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霧彦がみやはを見つけ出して、その帰り道。
「霧彦はどうして見つけられたの? なんだっけ、古木?」
不思議な出来事があったことに、たいして信じていなさそうなみやはは下から覗き込むように霧彦の顔を見る。
「おい、その前に——」
そんなどうでもいいような質問をするよりも先に、正しておかないといけない問題があるだろ。これまで長々と回想を入れたとかよりも先に。
「なんでみやはは俺と腕を組んで歩いてる?」
みやはは腕を絡ませながら歩くのでさっきから、地面を捕らえるのが難しいのだ。
さっきから上腕に柔らかい感触が……。
みやはの胸はお世辞にも小さいとは言えない。巨乳だ。素晴らしいほどに。
素晴らしい感触をもっと味わいたい。
けれどそんな不純な感情を浮かべるわけにはいかなかった。
だってみやはだから。
意思疎通とはなんとも面倒くさいものなのだろう。
必死に隠す霧彦の目線は寒い青空に向けられていた。
「だって、寂しかったから。霧彦、声かけても返事してくれないし出ていっちゃうし」
今にも泣きだしそうな彼女の表情は、霧彦の悩み事などどこかに吹き飛ばすほどに。
「ああ、悪かったよ。俺がそばにいないとみやははダメだからな。これからも一緒だ。それは約束するよ。何があってもお前は守ってやる、今までだって、そうしてきただろ?」
今までだってこれからだって同じだ。知られないように。隠し続けないといけないから。
「霧彦は……この状態は、嫌?」
「そんなことはないよ」
心地よい感覚。
「昔に戻ったみたいで」
「ん?」
「いや、小学校のときみたいだなって。俺の後ろをみやはが寄り添って歩いて、それを俺が支えてあげて」
「ここ最近はそんなことできなかったからね。わたしだって恥ずかしいし」
「今だって恥ずかしいだろ?」
「恥ずかしいけど……それよりも霧彦と一緒にいれるってことを実感したくて」
そんなことを言ってくれる彼女がとても愛おしい。愛おしくて仕方がない。
それが恋心だって昔からわかっていれば、もっと早くに彼女の助けになれたかもしれない。
「みやは……俺の傍にずっといてくれないか?」
気づいたらそんな言葉が口から零れ落ちていた。
恥ずかしくてそんなことを言えないと自分で決めつけていたから。
そんなカッコいい言葉を言えるのは、ドラマやアニメの主人公だけだと思っていたから。
彼女はどんな顔をしているのだろう。
顔を覗こうとしても彼女は顔を背けてしまって見ることを許してくれなかった。
「みやはさん?」
沈黙が続いた。彼女は黙ったまま俯いていた。
彼女が口を開くまでは。
みやはの答えが聞けるのなら。
この時間も悪くはなかった。
淡く切ないこの時間がこの寒さを忘れさせてくれる。
そんな時間は氷のように固まったままだった俺たちを。
優しく溶かしてくれるから。
「き、霧彦くん。それは何かな、わたしと友達としてこれからも付き合ってほしいってことかな?」
彼女は。
「少し違うな。俺たちは恋人としてやっていかないかって意味」
「~~~~~~~っっ⁉」
やっぱり女の子のように。
「なんだよその顔は」
「だって、だって……突然そんなこと言われたら恥ずかしいし。何より——」
子供みたいに。
「嬉しすぎて、霧彦とずっといられるって思ったら……自分でもどうしたらいいかわからなくて」
「みやはは、どうしたい?」
優しく笑うんだ。
「わたしは、ずっと霧彦と、ずっと一緒にいたいよ」
泣いている彼女の顔は、ぐちゃぐちゃに、けれど嬉しそうに笑っていた。
初めての彼女。
恋人という存在ができた。
けれど彼女の境遇は歪んでできていたけれど、埋め合わせるほどに幸せでいっぱいにしてあげよう。
霧彦は共に歩んでいこうと決意した。