表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木笑み風~木枯らしのなかで奏でる~  作者: 玉時雨
霞と闇と消失と
14/53

 こんな異常な現実でも、雪原学園の時は進む。それが当たり前であり、日常なのだ。

 男性教諭の退屈な征夷大将軍の話を聞き流し、霧彦は窓の外に広がる冷たく濁った空を眺める。そろそろ雪が降りそうな頃合いだ。今日の気温は相変わらずの氷点下。凍えるような気温が霧彦を憂鬱とさせた。


 消えた佐倉という生徒。まずこいつの考えをまとめる。

 誰の記憶にもない存在したはずの生徒。

 仮説一。何らかの書類のミスで偶然に起きてしまった産物。けれど、これは立証できない。何故ならここまで長期的に同じヒューマンエラーは起きないからだ。誰かしらが気づいてしまう。

 仮説二。何者かの誘拐。けれどこれも、書類の不備や、住所の喪失の理由付けができない。

 考えたくもないが、仮設三。何らかの超能力によって周りの人間の記憶改ざん、そして、対象人物の存在そのものを削除した。

 我ながら恥ずかしい仮説だ。

 だけど。

 これが一番理由付け可能なんだよな~。

 実際にそんな恐ろしいことができるやつがいたとして、問題はそんなことを行った理由、つまり動機だ。なぜ、周りの人間の記憶まで消さなければならない? 愉快犯ならば、自分の存在を見せつけるように行うだろう。

 もしくはそうせざるをえない状況にあったのか?


「では次を——晏御」


 次に葛西を狙った理由はなんだ? 何か秘密を握ってしまったのだろうか。


「お~い、晏御」


 記憶がないから、被害者の性格がわからんっ。


「晏御君、呼ばれてるよっ!」

「わっ!」


 急に隣の席から大声で呼ばれ、驚いてしまう。透き通った黒髪が揺れるのが横目で見える。


「晏御、さっきからぼーっとしているようだが」

「大丈夫です、健全で健康な体です」

「じゃあ指示したところを読んでくれるか?」

「……」

「186ページ、江戸幕府の成り立ちのところだよ」

「あ、ありがとう」


 指示された場所を読み、再び安寧を手に入れる。


「さっきはありがとうな、高野」

「いいんだよ、ぜんぜん」


 高野世嗣たかのよつぐ。いろいろと助けてくれる頼れる委員長様だ。真面目で校則違反などはしない。しかも、頭がいい非の打ち所のない生徒なのだ。


「なにか、考え事?」

「ちょっとな」

「ふ~ん、そっか」


 そういうと世嗣はノートと黒板に視線を合わせる。

 授業中の私語も最低限。

 これが優等生……。

 今の関係はこれでいい。

 関係というのは移り変わっていくものなのだからな。

 それに比べ、みやはといったらまーた、寝腐ってやがる。

 そんな彼女の真面目さに駆られ、霧彦もノートをとることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ