性、多分と言うかかなりの高確率で隣の住人。
なんて声を掛ければいいか、悩んでいると、その女性は、手に持っていた、お土産らしき箱を俺に投げ付けて、ダッシュで部屋を出ていった。
ドア、開けたなら閉めて行けよ、一体何だったんだあの人。
隣の住人とコミュニケーションを取る自信がなくなった。
ハイファンタジーの方の作品を読んでる方が居ましたら、ごめんなさい引っ越しで、ストーリーを書いたノートが行方不明になり、現在、捜索と再構築をしております。
そしてこちらの方のは、10~20話程度に考えています。