表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木笑み風~木枯らしのなかで奏でる~  作者: 玉時雨
番いの鳥
27/53

 それからのみやはは受験とともに人気が落ちついていった。人が寄り付かなくなった。必然的に例の四人で過ごすことも多くなった。


「凜ちゃんは一つ学年下だから一緒に卒業できないね」

「そうなんですよね。寂しくなりますね」


 この時のみやはは凜のことを『凜ちゃん』と呼んでいた。


「来月、受験ですけどこんなところで油売ってていいんですか?」

「わたしは大丈夫だけど、蘇芳がね」

「ほんとそれ。やばいんだよ」

「それを自分で言ってることがやばいから」

「なんだよ。霧彦急に頭よくなっちゃってさ」

「俺はそれしかすることなかったから」

「みやははどうなんだよ」

「わたしはもう勉強しない」

「は? お前受験どうすんだよ」


 受験生が勉強しない発言は良くないと思う。


「受験は……どうにかなるでしょ」

「まあみやはは元の頭がいいからな」

「みやは先輩のピアノまた聞きたいです」


 みやはのピアノは相当なものだった。昔からショパンやらクライスラーを聞いていたからだろう。悲しげな曲ばかりを。


「昔みたいにみやはちゃんでいいのに」

「これはけじめです。一応は一つ上なんですから」

「凜ちゃん、わたしはね、ピアノもやめたんだよ。弾きたくない」

「え?」


 あんなに好きだったピアノを弾かない。それがみやはの答えだった。


「なんで弾かないんだ」

「もう、弾けないんだよ」


 理由を聞いてもそれしか言わなかった。これ以上のことはないと断言している様だった。


「いつから弾いてないんだよ」

「いつからだろうね。中学入ったらやめたかな」


 じゃあ、この中学での人気はスポーツのものだったのか。

 そう霧彦は推察した。


「みやは先輩のピアノ、綺麗だったのにな~。残念。ちょうどみやは先輩が怪我したあたりから、ガラッと変わりましたよねー」

「ごめんね。ちょっと疲れちゃった」

「まだ、悪いんですか?」

「悪くはないんだけど、ただ、疲れたんだよ」

「あの繊細な旋律を聞けないなんて」

「いつか、ね」

「約束ですよ。私ファンなんですから」

「ありがと」


 凜を優しく抱きしめる。月の光のように淡く、けれど大胆に。


「先輩?」

「ごめんね」


 凜を離しながらみやはは言った。


「ほんとに大丈夫かみやは」

「霧彦に心配されるような柔い体じゃないよ」

「昔はもっと弱かった」

「でも今は強くなった」

「だったらいいけど」


 日付は進み受験。

 ある程度の勉強をし無事合格。合格発表の日はそれなりに嬉しかった。受験番号を確認し、叫びはしなかったが内心は大きくガッツポーズ。それが霧彦の喜び方だった。


 桜舞うその日。みやは体調を崩し合格欄を見に行けなかった。代わりに霧彦が受験番号を控えて見に行った。当たり前のようにそこにある番号を目にして安堵する。


 一緒に来ていた蘇芳は涙を流し霧彦に抱きついてきた。


「きりひこ~~~」

「お前、まさかっ」

「受かってだ~~~」

「なんだよ、驚かすなよ」


 蘇芳も霧彦とみやはの手助けで無事合格だった。蘇芳に勉強を教えるのはとても苦労した。すぐ逃げるからだ。数字が襲ってくるらしい。それでも必死に勉強を繰り返した結果がそこにあった。


「蘇芳、おめでとう」

「ありがどぉ~。きりひごはおぢだのがぁ~」

「なんでお前が受かって俺が落ちないといけないんだよ」


 馬鹿な蘇芳に一発入れ、帰路に就く。


「俺、みやはに伝えてくるから」

「ああ。僕からもありがとうって伝えておいて」

「わかった~」


 霧彦は蘇芳と別れみやはのもとへ急ぐ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ