57・初対面
無数の小さな魔物の気配。ラッペトスやマンティコア、そしてゴーレムと発する魔法の気配がソックリと来てる……まあ、あのストーカーの仕込みだろう。
ここで忍び込ませた魔物が仕掛けてきた場合、街が戦場になっちまうんでエレンスゲは動けない……つか、オレ達も動きづらいんだよな。キーアリーハも派手な魔法をブチかまし辛いだろうしさ。
そっか。街から出りゃ良いじゃんかよ!
街の外ならエレンスゲも、そう気を遣わないで暴れられるもんな。
「街から出る事で魔物連中を誘いだし、エレンスゲの手を借りて片しちまおうぜ?」
オレは言うが、キーアリーハは難しい顔のままだ。
「エレンスゲが大っぴらに力を振るうような事態って、後で王国から色々と言われるからエレンスゲも簡単には動けないのよ……」
まあ……そうだろうなぁ。
エレンスゲって極めて強力な戦力なワケだけど、王国と公国がいがみ合ってた時期も、恐らく介入なんてしてないはずだ。
じゃなきゃ、ブランベルクが城塞都市になってることの説明が付かねぇよ?
「じゃあ、どうするよ? って、ここだと大立回りできないから、やっぱ街の外だよな?」
「お父様に頼れば……でも、やっぱり街に被害が出るわね」
キーアリーハの父ちゃんも魔法使いっぽい気配はあったなぁ……魔法使いってのは、やっぱ遺伝的要素が強いのかねぇ?
いや、それより、この場を切り抜ける必要があるな。キーアリーハとしても、街に被害は出したくないみたいだし、とりあえず飛んで場所を変えるか。
「んじゃ、決まりだな?」
そう言うと、オレは翼大猫モードに変身する……頭を尻尾にする感じに変身したんで首輪は無事だぜ。しかも身に付けたままだ。
……つまり、尻尾やケツの部分が頭や顔になったわけか。なんかイヤンな感じだぜ。
「アタシのあげた首輪は?」
キーアリーハの問いに、尻尾の先端に巻き付いた首輪でキーアリーハの頬を撫でてやる。
ちなみに尻尾の太さを調整してるんで、尻尾をブッた切られない限り落とすことはないぜ?
「じゃ、連中を街の外に誘導して始末しますか……」
オレの言葉に、キーアリーハが黙って背に跨がる。
……けど、何を考えてやがるんだか。戦力の逐次投入なんて悪手中の悪手だぜ?
殺られたからと言って次々と中途半端な戦力を投入してるわけだ……そうやって手札を減らし徐々にジリ貧となって最後には親玉がってのが特撮戦隊物のお約束だったっけ。
そんな特撮趣味を行動に反映させてるのかねぇ?
意図的だったら……ストーカーって特撮ファンか? いや、自前の手札を使い潰してまで特撮的演出を考えたりするか?
……まあ、オレもキーアリーハも、あのストーカーを理解する気なんて無いんで、どーでも良いやね。
そう考え、オレは大地を蹴って飛び立った。
しばらく飛んで、オレは違和感に気づく。無論、キーアリーハも気づいたようだ。
……追ってくるって気配はねぇな?
つか、街に忍ばせた魔物って、実は飛べないんじゃ?
「シャドウも気づいたみたいだけど……あの魔物って飛べないんじゃ?」
オレが旋回を始めたあたりでキーアリーハが口を開く。
「飛べても飛ばないって可能性もあるんジャマイカ?」
「ジャマイカ?」
……オレの言葉遊びなんだし普通に流してくれよ?
そんな心の叫びを無視し、キーアリーハはオレの脳内検索をやってくれる……頭ん中を引っ掻き回されてる感じで気持ち悪いんだけどなぁ。まぁ、説明の手間は省けるんで時間は節約できるけどさ。
「中南米の島国。……でも、シャドウはジャマイカに行った経験なんて全く無い?」
いや、転移前のオレって尾張の出で、あんま余所の国に行ったこと無いのよ?
修学旅行が京都と九州で……東京にも行ったことあったような? あと家族旅行かで北海道も経験あったっけ……日本国外に出た経験皆無っぽいな、オレ。
「オマエに喚び出される前の記憶は大半無くしてるけど、オレはジャマイカに行った経験はないって断言できるぜ!」
自信満々なオレの言葉に、キーアリーハはオレの脳天に拳骨を落としてくれるよ……全然、痛くない。別に痛くしてくれても良いのに……
「だが、私はあるぞ?」
唐突に言われ、オレは面食らった。
恐らく風の精霊を使って声を届けているんだろうが、アレって特殊な糸電話だぞ?
つまり、比較的間近に、あのストーカーが居るってワケだ。
「わざわざ、オレ達のトコロまで出張ってくれるなんて……寂しがりなんなだオマエ?」
このストーカー……キーアリーハやガウスさんも嫌ってたけど、こいつ、オレも受け付けねぇや。
「目障りなハエを始末しに来ただけだ……初めて会った同郷人ゆえ仲間にしてやろうと思ったが、差し伸べた手を叩くとはな」
……オマエから手を差し伸べて貰ったなんて認識は一切無いんだけど?
つか、オレとしても距離を取るつもりはあるんで、互いに非干渉って感じで落とし処は付けられそうだけどなぁ?
彼方に……つうか、互いに結構な速度で飛んでるんで距離はガンガンつまっていくんだが、巨大なコウモリに乗った人影が見える。アレがストーカーご本人だと思う……でも、ひょっことしたら遠隔操作の替え玉かも。
「オレとご主人様は、公国で幸せに暮らすからアンタと距離は取れるし互いに非干渉を貫けると思うんだが?」
キーアリーハが、再度オレの脳天に拳骨を落とす……今度は普通に痛い。
けど、オレやストーカーに反論しないってことは、全くの反対じゃないって言えるとオレは判断した。つか、キーアリーハさん、赤くなってますね? 体温が高くなってるってのはオレにも判りますよ?
「私が一人、異世界で苦しんでいるときに……貴様は、その美少女と組づ解れつをするつもりなのかっ!?」
いや、何故そーなる?
オレって猫モードの時は性欲無くなるのよ。人間モードの時も性欲持たないよう竿と玉は無くして対処したりと気を遣ってるんだぞ? ……うん、キーアリーハが可愛い子だってのはだってのは猫モードのオレも認めるけどさ。
「ほら、あのストーカーもアタシを美少女って言ってくれてるじゃないっ! なんでシャドウは何もしないのっ!?」
そりゃ、オレの平穏な飼い猫生活の為ですがな……猫状態ならキーアリーハは単なる飼い主認識で終わるしさ。
オレは何も言わなかったが、キーアリーハの言葉にストーカーはブチ切れたっぽい。
気配を感じ、オレは急旋回でUターンする……が、一気にストーかとの距離が詰まっちゃったよ。
「もう、貴様を生かしておく義理も義務もないっ!!」
いや、そりゃ最初から、そーでしょうよ……内心そう思うが、この言葉からキーアリーハはターゲットに入ってないっぽいな?
ここでオレが殺られたらキーアリーハは墜落死……ファルコン喚んで逃げられるかなぁ?
逃がす気があれば問題ないけど、そこまで気が回らないかも……って、キーアリーハを美少女って言いましたよねっ!?
いや、ここはガチで逃げないとキーアリーハもヤバいじゃんかよっ!!
本気で逃走モードにオレは入ったわけだけど……背後からオレは強烈な光を浴びせられた。
キーアリーハも、あのストーカーの影法師を光で掻き消したけど……それと同じ理屈と魔法で、あのストーカーはオレを掻き消そうって魂胆らしい。
相手を構成する魔力以上で作った光を浴びせれば影法師は消せるらしく、その方法でキーアリーハはストーカーの影法師を掻き消したと。
オレが消えるのは百億万歩譲って許すが、ここでオレが消えたらキーアリーハが落っこちちまうじゃんかよっ!?
で、あのストーカーはキーアリーハを美少女とか口走って激怒してるんで……あのストーカーに回収されても色んな意味でヤバ気なふいんき。
……ってか、オレの身体が消えていきますがな。キーアリーハがしがみついて影になった部分で身体を再構築するけど仔猫状態。
これじゃキーアリーハを乗せて飛べねぇじゃん!
再度、巨大化したら、また光を浴びせられるし……地上は森林だし枝葉の下なら何とか行けるか?




