64・以心伝心
背中で受け止めたキーアリーハを酷く重たく感じる。
コレは別にキーアリーハが太ったとか、物理的に重たくなったからってワケじゃないって事にはオレだって気づいている。
魔力不足でオレが弱くなってるってのが最大の理由だろう。だって魔力の大半をキーアリーハに置いてきちまったんだぜ?
キーアリーハは、オレの首に腕を回し強くしがみついてくる。
力が漲ってくるんで充電してくれているようだ……おかげで、もうキーアリーハは重たく感じない。
「ゴメン……シャドウを食べちゃうところだった」
なるほど。キーアリーハにも、あの合体状態がマズイ状況だってのは理解できてるわけね。
「オレが前にファルコンを食っちまったみたいにか?」
キーアリーハはオレの首筋に顔を埋めながら頷いたようだ。
「ファルコンとか、アタシが作る影法師は、ほぼ魔力だけだし肝心な要素はアタシの中にあるからシャドウが食べちゃっても問題はないけど、シャドウの肝心な部分はシャドウの中にある……そこまで食べちゃうと、もうシャドウは消えて居なくなっちゃう」
いや、食べるっつーか同化じゃね?
「そうなると、記憶人格がキーアリーハと同化しちまうって事なのかね?」
再度、キーアリーハは頷いたようだ。
キーアリーハも、オレと文字通り一心同体になりたいってワケじゃないんだな……って当たり前か。
いや、自分の声で話せるってのは良いもんだね……合体状態の時は、キーアリーハに主導権があったんで、オレはキーアリーハに喋らせて貰ってるって状況に近かったんだ。
オレは羽ばたくのを止め、滑空状態に移る。キーアリーハが身構えたのが気配で伝わってくる……つまり、オレが何をやろうとしてるのか察してくれてるってワケだ。
「風の子らよ! その力でもって我を高所へ!」
オレの声に、風の小精霊達は一応は従ってくれた……近くに居る連中だけな。
気持ち高度は上げられたが、合体状態の時とは雲泥の差だ。
どうも、オレの声が遠くの連中には届いてないっぽいな……
「アタシが、シャドウの声を拡大してあげる……もう一回、やってみて?」
キーアリーハが言ってくれるんで、オレは再挑戦する。
「風の子らよ! その力でもって我等を高所へっ!」
下からの強烈な突風。それを両翼で受け止めて、オレは一気に高度を上げた。
「我等……ね?」
どこか楽しげにキーアリーハは言ってくれるよ。
「一人と一匹で一人前……それで良いんじゃね?」
オレは言ってやるが、キーアリーハは大きく息を吸い込む……魔法を使う気だな?
「風の子らよ! その力でもって我等を高所へっ!」
強烈な突風……じゃなくて乱気流だよコレ!
乱気流に踊らされ上下が激しく入れ替わる。オレの両翼から羽が抜け落ち舞い散る……が、大容量バッテリーのキーアリーハから魔力の供給が受けられるんで特に問題はないぜ!
キーアリーハは、その手足たけじゃなく影法師の触手まで動員してオレの身体にしがみつく……けど、悲鳴を上げつつも笑ってるね?
まあ、十分な高度はあるんで墜落する前に体勢は立直せるけどさ……つか、高度は別に落ちちゃいないな。
ようやく体勢を立て直すと、キーアリーハが可愛らしくクシャミをした。
寒いのか、オレに密着するかのようにしがみ付いてくる。
「ねぇ、シャドウ。合体中にシャドウの記憶に少し触れたんだけど、合体してる時のアタシ達にソックリな娘に何か作ってたけど……」
「フレンチトーストな……材料が揃えば作ってやるよ?」
「作ってくれるのっ!? じゃなくて、あの娘って誰?」
うん、それはオレも疑問だったりする。
「誰だろうなぁ……たぶん、召喚される前のオレとは接点が無いと思うんだが。つまり、会った事はない?」
単に忘れてるだけって可能性も無きにしもあらずだが。
「同じ部屋にいたし、付き合ってたの?」
いや知らんがな。
「ワカンネ」
だからオレは投げ遣りにこたえる。
「会えないで寂しい?」
いや別に。
「髪と目の色は違うけど、よく似たお嬢様に捕まっちまったんで……つか、そっちのお嬢様が気がかりなんで元の世界には帰りたくないかな?」
まあ、元の世界での記憶の大半が欠落してるってのが、最大の原因なワケだけどさ……なんで欠落してるんだろね?
ガウスさんもウィル君も、あのストーカーも前の世界の記憶を持ってるのにさ……
オレって、いったい何者だったんだろうね?
まあ、別に知らなくとも問題はない……つか、知っちまった方が色々悩みそうなんで知らんで済ませちまいたいってのが本音だ。
オレは、滑空状態のまま、ゆっくりと高度を下げてゆく。このまま父ちゃん家に帰るつもりだが、キーアリーハにはお伺いは立てない。
まあ、別の場所に行きたいとか言われたら従うけどさ。
でも、キーアリーハは何も言わなかった……から直帰したよ。
おかげさまで父ちゃん達より先に王城に着いちまったい。
「ねぇ、シャドウ。フレンチトーストの材料って何?」
付いた途端、キーアリーハが嬉しげに聞いてくる……つまり、作れって事ですかい。
……いや、構わんけどね?
いわゆる食パンは無いかもしれんが他のパンでも代用できる。卵砂糖牛乳は、公爵家なら普通に持ってるだろ……問題は、ガスコンロの無い調理場でオレにフレンチトーストが焼けるかって事だわね?




