表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木笑み風~木枯らしのなかで奏でる~  作者: 玉時雨
正義とヒーロー
33/53

 中学に入り、わたしは受験前まで霧彦を避けていた。わたしの才能でそう見せていた。才能というもので隠れるように逃げていた。

 それでも。

 わたしは霧彦無しでは生きていけなかった。

 受験を目の前に蘇芳に会った。


「久しぶり、みやは」

「ああ蘇芳か。どうしたの?」

「悪かったな、霧彦じゃなくて」


 蘇芳はみやはの気持ちを意図したかのように言った。

 抜けているようでそういうところがあるのだ。


「そうだよ、わたしは蘇芳じゃなくて霧彦に会いたかった」


 隠すこともない。蘇芳にばれたところでわたしは傷つくわけでもないのだから。


「……ちょっとは隠そうとしろよな」

「なんでよ。わたしは霧彦が好き」

「そうだよな。昔からそうだ」


 わたしは霧彦が好き。男の子として好き。

 小さい頃からわたしにとってカッコいい男の子。

 だからカッコいい霧彦はヒーローにふさわしいと思った。


「みやはは学校、どうするんだ?」

「わたしは霧彦が行くところに行くよ」

「で、霧彦が行くとこ知ってるのか?」

「……知らない」


 霧彦とはたまに鉢合わせていた。けれどわたしは人に紛れるように隠れていた。

 会ってしまうと恥ずかしくて。

 思春期特有の理由だった。ただ霧彦に会うとただ恥ずかしくなった。

 それを意識したのは中学入学してすぐだった。それから隠れるようになった。人気という名の影を利用して。

 人気という名の影。それはその通りだった。


 わたしが教室で寒空を眺めていた時だった。重苦しい空に寒々しい木枯らしが吹いた。その風の中に新緑の生命力に満ちた一片の葉が舞っていた。

 その葉がわたしの下へやってきた。

 それを手に取ると、活力というものにわたしが覆われたのだ。

 それからだ。わたしが自分の意志で人気を操作できるようになったのは。

 最初は不思議な力で気持ち悪いと思った。ファンタジーな世界などこの世界に存在しないと決めつけていたからだ。だからわたしは使わなかった。元々承認欲求が乏しいわたしには必要のない力だ。

 けれど、霧彦に会うとその力が発現してしまっていた。自分の意志とは関係なくわたしの周りに人が集まる。誰かが、そうさせているみたいだった。霧彦と会えない時間が多くなった。


 わたしは悲しかった。悲壮したんだ。

 わたしの愚かな恥が霧彦との時間を剥いでしまっている。

 勇気の出ない弱気な少女は、成長しても弱気なままだ。

 そんな悲観した考えが霧彦との距離を遠く突き放していった。

 わたしは影に隠れるように霧彦から隠れた。隠れ続けた。

 受験の年。わたしは霧彦とろくな会話もしないままに迎えた。当然、霧彦の進学先は知らなかった。


「なんだみやは知らないのかよ。あいつ……私学行くみたいだぞ?」


 蘇芳が含んだ言い方をする。

 え?


「霧彦って私学行くの?」

「噂な? 僕も正しくは聞いてないんだけど。そんなに気になるなら本人に聞いてみるといいぞ」

「聞いてみるって……わたしは霧彦がどこ行こうと関係ないよ」

「なに言ってるんだよ。お前も頑固だよな」

「わたしは頑固じゃないよ。ただの臆病者だよ」

「あいつが遠くにいってもみやははいいのか。それでもお前は霧彦を思っているのか」

「そんなのわからないよ。現に今までだって霧彦に会えてないんだよ」


 正直、そんなことになるとは思わなかった。

 この近辺の学生は雪原に進学する。私学に行くのは金持ちか、何か特別な理由がある人だけだ。

 霧彦は家に金はそんな余裕はないからと言うに決まっていると。

 そう決めつけていたから。


「お前はちゃんとあいつに会おうとしたのか」


 逃げてばかりのわたしは蘇芳に言われたことが響く。

 響いてわたしの中で反響する。


「霧彦はみやはを待ってたよ。ずっと待ってた。結局あいつは優しいから」

「うん。知ってる」


 だってわたしは霧彦を見てきたから。

 隠れながらも霧彦を見続けた。

 目を離さないように。

 消えてしまわないように。


「霧彦はお前を守ってきたんだ。見守ることで守ってきたんだ。それがあいつの優しさだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ