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ファミリア  作者: あさま勲


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65・飼い猫生活への布石

 キーアリーハに連れられ厨房ちゅうぼうへとたどり着いた。

 冷蔵室……つうか氷の精霊を使った氷室ひむろがあるじゃん。

 そこに色んな生鮮食品が保管されてる……出入り口近くで氷点下まで冷えない場所にね。

 当然、卵に牛乳バターもあったぜ……卵がオレの見慣れたサイズより一回りデカイ。鶏の卵じゃないな? って事は、牛乳だと思ったけど、コレって牛乳ではないかも……まあ、いいやね。

 ちなみに砂糖は茶褐色……いわゆる三温糖っぽいな。

 白い砂糖は精製が必要……技術はあるかもしれんけど、上白糖やグラニュー糖レベルまで精製する必要性を、ここの連中は感じてないのかもしれんね。

 料理人は居るが、キーアリーハの顔を見て場所を空けてくれた。

「さすがに食パンはないか……」

 でかい饅頭みたいな丸いパンならあるんで、それを適当な厚さに切って使えば良いだろう。材料面では問題ないな。

「食パン……食べるパンって意味よね? シャドウの居た世界には食べないパンが主流なの?」

 合体状態でオレの記憶や知識を中途半端に得たキーアリーハの言葉である。

 そーいや、食パンって何で食パンって呼ぶんだろうね?

 ……思い出したわ。主食用パンの略称で菓子パンと区別するための呼称だって説が有力だとか。他にも諸説あって、コレが正しいかは何とも言えんけどね。

 日本でパンが普及し始めた頃は餡パンみたいな菓子パンが主流で、主食用のパンと区別するための呼称だって説ね?

「食わねーパンも一応あるけどさ……主食用のパンって意味だよ」

 木炭デッサンじゃ食パンを消ゴム代わりに使うけど……アレって食べるパンを流用してたんだよな?

 パン屋が看板代わりに展示用のオブジェみたいなパンを作ったりするが、アレは食えても食わないと思う……味より日保ちを重視して作ってるだろうしさ。

「パンは最初から主食でしょ?」

 いや、キーアリーハの世界つうか国では、そうなのかも知れんけどさ……

「オレの居た世界……じゃなくて国じゃ、パンは主食じゃなくて甘い菓子みたいなパンが多いのよ。で、主食は米ね?」

「なるほど……パンがなければケーキを食べればって事ね?」

 いや、主食は米だし全然違うぞ? ……説明する気はないけどな。

「って事は、今からオレが作るのはケーキになるのかね?」

 そう言って、オレは影からサー君を呼び出す……今回は合体は無しで料理するぜ。

 厨房の料理人の様子から察し、キーアリーハなら厨房の食材を使っても問題ないっぽい……まあ、ガチな高級食材に関してはストップ入るだろうけどさ。

「じゃ、キーアリーハ……一緒に作ろうか?」

 サー君の肩に乗ってキーアリーハに声を掛ける。

 文句を言われるかと思ったが、キーアリーハは嬉しげに従ってくれた。

 既に薄切りされたパンがあったんで、それを使わせてもらう……直径三十センチほどのパンを、二センチほどの厚さで縦に切ってあったんだ。

 中央に近い大きい部分は、キーアリーハや父ちゃんといった主人連中が食い、端の方は使用人連中に回されるんだろう……それを考えると四角い食パンってのは大発明だったのかも知れんね。

「じゃあ、卵をボウルに割り入れ、牛乳と砂糖をこんな感じに混ぜて……」

「それ、牛じゃなくて山羊の乳よ?」

 いきなり突っ込みを食らってしまう……まあ、問題ないと思うが。

「って事は、コレって鶏の卵じゃない?」

「……ガチョウの卵」

 ガチョウの卵……初めて見たぜ。そうか、ガチョウの卵は鶏の卵より一回り大きいのか。

「山羊の乳もガチョウの卵も、初めて見るな……」

「どんな田舎の出なんだか……」

 感心したように呟くオレに、キーアリーハは言ってくれる……いや、オレの居た世界の方が文明進んでるし、住んでた場所も都会だって断言できるぞ?

「オレの居た国じゃ、卵は鶏で乳は牛ばっかりなのよ……まあ、でも田舎じゃないぞ?」

 オレとキーアリーハじゃ、文明や文化を判断する物差しが違いすぎるんで話が噛み合わないのは仕方ないわね。

「うん……一家に一つ。氷の精霊を使った小さな氷室を持ってるって……凄いわね」

 キーアリーハは何かを思い出したかのように言ってくれたよ。

 そりゃ冷蔵庫や。

 合体時に得たオレの記憶から、冷蔵庫を知ったっぽいな。

「で、火は……」

釜戸かまどに炭火が起してあるので、それを使ってください」

 厨房の料理人に言われ、オレはようやく気づく。

 ここって室温がずいぶん高い……つまり火を使っていたんだと。

 薪を燃やすと煤が出て大変だが、炭火なら煤は少なくなる……ガスコンロに近い感覚で後始末が出来るわけだ。

 コレならワリと簡単に焼けるわね。

 たぶん、オレ達が作ろうとしている料理には、大火力は不要と判断したのだろう……釜戸かまどに掛けられている大鍋を退けてくれたよ。

「いや、使ってる釜戸かまどけるって、料理に影響でないか?」

「もう火は通ってるので大丈夫です……そう時間の掛かる料理じゃありませんよね?」

 一から火起こしするよか手間は減るけど……いや、後始末する側の手間も減るな。たぶん、キーアリーハは投げっぱなしジャーマン・スープレックスだろうから後片付けはしないと思う。オレも、したくないしさ……

 なら、チャチャっと済ませちまおうかい。

「じゃ、オレが先に焼くから見ていてくれ」

 炭火は遠赤外線……上に黒いフライパンを置くと、すぐに熱くなる。

 バターを一欠け落とし溶け方から温度を察し、混ぜた材料にひたしたパンを焼く。

 オレが一番不安だった、薪の火による調理じゃないんで上手く焼けたよ。

 キーアリーハも、アレで結構器用なんで上手く焼けると思う……卵が大きかったんで父ちゃんの分もあるだろ。

 オレが、この世界でお気楽極楽に飼い猫ライフをエンジョイするには、父ちゃんを懐柔する必要がある。

 この手の工作を、地道に続けていけば父ちゃんのオレに対する風当たりも変わってくるだろ。

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