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08・帰省?

 キーアリーハの足元で焼き魚を食う。

 何の味付けもされていない、単に焼いただけの魚である……まあ、つまり朝メシだ。

 最初はキーアリーハの食事を分けてもらうつもりだったが、人間用の味付けはオレには濃すぎた。むしろ味の付いてない方がオレには食いやすいんだ。

 なぜ焼いたって?

 淡水魚の生食は寄生虫のリスクが高いってのは常識だろ?

 後はオレが猫の体になっちまったってのもある。

 人間は他の動物と比べ体重のわりに肝臓が大きい。肝臓ってのは毒を分解する臓器でもある。つまり、他の動物より毒に耐性があるわけだ。

 人間が生食して平気だからと言って、猫にされたオレが食って平気とは限らない……だから焼いてくれと頼んだワケだ。

 あと、この魚って別に上手くも不味くもないな……そもそも猫って、別に魚好きってワケでも無いしさ。

 日本の猫に魚好きのイメージがあるのは、日本人が主に魚から動物性タンパク質を採っており猫は、それに付き合わされてたってだけなワケだ。にもかかわらず、それに飼い主たる日本人が気付かなかったって側面が大きい。

 その証拠に、猫って脂の乗った秋刀魚なんか食うと、けっこう腹下したりする。昔から魚ばっか食べてる動物なら、その程度じゃ腹下さないぜ?

 つか、オレも人間だった頃、秋刀魚で腹下したっけな……一匹なら平気なんだが二匹目に手を出すとさ。

 思わず溜め息が出る。

「ああ、オレって猫にされちまったんだな……」

 小声でぼやくが、キーアリーハには聞こえてないはずだ。

 ちなみにこの食事……オレには単なる燃料補給である。

 そして、ご主人様たるキーアリーハも、単なる燃料補給として飯を食ってるっぽい。

 無心……というか、心ここにあらずって感じで淡々と食ってるな。

 出された魚は既に頭と骨のみである……とりあえず腹も満たされた。

 そんなワケで、オレはキーアリーハの膝の上に飛び乗り、そして僅かな隙間からテーブルの上に駆け上がった。

「シャドウ……行儀悪いよ?」

「うん、知ってる。肘をつきながら飯を食うのも行儀悪いぜ?」

 咎めるキーアリーハに、オレは気の無い返事を返す。もっとも、オレは肘をついて飯を食う事を咎めてるわけじゃないけどな。

 テーブルの上に乗るのが行儀が悪いって事ぐらい、言われるまでも無く知ってるさ。が、テーブルの上に乗らなきゃ、キーアリーハの顔が見えないんだ。

 話をするなら、相手の顔が見える場所で……ってのは礼儀の一つだろ?

「知ってるなら降りなさい」

 姿勢を正しつつキーアリーハは言ってくれたよ……つまり自分も行儀よくするから、オレにも行儀よくしろって事だ。

 知識として知っていないのは問題だが、知っていて従わないのは個人の自由だと思うんだがなぁ……が、キーアリーハが行儀よくするなら、オレも従わにゃアカンわね。

「なら、少し椅子を引いて膝に乗せてくれ。ちと話がしたいんだ」

 オレの言葉に、キーアは椅子を引いてテーブルとの間に十分な隙間を開けてくれた。

 膝の上に降りると、キーアリーハが左手でオレの頭や背を撫で始める。

「あたし……こんなに猫を触れたのって初めてだ」

「オレって猫の姿してるだけで猫じゃないんだが?」

 とりあえず抗議しておくが、まあ猫扱いされるのは構わなかったりする。だからか、キーアリーハはオレの言葉を聞き流したみたいだ。

「さっきの影使い……また現れると思う?」

 あの術士、影が使えるってだけで、影使いってほどの技量は無さそうだけどな……オレの見た限りでは、キーアリーハの方が、あの系統の術の腕は良さそうだ。

「間違いなく、またチョッカイかけてくるぞ?」

 どうも、オレの同類っぽいしな。

 どういう経緯で、この世界に来たのかはわからんが……でも、アイツは元の世界の記憶を、ほぼ完ぺきに持ってるみたいだな。対し、オレは自分が受験生だったってぐらいしか記憶にないわ。

 親兄弟や親戚に友人……ほぼ思い出せない。

 唯一思い出せたのは、オレに絡み嫌がらせをし悪い噂まで流してくれたバイ菌野郎だけ……こんな記憶なんていらねぇよ。

「帰っちゃおうかな……?」

 キーアリーハの呟きを聴き、オレはテーブルの上を見る。

 なんだ。皿に肉が一切れだけ残ってるぞ?

 あと一口が食えないんだろう……まあオレが食うし、無理して食う事は無い。

「じゃ、残った肉はオレが食ってやるから、部屋に戻ろうか……」

 そう言うと、テーブルの上に手と魔力の爪を伸ばし肉を引っ掛け口の中へと放り込む。

 ……塩っぱい上に香辛料が強いなぁ。まあ、食えないほどじゃないが。

「部屋じゃなくて、ウチ……実家に、よ」

「無茶苦茶なぐらい遠いんだろ?」

「影法師の鳥を作れば、かなり移動時間は短縮できるわ」

 できるらしいとは言ってたが、目立ちたくないとも言って無かったっけか?

「それだと目立つぜ?」

 だからオレは問うたわけだ。

「もう目立っちゃってる……ソーノベンに、あたしがファミリアを召喚できたって事を知られちゃったしで今後は更に風当たりが強くなるわ。しかも今は春節のお休み中……先生方の監視も甘くなってるしで嫌がらせはし放題よ」

 ……なるほど。

 今までは三味線を弾くことでソーノベンを上手いこと遣り過ごしていたワケだが、それがバレて遣り過ごせなくなった。

 だから、この際、自分の実力を見せつけてやれって開き直ったわけかい。つまり、ソーノベンと、やり合う覚悟ができたってわけだ。

 それに、実際に学校で事を構えるなら、野次馬が多い方が好都合だ。だから休みがけるまで身を隠した方が得策だわね。

 ヤツが問題児だってのを証明する上でも、野次馬は証人として使えるしな。スマホの類があれば、それで証拠も押さえられるが、この世界には無いっぽいしさ。

 オレも、中学時代にソノ便マサ菌から嫌がらせを受け我慢の限界を超えた時は、他の被害者連中と協力してスマホで証拠を押さえ、共有の上で教師とマサ菌の親に突きつけてやったっけ。

 親は泣いてたな……自慢の息子が、こんな根性曲がりだって知ってさ。

 ……アレ?

 ソノ便マサ菌……奴の名前と顔まで、しっかり思い出せちまったじゃねぇかっ!

 ソノ便マサ菌という陰口めいた仇名じゃなくて本名の方までさ……未だ自分の名前すら思い出せねえのによ。

 まあ、この世界で生きていく上では、前の世界の(しがらみ)なんて無い方が良いか……正直な話、ソノ便の記憶もいらないんだけどな。

 なんか落ち込むなぁ……嫌な記憶しか戻ってこないって事にさ。

「シャドウは、あたしの実家に行くのは嫌?」

 黙っちまったオレを心配してか、キーアリーハが声を掛けてくる。

「いんや、単に思い出したくない事を思い出して落ち込んでただけ……」

 キーアリーハは、優しくオレの背を撫でる。

「大事な人との別れとか?」

 いや、全然違うんだがね……

「呼び出される前の事だけど、ソーノベンみたいな嫌な奴の事だけ鮮明に思い出せちまったんだよ……他の知り合いの事は、全く思い出せねぇのによ」

 オレの言葉に、キーアリーハは小さく噴き出した。

「なるほどね……それは落ち込んじゃうよ」

 そう。だからオレは大いに落ち込んでる……けど、それでキーアリーハが笑ってくれたならいいか。

 ……ああ、オレって飼い馴らされちまったんだなぁ。

 って、人間ってのは自らを家畜化しながら文明を築いてきたようなモンだけどな……呼び出される前のオレが居た世界だけどさ。たぶん、この世界も似たようなモンだろ。

 王族の下に貴族が居て平民を束ねる……行政機関が大衆の暮らし易いサービスを提供する。

 当然、この世界の平民やオレの居た世界の大衆は、その対価を支払っちゃいるわけで、対価に関しては、こっちの世界の方がボッタクられてそうだけどさ。

 で、影法師の鳥を作るなんて大魔法だよな。オレ喚び出すのも大魔法だったみたいだが……連発できるのか?

「オレを喚び出した直後なのに、影法師の鳥を作るなんてできるのか?」

「できるわよ?」

 だからキーアリーハに問うたわけだは、ケロっと答えてくれたよ……得手不得手はあれど、キーアリーハは結構な大魔法使いかも知れんね。

「じゃ、ちゃちゃっと帰り支度済ませて……って、事務的な手続きも必要だよな?」

「あっ!……忘れてた。しばらく寮を空けますって、申請出さなきゃ!」

 オイコラ学生。

 手続きなしで帰ったら、ここのセンセ方が困るだろうがよ……お嬢様らしいが、ここでの暮らしも長そうなんだけど抜けてるよなぁ。

「じゃ、今から申請出して帰り支度だな?」

 オレの言葉にキーアリーハは笑うとオレを抱き上げた。

「そ。善は急げってってね」

 う~ん……信じがたいけど、キーアリーハって公爵令嬢なんだよなぁ?

 いわゆるお嬢様って『ふいんき』は感じられないんだよな……無論、雰囲気も。

 ま、良いさ。

 今のオレはキーアリーハのオマケの腰巾着だ。

 だから、振り回されるってのも、オレの役どころみたいだしさ。

キーアリーハの名前が長げぇっ!

打ち込むのが面倒臭いんじゃあっ!!

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