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木笑み風~木枯らしのなかで奏でる~  作者: 玉時雨
そして春が来る
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「おい、霧がっ!」

「なんで……こんな時に」

「急いでっ! みやはちゃん、これしか方法が無いの。だから——」

「あるよ、他の方法」


 それ以上を聞きたくないと世嗣は叫ぶが、それを無視して続ける。


「違う依り代を使えばいいだけだよ。それは世嗣ちゃんもわかってるでしょ?」

「わかってる、わかってるけどっ! 彼は……そうすれば幸せになれるの? 私たちのわがままで始まったこの奇跡は、綺麗に終われる?」

「終わる必要なんてないよ。これからも続けばいい。だけど一緒にってわがままが過ぎると思うんだ。誰かの犠牲で、大切な人の犠牲で。また同じになるだけなんだよ」


 二人が言い争う。

 人ではない。そう言われて頭の中で冷静になろうにもなれない。今まで過ごしてきた生活、すべてが嘘のようで。だからかもしれない。冷静な判断ができない今だからこそ。


「俺が狂わせたんだろ?」

「霧彦じゃない。わたしがわがままを言ったから。元はわたしの責任なんだ。違う依り代。誰でもいいわけじゃない。神殿の血を有している者。つまりわたしが——」

「ありがとう」


 ただ一言きりの言葉。みやはが依り代になろうと、そう言っているのはわかる。だから、感謝を言わないといけない。


「兄さんは、みやはちゃんがいなくなってもいいと思っているの?」

「世嗣もありがとう」


 だから妹に対しても。


「え? 兄さん、私は兄さんにいなくなって。私たちの為に犠牲になれって言ってるんだよ?」

「わかってるよ」


 最初は信じられなかった。妹からそんなことを言われるなんて。


「だからありがとう」

「訳がわからない。それが殺そうとしている人間に吐く言葉なの?」

「そうか、わからないか。だって——」


 世嗣の顔を見ればわかる。妹だし、ずっと頑張ってきたのが。世嗣だから。


「それ、優しいからだろ?」

「え?」

「優しいから俺に情けをかけてくれる。妹がそんなこと言いたいわけじゃないんじゃないか?」

「違うっ! 私は世界の為に」

「そんな膝が震えながら言われてもな」


 生まれたての小鹿のように震える膝。世嗣の意に反する言葉がそうさせているように思えた。


「これは、寒いだけ」

「寒い割には顔が赤いけどな」


 世嗣はまた顔を赤らめる。昔から表情に出やすい子だった。けれどこういう関係になってからはそういうそぶりを見せてこなかった世嗣は、この土壇場でボロを出してしまったと思うとかわいく思える。


「世嗣ちゃんは兄さんを殺したいなんて思ってるはずないじゃない。だってそれが嘘だとしても初めてできた兄さんなんだからさ」


 充満していく霧。それが三人を包み込もうとしていてもこの和む空気は消えなかった。霧そのものは猛毒だが、それを世嗣が必死に繋ぎとめてくれてるとわかったから。


「とっくに俺たちの結界は解けてるはずだ。けれど死んでない。それは世嗣が必死に繋いでくれてるからだ」

「な、なんで」

「だからありがとうなんだよ」


 納得というには腑に落ちない表情をする世嗣だったが、霧彦の晴れ切った表情を見てため息を吐く。


「もう兄さんは本当に馬鹿なんだから。だからといって、この時間は本当に長くはないんだからね。どうするつもりなのよ」

「みんなが幸せな方法を取るさ。みやはも俺もいなくならない方法を」

「そんなの無理でしょ。霧彦とわたし。どちらかの消滅が世界に調和をもたらす奇跡を起こす依り代なんだからさ」

「常識的に考えれば。それしか方法が無いのかもしれない。けれど俺たちは奇跡を起こすんだ」

「奇跡?」

「そう、奇跡。奇跡は人が思う、それ以上のことが起こった時に言うことだろ? だから俺たちが考えるそれ以上を起こす」

「そうだね。それでこそ霧彦だ」

「でもどうやって——」


 どうするかそれは霧彦の中で決まっていた。霧彦はにへら笑いを浮かべる。


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