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木笑み風~木枯らしのなかで奏でる~  作者: 玉時雨
動いて、消えて
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 涙で輝く金目がこちらを向いていたが、そんな蘇芳を置き去りにして帰宅の足を進める。

「見事な右ストレートだったな」

「そっかな~。わたし的にはもうちょいインパクトの時に、力を籠められたらよかったんだけど」

「そんなことしたら死んでしまうからやめなさい」

 軽くみやはの頭をはたく。

「もう……わたし、悪くなくな~い?」

 頭をさすりながら訴えてくる。


 小さい頃からずっと一緒にいた。生まれた時からずっと。

 気づいたらいつも隣にいたみやはは先を歩いていて、追いつけないようなやつだった。それは成長してからも一緒なはずだった。

「みやはは俺のおかげで馬鹿なことができているのを自覚したほうがいい」

「わたしが馬鹿だって言うの? わたし、霧彦よりも頭いいしっ!」

「学年最下位が何を言ってるんだよ……」

「違います~。蘇芳が下にいます~」

「あれと競争して恥ずかしくないのか」

 みやはは霧彦から言われた痛烈な言葉を考え込んで。

「嫌だ、恥ずかしい」

 目を細め、本当に嫌そうな顔をして言い放った。


 みやはとはこんな馬鹿な話をする。

 みやはにはブレーキ役が付いていないとすぐに暴走する。だから自分がいる。それが生まれた場所が一緒のやつの役目。

「そういえば、霧彦は知ってる?」

 脈絡もなくみやはが聞いてくる。

 これも彼女の特徴だ。

「何がだ?」

「最近、あの変な虫が増えたらしいよ~」


 香雪虫こうせつちゅう。この町でだけにしか確認されていない虫。

 どっかの学者が、この虫からは雪の香りがするといって名付けられた虫だ。ここ最近は、研究者がこの虫をやっけになって探していた。

「しかし不思議だよね~。香雪虫……だっけ? 若い、わたしたちぐらいの年にしか見えないんでしょ?」

「そうらしいな。俺は見たことないけどな」

「わたしもー」


 第一発見者が高校生だった。その父親が学者で、この虫をその学者に見せたらしい。

 そいつはその虫が視認できず子供の戯言だと言ったが、写真に写った虫を見て仰天した。そう、写真には写っていたのだ。

 まだ手のひらにいたその虫の匂いを嗅いでみると、雪の香りがしたらしい。

「町で噂が広がりまくりなんだよ~」

「虹色の羽虫を見たって?」

「そうそう。キラキラ光っていて、パーって感じなんだってさ」

「お前の言ってることはわからないが、そんなに綺麗なら一度くらい見てみたいな」


 香雪虫の姿はは虹色の蜂のようだという。そんな噂がこの町で広まっていた。

「でも、刺したりしないのかな。すごく痛そう……」

「そんな話は聞かないよな。刺したり刺さなかったりの話が出てたら、まず町中大混乱だな。だって見えないんだから」

 まだ見たことがないので、想像で話すことしかできなかった。少し特殊だが、雪原町の住民にとっては生活の中の当たり前となっていた。


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