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泣きはらした顔の世嗣と少し上機嫌のみやはと教室に戻ると、凜と蘇芳が外を眺めていた。
「おまたせ、二人とも」
「なぁ霧彦、僕たちはなんでこの世界に来ちゃったんだろうな」
凜と並んで外を眺める姿は、広がる曇天の空をより印象的にさせた。
「僕たちはこの世界から出られるのか? この死の空気の満ちた世界を出ることなんてさ」
「ごめん、わたしのせいなの……」
「みやは先輩のせいじゃない。それは世嗣さんから聞いてます。そんなことは言わないで」
「でも……。もともとわたしが神殿家から逃げ出したいと思わなければ」
蘇芳の思いにつられて二人も沈んでいく。
「そんなこと言わないでくれよ。俺も世嗣もお前を助けたかった。ただそれだけだ」
「うん、そうだよね」
「ごめんな、みやは。僕、少し気が滅入ってるみたいだ」
こんな状況なんだから無理もない。死と隣り合わせの世界。それを二人で生き延びてきたんだから。
「わたしがもっと早くに来れたら」
現状を理解するととてもじゃないが、気が滅入る。助けたいと思うが、ちっぽけな人間の力で助けられる状況じゃなかった。
なにか常軌を逸した方法が必要だった。
「みなさん」
暗い空気を切り裂くように世嗣が言った。
「私に提案があります。だから、二人を連れてきた」
「わたしたちにできることなら」
「ああ。妹や友人のためなら、なんだって」
「ありがとう」
世嗣が苦しそうに笑っていた。笑顔でかくすように、苦しみを追い出すように。そのわずかな変化をこの場にいた全員が感じ取っていた。
それから世嗣が話したことは、あらゆる方法を覆すことだった。それしか方法が無いのも事実。けれどその代償があまりにも大きかった。
「それしかありません」
「俺は反対だ」
「誰かが犠牲となって救われるなんて……それでも世嗣さんはいいんですか?」
「いいもなにもそれしか方法が無いの」
「僕はみんなで日常に戻りたい。これまで目の前で知り合いが死んでいった。だからそのためにも……いいや、ただもう目の前で死なれるのは嫌なんだ」
それぞれが意見を言う。それでも世嗣は覆そうとはしなかった。それしか方法がないと、それが最善策だと言って。
「それでいいかな、みやはちゃん」
最後にみやはに聞いた。自ら聞くにはどうしようもなく空しく感じた。
「わたしは……」
みやはは少し考えるそぶりを見せて。
「いいと思う。それで世界が救われるなら、友人が救われるのなら、霧彦が救われるのならやるべきことだし、やりたい」
「おいみやは」
「霧彦の言いたいこともわかる。わたしたちの未来を棒に振る。それはわたしも嫌。けれど、霧彦を目の前で何もせずに失うのはもっと嫌。だから、ね?」
まるで子供をあやすような笑みを浮かべる。そんな顔をできるみやはが少し……恐ろしく感じた。人のためにわが身を捨てることはこれほどまでに苦しそうなことなのだろうかと霧彦は実感した。
だが、正しいことなのだろう。今の最善策。紛れもない事実であり、防ぎきれない事象。
そんなことは間違っていると今にでも叫びたかった。
けれど今の霧彦にはその言葉を持っていなかった。
「じゃあ、やろうよ。鬼退治だ」
みやはの決意はそれほどまでに固く結ばれていた。




