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席に着き、さあこれから食べようとの時に彼女がやってくる。
「おいおい、両の方、なんだいそれは」
先程まで突っ伏していたみやはが没落したヤクザさながらの勢いで絡んできた。
「パンだけど?」
霧彦は当たり前のように返した。
「そんなんわかっとるわっ!」
「とうとうそんなこともわからなくなったのかと思った」
「わたしはそんなことをわからなくなるほど馬鹿じゃないから」
みやはが透き通った瞳で霧彦を睨む。
あー、なんてめんどうくさい女なのだろう……。
「みやは、距離を考えてくれよ。また変な誤解される。迷惑がかかるのは俺なんだから」
「距離? 迷惑? なんなのよ、それ。わたしと霧彦の仲なんだから、言わせておけばいいのよそんなの」
本当に空気というか、周りとの調和がとれない。そんな馬鹿なやつ。
「それでわたしのパンは?」
ん、と霧彦はみやはの分のパンを手渡す。それを見ながら蘇芳はほくそ笑む。
「霧彦はなんだかんだみやはの気持ちわかってるよね」
「知りたくもないことだけどな」
「んだと~」
みやはが霧彦の返答に不満を垂れ流している。蘇芳や周りの人間には二人の輪の中に特別なものがあることに、気づいていた。言わずもがなな状況にそれを微笑んで見守るのが日課だった。
当の霧彦はその視線が気に食わなくてしょうがなかったのだが。
だって、みんなニヤニヤしてるじゃん?
恥ずかしいじゃん?
そんな思春期さながらな感情を隠せない霧彦だった。
それぞれの好きなパンを齧る。焼きそばパンやら、メロンパンやらそれぞれの好きなパンを……みやはが。
「ん~~、美味しいよ」
「俺たちには運でも勝てないというのか」
要は賭けをしたのだ。食べ盛りの高校生は、やっぱりいっぱい食べたい。だから賭けをしたんだ。それぞれの好きなパンを。じゃんけんで。
「みやはには勉強以外では、勝てないのかな」
「その発言は間違ってるぞ。お前は勉強でもみやはには勝ててない。本当は──」
「霧彦」
言葉を途中で遮られてしまう。
その一方で本当に辛い辛い現実を聞いた蘇芳は、何も言わずに涙が出てしまっていた。
「あ、霧彦が蘇芳を泣かしたぞ」
「お前には酷な現実だったな……」
同情の目を蘇芳に送ってやる。悲しい現実を見るのは誰だって辛いものだから。
まあ、悪いのは俺なんだけど。
「誰ですか、蘇芳先輩を泣かしたのはっ!」
怒声を飛ばした方向へ目を向けると、そこにはちんまい少女が立っていた。
桜色の瞳が霧彦たちを睨む。走ってきたのか、外の寒さとは対照的な温かい染色された金色のツインテールが少女の肩と一緒に上下していた。
「みやはが泣いたなんて言うから、さくりんが来ちゃったじゃないか。ただゴミが目に入っただけだよ」
やれやれと蘇芳が言葉を吐いた。