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「出ていってっ!」
そう言われ追い出された私たちは、しょうがなく家に帰る。家に帰ると、母親の声が聞こえた。
「え、じゃあ、みやはちゃんは……」
「そうだな、もうあの屋敷からは出られないかもしれない」
父親と話す母親の声はとても悲しげで話していることの真実性が増した。
「なんだよ、その話」
兄さんが二人に問いただす。
「お前の仲良いみやはちゃんはな──」
兄さんの気迫は大人顔負けのものだった。二人は神殿家の本質、みやはちゃんの両親がしたこと、そして監禁されているみやはちゃん一家のことを細やかに話した。
でもその真相よりも私は他の事実に気を取られていた。
わかってしまったんだ。
これだけみやはちゃんの為に行動できる兄さんは。
私だけのお兄ちゃんは、もうみやはちゃんのものなんだって。
「助けられないのかよみやはを。かわいそうじゃないかそんなの。ずっとあんなに暗い場所で、ずっと冷たい目で見られて、寒い場所にいるなんてさ」
兄さんの感情は真っ直ぐにみやはちゃんに向いていて。
「母さん達、大人なんだろ? 大人は子供を助けてくれるんじゃないのかよっ! 大人ならかわいそうな、いじめられている子を助けてくれるんじゃねぇ―のかよっ!」
好きと叫んでいるようで、苦しそうだった。
でも私は、私たちは……その純粋さに動かされた。
「そうだね、母さん達が助けなきゃだよね」
「けど神殿家は警察に言ってもダメだって——」
「けどって? うちの子がこんなにも言ってるんだよ? そんなの親として答えてあげないとダメでしょ」
母さんは嬉しそうに笑っていた。
それからの晏御家はみやはちゃんを助けるために計画を立てた。
「みやはちゃんを助けるためにはどうしたらいいかな」
「あの婆さんをぶっ倒す」
「それじゃあ神殿家と何も変わらないよ。暴力で解決なんて母さんは許さないからね」
「じゃあどうしたらいいんだよ」
「僕たちはどうにも神殿家について知らなすぎるんじゃないか」
父さんがそんなことを言う。
確かに私たちは神殿家について何も知らなかった。だから調べることにした。一から全てを。
かつてからの豪族である神殿家は、ある能力を代々受け継いでるという。その能力は生まれ変わりで違う、つまり人それぞれが別の能力を持っている。
経営の能力、武力の能力、世を動かす能力。どこかで秀でるための能力が神殿家にはあるらしい。だから神殿家の人間はどこからでも必要とされてきた。
「だからみやはちゃんは匿われているんだ」
「あれは監禁だよ……もう。外には体よく、勉強を頑張っている淑女と通しているらしいけれど、あれはただ、神殿の庭から出さないようにしてるだけだ」
父さんが根気良く調べた結果、今の神殿家の情報がわかってきた。
神殿家は裏切り者が出たという話でもちきりらしい。それはどうにも神殿からの脱走を図ったという者がいるという話で。
「それがみやはの両親」
「そう、だからみやはちゃんを監禁している」
この情報は、神殿家の内部を調べているジャーナリストの話らしい。父さんは編集者をやっていた為、その情報を手に入れることができた。
「で、その両親は?」
「同じ屋敷で監禁されているという話だよ。それをみやはちゃんは知らない。みやはちゃんは神殿の人間に踊らされているんだ」
「どうにか助けることはできないのかよ」
「それは難しそうだ。権力が弱まってきているとはいえ神殿家の名前は強いよ。沢山のガードマンがいて、中に入ることすらできなさそうだ」
「じゃあ、どうしたらみやはを」
「何かのスキャンダルを見つけるくらいしかなさそうだね」
「スキャンダル」
物的証拠が必要だと父さんは言った。それが無ければ神殿家から助け出すことはできない。そうそう尻尾の出さない神殿家にそんな証拠が出るはずもなかった。全て握りつぶされて闇に消えてしまうから。
「だったら、俺がスキャンダルを作っちまおうか」
「なにを言ってるの、霧彦」
「だってそんくらいしないと、みやはは助けられないだろ?」
「まあそうだけどさ」
「でも兄さんが危ないよ」
「大丈夫だよ。俺は何度も神殿の屋敷に侵入してきたんだから」
「私も行くよ」
そう言うと兄さんはかぶりを振って制止する。
「世嗣は父さんたちと一緒にいてくれ。そうしてくれた方が兄さんは嬉しい」
「でも……」
「世嗣は母さん達と一緒にいて? じゃないと私たちさびしいわ。私たちの知らないところで倒れたら、兄さんにまで迷惑がかかるのよ?」
私は小さかった。体格も小さいから兄さんにはついていけなくて、体も弱かったから外に出ることも珍しくて。
「私が、私がいるとお荷物になっちゃうからね」
「そういうことじゃなくて、俺はお前が心配で」
「わかってるよ兄さん」
陰るように笑った。やっぱり私は兄さんの荷物で、一生かかってもみやはちゃんには追い付けない。
兄さんには、みやはちゃんがいないといけない。
だから私は兄さんの傍にいれて、兄さんのために働けたらいい。
それが私の幸せ。
キーホルダーみたいな私は、番いにはなれないのだから。
怪我をして帰ってくる兄さん。それがさも当たり前のように毎日。
そして屋敷の情報を事細かく話す。
一緒に監禁されていたみやはちゃんの両親が置かれていた状況を。
それはあまりにも人間がしていいことじゃなくて。
残酷な現実は兄さんたちを壊していって。
「みやはの為に絶対に助けないと」
それが兄さんの口癖で。
目の前にいる本当の兄。
一緒にいられなかった妹。
その二人に流れるのは、記憶という流れだ。
「世嗣は俺の隣を歩いてきたじゃないか」
世嗣は驚く。それほど霧彦の言った言葉が信じられなかった。
「今までだってずっと隣を歩いてくれたから、みやはがこうして俺の隣にいる。それは紛れもなく世嗣のおかげで、頑張ってくれたおかげで。情けない、力のない兄さんでごめんな」
ずっとその言葉を待っていた。その言葉を聞きたくて私はここまでやってきた。




