56・目論見は外れ
楽器がメインで他に木工や革細工とかもやってる工房みたいで金管楽器も置いてあるから金属加工もできそう……そーいや三つの音叉を社章にしてる大手企業も元は楽器の輸入販売業者だったっけ。
その関係で修理もするようになり、技術が身に付き楽器製作に至るようになったとか。
楽器作りには色んな技術が要るわけで、色んな楽器を扱うことで多面的に高い技術が習得できてるんだろう。
で、キーアリーハ自身は楽器には興味無さ気なふいんき。
とりあえず簡単な物をってオレが要求したんで革細工やってるけど……キーアリーハさん。それって手作りって言って良いんですかい?
ざざっと簡単に作り方を習っただけで、オレもキーアリーハも工具を使わず革細工に挑んでる……影触手がオレ達の工具代わりね。
オレは一見、女状態で人型化した両手も使ってるけど、キーアリーハは影触手だけで革紐を編んで作る首輪を早々に完成させちまったよ。
触手の先端部分に熱を持たせることもできるみたいで焼き印でSHADOWなんて書き込んでくれてるよ……普通に無茶苦茶、器用じゃねぇかい!
対し、オレは革紐を編んで作る腕輪である……キーアリーハの作った首輪は首の太さに合わせて調整でき、かつ脱着可能だがオレの作る腕輪には、そんな面倒臭いギミックは組み込んでない……のになんで先にキーアリーハが完成させちまうのよっ!?
オレの腕輪にはない金属パーツとか使ってるのにさ。
「オレってさ、身体を自在に変化させられるんだけど、首輪着けたら身体を変化させるとき困りそう」
SHADOWの文字からオレ用だと判断したわけだ……が、首輪なんてイランぞ?
つか、この世界の文字ってアルファベットなの?
「うん、作ってみて、そー思った……人間姿の時に腕輪として使って?」
腕輪もイランなぁ……と、口にするわけにも行くめえから返事に困るわ。
「このシャドウって読める文字って、一般的な文字なん?」
オレの言葉に、キーアリーハは驚いたような表情を浮かべる。
「魔法使いでもないのにカミサマが作った魔法文字が読めるのっ!?」
……魔法文字ですかい。この世界のカミサマ連中は、絶対に地球人だわ。
なんかカミサマってロクでもない連中って印象が強まるな。
そーいや多神教のカミサマ自体、性格破綻者やトラブルメーカーが多かったっけ。
まあ、いいやね。オレがカミサマを拝むことはなさそうだしさ。
「父ちゃん用の細工物は?」
「今から作る」
そう言うと、影触手が自動工作機械のように素早く動き、瞬く間に革細工の小物入れを作り上げた。
「なんで、オレより後から始めて、さらに複雑なものを完成させられるの?」
女声の違和感……凄まじく強いな。自分でも気持ち悪いと喋ってて思う。
「忘れちゃった? アタシは未来の大魔導師よ?」
オレの問いに、キーアリーハは胸を張って言ってくれるよ……いや、召喚されたときは本気にしてなかったけど、ガチで大魔導師になりそうだよ。
影触手のお陰で、両手以外にも手を使えるんで便利だわ……そんなわけで革紐を編んで作った腕輪をキーアリーハに渡すと、嬉しそうに腕輪を身に付ける。ちと大きめやね。
そしてキーアリーハはオレの手首に首輪を付けてくれる……文字盤のない腕時計みたいだな。
キーアリーハの首輪の方が、普通にクオリティ高いんだけどなぁ。キーアリーハは嬉しそうだけどオレは実のところ嬉しくないなぁ……
「お父様へのお土産もできたし、街に行きましょうか……この小物入れ、お父様に届けておいて?」
「いや、直接渡せよ?」
キーアリーハの言葉に、オレは思わずツッコミを入れる。
「じゃあ、家まで届けて? 帰ったらアタシの手でお父様に渡すからさ」
……まあ、いいやね。とやかくは言うめえ……
内心、オレは頭を抱えつつキーアリーハと工房を出た。そして、身体を仔猫モードへと変化させる。
まず、髪が短くなり胸が引っ込んだ男の姿になってから猫状態になるのね?
……って事は、オレって魂レベルでは男って考えて良いわけか。ちょっと安心したわ。
腕輪状態だった首輪は、しっかり首の位置に収まってますよ……ぶっちゃけオレには脳ミソないみたいだし変身の仕方を工夫すれば首輪は壊したり失くしたりせずにすみそうだわ。
そして工房の外に出た途端、オレは無数の嫌な気配に気づいたわけだ。
エレンスゲが居るから大丈夫。そう高を括ってたけど甘かったわ……たぶん、いや絶対に、この状況じゃエレンスゲは動けねぇぞ?
小さな魔物の気配が周囲から無数に感じられる。コイツらをどうにかするためにエレンスゲが動いたら街がエライ事になるぜ?
「コレだけの魔物。どうやって街まで連れてきたと思う?」
オレの問いに、キーアリーハは難しい顔をする。
「王国との仲はお祖父様やお父様が家臣になった段階で良好……だから露骨に剣呑な物を持ち込まない限り咎められる事はない。上手く気配を消した上で大荷物を持ち込む形で荷物に忍ばせれば一緒に連れ込めると思う」
ほう……所謂、トロイの木馬ですかい。
いや、トロイの木馬は相手方の軍隊が持ってきた大きな木馬を戦利品として持ち帰った結果、その中に隠れてた兵によって内側からって話なんだけどさ。
でも、気づかれない内に自軍の兵を相手の内懐にって意味ではコンピューター・ウィルスのトロイの木馬とは意味合い的には合致してると思う。
「そんな大荷物、頻繁に持ち込まれてるか?」
オレは訪ねる。この質問はキーアリーハに入れる探りでもあったりする。
「なワケ無いじゃん。だから調べれば犯人はスグ判る……ここでの騒動で、調べられる余力が無くならなければね?」
パープリンなお嬢様かと思いきや、ちゃんと状況が理解できてるじゃん。それでこそ、オレのご主人様だぜ!
キーアリーハは、オレを大当たりの使い魔だって言ってくれたけど、キーアリーハもオレにとって大当たりなご主人様だ。
だから、この状況を上手く乗りきって、オレの飼い猫ライフを充実させたいわけだけど……乗り切れるんだろうかね?




