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蜂が舞っている。虹色の見たことのない蜂だ。重々しい曇天の空の下、美しい七色羽が太陽のように大胆で、けれど神秘的に光り輝いている。
「神だ」
誰かが言った。声がした方向に目を向けてもあるのは寂しい情景。
蜂にいる方向に目を戻す。
その蜂は消えていた。暗闇の中に消えていた。飲み込まれていた。
気づいたら俺は暗闇の中に独り。立っているのか座っているのか、真っ直ぐ向いているのか逆を向いているのか、俺は誰なのかすらわからない。そんな、暗闇。
叫んでみる。
「お~~~いっ」
反響も空気の響きも感じられなかった。
ふと右腕に何か感触を感じる。
そこを見てみると先程の綺麗な蜂だ。普通は気持ち悪く思い払ってしまうのだが、その蜂は何故か魅力を感じ、凝視してしまっていた。
虹色の蜂。七色の羽が光り輝き、その輝きは安心と安堵、幸福と幸せ、よくわからない感情を思い浮かばせた。
しかし、その蜂は飛び去ってしまう。その姿はなぜか、独り悲しむ子供のようにも見えた。