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真面目に過ごした残りの授業は、淡々と時を進めいつもよりかは充実と濃密な時間。感覚的にはとても短い時間だった。
「晏御君、今日はちゃんと授業受けてたね」
話をただ聞く時間は終わり、世嗣は使った教材を片付けながら話しかけてきた。
「いつもちゃんと受けてる」
「窓の外を眺めているのが、ちゃんとね」
世嗣はいたずらな目を送る。
「ああ。あんな教師の目の前で寝ているやつよりかはちゃんとしてる」
授業が終わったというのに彼女はまだ眠っていた。
「あれはあれで、神殿さんは聞いているのかもしれないよ?」
「そうか?」
「人間は、他人のことはわからない」
世嗣が遠い空に佇む雪雲のなりかけを見据えている。
彼女の纏うものが一瞬で寒くなったような気がした。
「何故なら神は、細胞一つとして一人一人に特別を与えているから。何故なら、心、感情、思考、見る世界全てが違うから」
彼女が待つそれは、寒く冷たく暗い。
「ならば自分は? 自分を理解できているのだろうか。否、人は自分ですら理解できない。何故なら、それが神が与えた試練なのだから」
彼女の世界に自然と引き込まれる。深くて暗いのに、寒くて冷たいのに、底にあるものがそうさせる。それが悪いものだとしても……。
「それってどういう——」
霧彦が世嗣にその言葉の理由を聞こうとしたその時だった。
「き~りひこっ……ってあれ? 委員長と話してたの?」
先程まで寝ていたみやはがこちらに来ていた。
「ごめんね、神殿さん。晏御君の時間を少し頂いちゃった」
開いていた彼女の世界は、日常に戻っていた。元の委員長だった世嗣に戻る。
「いいんだよ。霧彦の時間はあってないようなものだから」
「おい、勝手に決めるな……」
「あはは、やっぱり二人は面白いね」
「委員長?」
世嗣は立ち上がり、スクールバックを持って教室から出ようとする。
「私たちは何が違ったのかな……。それじゃあね」
そのまま世嗣は出ていってしまう。何か、影があったような、見透したような。
そういう奴だからな。
「じゃね~」
そんなこと気にせずみやはが別れを言う。
「ん? どうしたの霧彦」
「いや、なんでもない」
みやはにとって今の世嗣はただの委員長で、それだけの存在だ。だからみやはにとっての自分は理解できていないのかもしれない。神の与えた試練なのだから。
世嗣の考えを頭の中で回転させながら、反復させながら帰宅の準備をした。




