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霧彦たちも帰宅する。凜は例の生徒会で事務作業だ。霧彦とみやはは寒空の光を浴びながら、廊下を歩く。
「ふぁぁぁ~、よく寝た~」
「あれだけ、どの授業も寝てればな」
「せんせが眠い授業をするからいけないんだよ」
それは先人にも失礼だ。
まあ、おれが言えたタチじゃないけど。
霧彦は世嗣に言われたことを考える。
人は自分を理解できていない。
それが霧彦にしこりの様なものを残していた。
「霧彦どうしたの? さっきから変だよ?」
みやはが心配そうな顔をする。
この顔をされるのは痛いな。
「自分が自分でない……としたらどうする?」
自分でもこんな質問どうかと思う。
「例えば……そうだな、俺が俺だと誰が言える? 誰が証明できるんだ?」
世嗣の言葉に急に自分の存在について疑問が浮かんだ。あの怪事件も影響してるのだろう。
ただ単に怖かったのだと思う。
恐怖は、恐ろしく暗くて深淵だ。
それに孤独。
それが一番怖い。
みやはがふと優しく笑い、霧彦の頭を撫でる。
「わたしは霧彦が霧彦でなかったら嫌だよ」
彼女は悲しげな表情をしながら言う。そして、次第に泣き出しそうな声をあげる。
「でもそんな弱い霧彦はもっと嫌いだよ」
寒い雲が陰って廊下が別世界のようになった。暗く陰る廊下の奥にもっと暗い何かがあるように思えた。
「今日の霧彦……やだっ!」
そのままみやはは走り出してしまう。その背中は小さく、儚く淡い炎。そんな炎は今にも消えてしまいそうだった。
それでも、彼女の背中を追いかけられなかった。
手を伸ばすだけ。
それほどまでに彼女に言われたことは、きつく心に突き刺さった。
そのまま霧彦は暗い廊下に一人佇む。暗い廊下に独り。今日の空気は鋭く突き刺さる冷たい空気だった。




