66・トンボ返り?
オレがサー君を使って焼いたフレンチトーストと、キーアリーハが焼いたフレンチトーストは遜色の無い焼き上がりである。
使った材料の量も同じだから味も似たようなもんだろ。
「どっちも、美味しい。けど、おんなじ味ねぇ……」
まあ、そうだろうよ。
そう思ったから、キーアリーハに言ってやる。
「そりゃ同じ材料使った同じ料理だからな」
オレも食ってみるが、オレの知ってるフレンチトーストと、ほぼ同じ味だった。ちなみに山羊の乳とガチョウの卵だからといって味の違いは特に感じなかったな?
ちなみに猫は甘さを感じる味覚がないらしいが、オレには甘さが判るな……厳密な意味で猫じゃないんだし当然か。
「卵を全部使ったら、結構な量になっちゃったわね?」
ガチョウの卵で一回り大きかったからな。
「じゃ、帰ってきた父ちゃんとお茶会でもするか?」
オレの言葉に露骨なまでに嫌な顔をしてくれますねキーアリーハさん?
「あたし、お茶会はシャドウだけとしたい」
「オレは、こんなに食わねぇ……つうか食えねぇ」
キーアリーハの言葉に、そう言ってやる。
今のオレは、のっぺらぼうな影法師、サー君の肩に乗った可愛い真っ黒な子猫なワケよ。そんな子猫が人間の一人前以上のフレンチトーストを完食できますか?
「また、人型になれば食べれるでしょ? ウィルも言ってたし、人間の姿で生活を続ければ人間の身体も手に入るって言ってたしさ?」
人型化すると父ちゃんからの風当たりが強くなりそうなんで嫌。
「今のオレって、人型になる必要性を感じてないのよ?」
「最初は人間の姿が良いとか言ってたのに……」
言ったような気はせんでもない……が、今は猫のままで良いや。
「猫が馴染んじまったよ……ケツを拭かなくて良いのは楽で良い」
半分、冗談だけどさ。
「お風呂入ろっか……?」
キーアリーハに言われ、全身の毛が逆立っちまったいっ!
「オレ、風呂嫌いなんだけどっ!!」
それはキーアリーハも知ってるはずだ。
「とりあえず、学園に籍がある間は猫のままの方が良いかな?」
毛を逆立てたオレを見て、キーアリーハは笑いながら言ってくれる。
まあ、人形で姿が固定されたら、学園からオレが追い出されそうだしね。
さて、父ちゃんは城に戻って、すぐにキーアリーハの居る厨房を目指したようだ。
突然、扉が開いたと思いきや、父ちゃんの登場である……まあ、この城の主なんだし聞けば皆、キーアリーハの居場所を教えるわね。
「ここに居たのか、キーアリーハ!」
「一緒にお茶するため、簡単な菓子を作ったぜい?」
父ちゃんの第一声に応える形でオレは言ってやる。
そんなオレをキーアリーハはサー君の肩から、その手に抱え、そして力一杯、抱き締めてくれますよ……いや、痛いっす。
「キーアリーハが私のために菓子を焼いてくれるとは……」
父ちゃん……凄く感激してくれてますね?
「あと、父ちゃんへの土産。アレ回収して渡さないと」
オレは、ボソッとキーアリーハに耳打ちする。
「それより、シャドウの首輪を回収したいわよ……」
同じくキーアリーハも耳打ちしてくれる……が、お茶会への流れは変える気はないようだ。
さすがに、この場での掌返しをできるほど、キーアリーハは父ちゃんに対し非道にはなれないらしい……つまり、父ちゃんは嫌いじゃないんだな。
「王国の学園に出すのは不安だったが……こんな良い娘になって帰って来てくれるとは」
キーアリーハ……父ちゃんへの塩対応は昔からかい。けど、父ちゃんが嫌いって感じではなさげだ。
「学園で自分を磨くことができましたので……このシャドウも言ってくれましたが、私は一人と一匹で一人前だとか。ファミリアを召喚することで、私も、ようやく一人前になれそうです」
アドリブが上手ですね?
あと、怒ってますよね……オレを抱き締める腕の力が強すぎて痛いんですけど?
「ファミリアは召喚者の半身とも言える存在……疑ってはいたが、確かに半身のようだ」
いや、オレは未だに疑ってますけどね? ……そう、父ちゃんの言葉に思ったりする。
「お茶を済ませたら、私は学園に戻ります……卒業を以て戻って参りますので、成長した私に期待してください」
えー? オレってまだ、キーアリーハの実家でもある公国を見て回りたいんだけど?
腕の中で暴れ不満を伝えるが、キーアリーハの考えは変わらないっぽい。
ここに居た方が色々と安全だと思うけど、キーアリーハには窮屈なんだろう。
それに今のキーアリーハなら、学園で折り合いが良くなかったソーノベンが怖くないってのが最大の理由かも。
あと、王都や学園の調査をしてるガウスさん……あのストーカーが何も言わないので交戦はしてないと思うけど、ちと心配だわね。
まあ、オレの飼い猫生活は、まだまだ続くっぽいんで、この公国の探索は後回しでも良いか……




