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「これから行くのは虚構世界。私たちの常識が通用しない世界です」

「そんなことは関係ないよ。だってわたしたちは友達に会いに行くだけ。ついでに世界も救っちゃう」

「ついでって……」

「わたしは世界なんてどうでもいい。友達とずっと一緒に仲良くいれる……そんな場所を守りたい。エゴかもしれないけど」

「エゴでいいじゃないか。そのエゴが伝播していって俺たちの日常が戻ってくるんだから」


 彼女はその言葉を聞くと、安堵していた。安堵という名の一つの勇気なのかもしれない。


「今から虚構世界への道を開きます」


 人形や筆箱、現実世界の何も変哲もないものを同心円状に並べていく。


「中心に虚構世界のものを置かなければなりません。みやはちゃん、一つ持っているよね」

「一つ?」

「そう。箱の中身のことだよ」


 箱の中身。みやはが持っていたあの箱。


「あの箱の中身って虚構世界のものだったの?」

「うん。だからあの奇跡が生まれた」

「その奇跡の元、今は霧彦に預けてる」


 奇跡と云われる箱は霧彦に預けた。

 わたしのヒーローに。


「これか?」

「霧彦は持っていてくれたんだね」

「だって大切なものなんだろ? だったら捨てられない」

「兄さん、それを真ん中に置いて」


 持っていた箱を円の中心に置く。

 カタカタと揺れ始め、その世界が嘘で塗り固められる。嘘が世界を染めていく。色という色が嘘色で固められる。嘘の中の嘘に入っていく。

 一瞬、視界が黒く染まり世界が開けていった。


「ここ?」

「ここが虚構世界」

「見た目が変わらないんだけど」

「見た目は現実世界とは変わらないよ。虚構世界は嘘の世界だからね」

「嘘?」

「そう。嘘は本当の裏側。つまり現実世界の表裏の裏、ここはそう離れていないからね」


 見た目は前の世界とは変わりがない。前まで立っていた教室。教室の机の配置や黒板の汚れ具合までもが変わりがないように思えた。


「空……。霧彦、外がまるで違うよ」


 霧彦が窓の外を見るとその景色に驚愕する。


「な、なんだあれは」

「現実世界と虚構世界。ただ違うのは外の環境。到底、生物が生息できるような環境ではなくなってしまったかのような」


 黒く澱んだ空は時折赤い雷のような閃光を放つ。それは音もなく、連鎖的に。見渡せる建物はすべて荒廃しているように見える。ひび割れ、今にも倒壊しそうな建物群。人が住んでいそうな気配はなかった。


「虚構世界に連れ去られた人間は平気なのか?」

「虚構世界に連れ去られたのは、虚構世界で生きている住人のみです。虚構世界で死んでしまった人間は現実世界にとどまっているはずだから」

「じゃあ虚構世界で生きている人間って……」

「雪原学園に避難できた人間のみ。雪原学園全体には一種の結界のようなもので張り巡らされていて、この場所は比較的安全だよ」

「ここから外に出たら、どうなるんだ?」

「外はガスの様なもので覆われていて、出れば五分で肺は腐り、死にます」


 世嗣は死という言葉を惜しげもなく使った。そうしなければ伝わらないこの世界。今まで過ごしてきた平和な世界とは違うことを意識させた。


「けれどこの建物のなかは空気や食べ物、すべてが安全かな。……すべては語弊があるね、一つあるとしたら人間か」

「人間関係、よくないの?」

「ちょっとね。ここの生活がストレスになっているみたいで」

「こんな閉鎖的な空間にいたら、ストレスも溜まるさ」

「この前なんて殴り合いの喧嘩なんかしたりしててね」


 疲弊しきった体にいつ死ぬかもわからないストレス。そんなものは人間が耐えられるはずもない。今まで自由に謳歌してきた、食物連鎖の頂点にいた人間になど。


「私ももう、どう収拾付けたらいいのかわからなくなった。今回、二人に来てもらったのは一刻も早くこの状況を打開しなくてはならなくなったから」

「わたしたちが手伝えるのならなんだって——ね、霧彦」

「みやは、そんなに簡単な話じゃなさそうだ」

「……もう、ここの食糧が無いの」


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