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中学に入り、わたしは受験前まで霧彦を避けていた。わたしの才能でそう見せていた。才能というもので隠れるように逃げていた。
それでも。
わたしは霧彦無しでは生きていけなかった。
受験を目の前に蘇芳に会った。
「久しぶり、みやは」
「ああ蘇芳か。どうしたの?」
「悪かったな、霧彦じゃなくて」
蘇芳はみやはの気持ちを意図したかのように言った。
抜けているようでそういうところがあるのだ。
「そうだよ、わたしは蘇芳じゃなくて霧彦に会いたかった」
隠すこともない。蘇芳にばれたところでわたしは傷つくわけでもないのだから。
「……ちょっとは隠そうとしろよな」
「なんでよ。わたしは霧彦が好き」
「そうだよな。昔からそうだ」
わたしは霧彦が好き。男の子として好き。
小さい頃からわたしにとってカッコいい男の子。
だからカッコいい霧彦はヒーローにふさわしいと思った。
「みやはは学校、どうするんだ?」
「わたしは霧彦が行くところに行くよ」
「で、霧彦が行くとこ知ってるのか?」
「……知らない」
霧彦とはたまに鉢合わせていた。けれどわたしは人に紛れるように隠れていた。
会ってしまうと恥ずかしくて。
思春期特有の理由だった。ただ霧彦に会うとただ恥ずかしくなった。
それを意識したのは中学入学してすぐだった。それから隠れるようになった。人気という名の影を利用して。
人気という名の影。それはその通りだった。
わたしが教室で寒空を眺めていた時だった。重苦しい空に寒々しい木枯らしが吹いた。その風の中に新緑の生命力に満ちた一片の葉が舞っていた。
その葉がわたしの下へやってきた。
それを手に取ると、活力というものにわたしが覆われたのだ。
それからだ。わたしが自分の意志で人気を操作できるようになったのは。
最初は不思議な力で気持ち悪いと思った。ファンタジーな世界などこの世界に存在しないと決めつけていたからだ。だからわたしは使わなかった。元々承認欲求が乏しいわたしには必要のない力だ。
けれど、霧彦に会うとその力が発現してしまっていた。自分の意志とは関係なくわたしの周りに人が集まる。誰かが、そうさせているみたいだった。霧彦と会えない時間が多くなった。
わたしは悲しかった。悲壮したんだ。
わたしの愚かな恥が霧彦との時間を剥いでしまっている。
勇気の出ない弱気な少女は、成長しても弱気なままだ。
そんな悲観した考えが霧彦との距離を遠く突き放していった。
わたしは影に隠れるように霧彦から隠れた。隠れ続けた。
受験の年。わたしは霧彦とろくな会話もしないままに迎えた。当然、霧彦の進学先は知らなかった。
「なんだみやは知らないのかよ。あいつ……私学行くみたいだぞ?」
蘇芳が含んだ言い方をする。
え?
「霧彦って私学行くの?」
「噂な? 僕も正しくは聞いてないんだけど。そんなに気になるなら本人に聞いてみるといいぞ」
「聞いてみるって……わたしは霧彦がどこ行こうと関係ないよ」
「なに言ってるんだよ。お前も頑固だよな」
「わたしは頑固じゃないよ。ただの臆病者だよ」
「あいつが遠くにいってもみやははいいのか。それでもお前は霧彦を思っているのか」
「そんなのわからないよ。現に今までだって霧彦に会えてないんだよ」
正直、そんなことになるとは思わなかった。
この近辺の学生は雪原に進学する。私学に行くのは金持ちか、何か特別な理由がある人だけだ。
霧彦は家に金はそんな余裕はないからと言うに決まっていると。
そう決めつけていたから。
「お前はちゃんとあいつに会おうとしたのか」
逃げてばかりのわたしは蘇芳に言われたことが響く。
響いてわたしの中で反響する。
「霧彦はみやはを待ってたよ。ずっと待ってた。結局あいつは優しいから」
「うん。知ってる」
だってわたしは霧彦を見てきたから。
隠れながらも霧彦を見続けた。
目を離さないように。
消えてしまわないように。
「霧彦はお前を守ってきたんだ。見守ることで守ってきたんだ。それがあいつの優しさだよ」




