表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファミリア  作者: あさま勲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/40

07・ご同類

 キーアリーハの腕の中から抜け出して肩へと上がる。

「この学校って、生徒間の決闘って公認なのか?」

 肩の上から問う。

 あの教師。ソーノベンを咎めるとか、そんな素振り見せもしなかった。つか、ソーノベンは眼中になかったカンジだ。むしろオレやキーアリーハに興味を持ってたっぽい。

 アレなら、味方に引き込めたんと違う?

「そんなワケないでしょうっ!」

 キーアリーハの言葉に、オレは驚いてしまう。

 なんか怒ってる感じだな……

 足早に歩くその様子からも、そんな気配を感じるんだよな……まあ、いいや。

「なら、あのセンセに、ソーノベンからケンカ売られたってチクってやれば良かったのに」

 ああいった手合いは、教師からの評価を気にする。

 キーアリーハに魔法を放ったのもしっかり目撃されてたから、アイツの評価は確実に下げられただろう。

 ただ、あそこに留まり、しっかり説明した場合はだ。

 逃げちまった手前、ソーノベンが好き勝手言える状況をくれてやったワケだ。あの手合いは口が達者だ。好き勝手に言われキーアリーハが悪者にされちまう。

「アタシ、あの先生が何か怖い……」

 ふむ。生徒同士の喧嘩を近くにいるにも関わらず止めもしないセンセだ。頭のネジが何本か飛んでいてもおかしくは無いわな。だから怖いってのは、なんとなくわかるぞ。

「怖いか……どんなセンセなんだ?」

 怖いセンセかも知れないが、なら尚の事、情報が必要だ。

「元宮廷魔術師で、すごく物知り。他の先生たちが知らなかったラッペトスの事も知ってたわ」

 オイ、ちょっと待てっ!

「ラッペトスって、ありふれた魔物じゃなかったのかよっ!?」

 オレは思わず叫んでしまう。

「魔力を取り込んで動物が魔物化することはあるけど……個体名じゃない名前が与えられる事って滅多にないの。ネズミからして小さな動物だから魔物化しても、さして怖くないし、普通なら名前なんて与えられないよ?」

 普通じゃない事態があったから、名前が与えられたか。なら、それは病魔の媒介かね?

 ラットとペストを混ぜてラッペトス……は、考えすぎか。

「でもアレ、誰かが放った使い魔だってオマエ言ってなかったか?」

 禁呪を使ってるとも推測していたし、あの手の魔物に関しては、相応の知識があるはずだ。

 キーアリーハの影の中から、オレそっくりな黒猫が出てくる。

「これがアタシの得意分野。即興でできるのは影法師による使い魔ぐらいだけど、時間をかけて術式を組めば、周囲を漂う魔力だけで魔物も作れる……って、そうやって術式を組んで作ったのがシャドウの体。ラッペトスみたいに動物を素体にするなら、もっと簡単に作れるわよ」

 なるほど。

 オレの猫の体って、あの大鼠より手間暇かけて作られたんだ……でも、正直あんま嬉しくない。同意を得ず召喚されたからか?

「どうせ体を作ってくれるなら、人間の体にしてほしかったよ……」

「それじゃ、アタシが落ち着かないわよ!」

 オレの愚痴にキーアリーハが反応する。

 まあ、確かに、その通りだわな。言われ、思わず笑ってしまった。

「あと、召喚した魂に合わせた体ができるよう術式を組んだから、猫の姿がシャドウに最適な体なハズなんだけど?」

 おいマテ。

 つまり、この猫の体は、オレの魂に最適化された体って事か?

 でもキーアリーハは、オレの性別を股間を確認するまで知らなかったんだよな……って事はマジかよっ!

 オレの性格って猫だったのか……って、猫ってイメージは自分ではないんだがなぁ?

「術式を組む……オレの召喚に一年以上かけたって言ってたけど、その術式を組むのに一年かかったって事か?」

「ファミリアって一体しか持てないタイプの使い魔だから、入念な準備で臨んだのよ……その体は、一年がかりで周囲の魔力を集めて作った特別な体。だから、大事にしてね?」

 一体しか持てないか……半身だのって言ってたし、半身が幾つもあったらおかしいわね。

「なんでファミリアは一体しか持てないんだ?」

「お互いの魂を強く結ぶ契約になるのよ。その関係で、契約が解除されるまで次のファミリアとなる魂は喚ぶことができない」

 どうも一年という魔力集めの期間は、踏ん切りがつかず悩んでた結果もあるっぽいな……まぁ、いいや。魔法の事は、オレにはワカラン。

「あと、ラッペトスだけど、アレって過去にどんな騒ぎを起こしたかとか、そういった話は聞いてるのか?」

「聞いてないわよ……というか、そんな騒ぎがあればアタシも知ってるハズよ? 禁呪によって鼠の魔物が大発生し病魔を振り撒いた事件ってのは過去にもあったけど、その鼠は大きさ自体は普通だったみたいだし、そもそも病魔を振りまく事が目的なら、大きさより数って考えで魔物を作ると思うのよね……」

 確かにそうだよな。

 あんなデカい鼠で病魔を媒介って、普通に考えて効率悪そうだしさ……つまり、過去にラッペトスが大きな騒ぎを起こしたことは無い、か。

 と、唐突に全身の毛が逆立つ。

 全身で、嫌な気配をバリバリ感じるんだ。

「シャドウ……どうしたの?」

 そりゃまぁ尻尾の毛まで逆立ててりゃ、キーアリーハだって只事じゃないと思うだろうよ。

「なんかワカンネェけど、嫌な気配をバリバリ感じる……」

「嫌な気配って、なに?」

 それが判れば説明してるっつーのっ!

 キーアリーハの問いに、内心そう思いつつ周囲の気配を探る。

 気配は広範囲に渡っていた……なんだ、この気配?

「なるほど」

 キーアリーハも気配に気付き、そして納得したようだ。

「周りの影から気配を感じるが、生き物の気配じゃない」

 とりあえず、オレの持ってる情報をキーアリーハに提示する。が、既に何かは察してる感じだな。

「たぶん、ラッペトスを放った術士の仕業だと思う……術くらべかしら?」

 前半はオレに。そして後半は影に向かっての言葉である。

 キーアリーハの言葉に、影の中から真っ黒な人形が出てくる……間違いなく影法師の操り人形だろう。

「左様。魔力を喰らうラッペトスを魔力で構築した影人形で倒す……並の影使いには出来ぬことだ。これほどの術士が生徒にいたとはな……その技量を見極めたい」

 影人形が言葉を発した。

 でも、この影人形……キーアリーハの作った兵士や猫と比べて造形が甘いぞ?

 シルクハットらしきものを被っているようにも見えるが、それ以外は、のっぺりとした人型で服を着ているようにも見えない……もし着ているとすれば、全身タイツの類だろう。

 あと発する気配から察してコイツは、さして強くは無いと思う。

 が、それ以上の気配を、周囲の影から感じるんだ。たぶん本命は、まだ影の中だろう。

「何の目的で?」

 オレはキーアリーハの肩から飛び降りて問う。

 が、返事は無かった。

 昨晩、キーアリーハの放った影法師とラッペトスの戦いを見てて感じてたんだが、影法師ってオレと相性がいいと思うんだよな。

 タイマン張ってラッペトスに勝って見せる自信はないが、キーアリーハの影法師の兵士相手なら、一対一ならオレも勝てる自信はある。

 根拠?

 そんなモンは無いが、オレは影法師の兵士に負けないって妙な自信はあるんだ。

 相手が五体でも、上手く分散させ連携を断ち切れば勝機はあるんじゃないかな?

「目的? ……そうか、私は遊びたかったんだ。遊び相手が欲しかったんだ……」

 その言葉に、キーアリーハが怒りの感情を持ったようだ。

 オレとキーアリーハは、どっかで繋がってるんだろうね。キーアリーハの発する感情が、オレにも伝わってくるんだ。

 だから、オレが動いた。

「ご主人様は、嫌だってよ?」

 そう言い、長い一振りの刃物をイメージしつつ手……前足の爪を振るった。大鼠の時は爪の本数に合わせ五本の刃を形成したが、今回は一本に絞り、その分長さを伸ばしたってワケだ。

 まるで、水を切るような手応えだったが、影法師は真っ二つに切断され、そして掻き消える。

「たかが使い魔……そう思っていたが、異界から呼び寄せた魂が入っているのだったな。魔力でもって、爪ではなく刃を作り出すか。さては貴様、ゲーマーかラノベの愛読者か?」

 影の中の気配が声を発した。

 なんかコイツ……ラッペトスや影人形を送り込んだ奴だが、どうもオレの同類っぽいな。この世界には恐らく無いであろう、ゲームやラノベの事を知ってるみたいだ。

 つか、どうやってオレを同類と見抜きやがったんだか……って、電話やメールって単語を、大鼠を介しての会話で使っちまったっけな。

 ちなみにオレ。ゲームやってたりラノベ読んでたりって記憶はあるんだけど、受験生だった手前、そこまで入れ込んではいなかったぞ?

「ゲームやったりラノベを読んだりって記憶はあるが、オレって、そこまでは入れ込んで無かったと思うんだがね?」

「いとも容易く、この世界に馴染んでみせた……異世界転移や転生に憧れた中二病の小童でもなければ錯乱しているはずだ」

 ああ、そりゃそうだな。

 でも俺は、記憶が欠落してるからか、そこまで混乱してないんだよな。

 そもそも、自分が受験生だったって記憶ぐらいしかないんだ。勉強した内容は、しっかり記憶に残っている。でも、自分が何者だったかに関する記憶は全く残ってない。

 おかげさまで、元の世界に帰りたいとか、そんな気持ちもあまりないんだ。

 だが、それをコイツに教えてやる義理は無い。

「ちなみに、アンタの好きなゲームやラノベは何だい?」

 オレの問いかけに、影の中の気配が動く。

 それまで、具体的な形をとらず影に溶け込んでいたようだが、今度はしっかりとした形をとったようだ。

「エイリアンじゃん……」

 その姿見て、オレは思わず呟いてしまう。

 ちなみにエイリアンってのは、英語で外国人って意味を持つ形容詞だったりする。宇宙人も外国人って言えなくもないわけで、このエイリアンに該当するわけだ。

 映画なんかじゃ敵対的な宇宙人や宇宙生物をエイリアンなんて呼称したりしてて……まあ、要は映画で見た事のある宇宙生物の姿をしていたわけだ。

 でも、造形が色々と雑だな……

 オレの呟きに、エイリアンは嬉しげに頷く。

 コイツとは色々と話してみたいが……なんかオレと性格が合わなさそうな気がする。

 そんな事を思っていると、キーアリーハがオレを抱き上げた。

「アタシは……アナタの遊びになんか付き合う気はない!」

 そう言い放つと、翳した左手から強烈な光を放った。

 その光を浴び、影人形のエイリアンは掻き消される。

 影は光で消すことができる。

 そしてキーアリーハは影使い……影人形など怖くは無いって事か。

 なら、術くらべぐらい、付き合ってやれば良かったのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ