55・変幻自在
ウィル君と一緒の方が戦力的にも安心ではあるが、ここにはエレンスゲって守護神も居るし大丈夫だろ。
オレは、そう気楽に考えてキーアリーハの思考の表層を読み取り……嘘です。キーアリーハがオレが読みやすいよう伝達してくれる思考から察し目的地に向かう。
……どうも食い物に関わる場所じゃないっぽいな?
「なんか工房っぽいけど、オマエって工作とかに興味あるの?」
まだ数日とは言えキーアリーハと寝食を共にしてたんで、そういう趣味のある人間だとは思ってなかったんだよな……ちと意外だわ。
「あるワケ無いじゃん。お父様へのお土産を先に調達しておこうってだけよ?」
……マテコラ。
ここってキーアリーハの父ちゃんが治めてる街だろ? ……いや街つーか国か。
「父ちゃんが王様を務める国で、父ちゃんへの土産物を買うのか?」
「アタシが買ったってだけで、お父様は大喜びしてくれるから大丈夫よ?」
オレの問いにキーアリーハは気楽に答えてくれるよ……やっぱ、父ちゃん可哀想。
やっぱ飛べるってのは移動速度が劇的に速くなるわ。歩いたら一時間以上掛かる町外れでも数分で着いちまう。
オレ達が工房前に着地すると同時に、慌てたように何人かが飛び出してくる……こりゃキーアリーハの出迎えだわ。
「やはり、お姫様でしたか……ファルコンではなく、翼のある猫でしたので出迎えが遅れました」
「アタシが勝手に訪ねてきただけなんで出迎えなんてしなくても良いのに……で、この子は使い魔のシャドウ。アタシのファミリアね」
お姫様……社交界の繋がりもあるだろうから、学園にもキーアリーハの顔を知ってる生徒が居ても不思議じゃなさげなんだが?
いや、学園には貴族階級は、ほとんど居ないっぽいって事をキーアリーハも言ってたっけな。
キーアリーハがオレの背から降りたので、身体を仔猫の大きさに戻す。
「オレのご主人が、父ちゃんのために何か作ってプレゼントしたいんだと。簡単な小物細工の作り方を教えて欲しいんだとさ」
父ちゃんが不憫なんで、キーアリーハお手製の細工物でも作って渡せば喜んでくれそうだと思ったんだ。それでご機嫌取りができないかなとね。
でも、それはキーアリーハの本意じゃないっぽい……面倒臭いんで、やりたくねーってな感情が流れ込んでくる。
とりあえず、オレは自分の影に意識を向ける。
オレの影が、大きくなりつつ人の形に変化すると起き上がる。それと同時に、猫の身体が地面に映る影となって人型になった……新しく作った人型の身体に、オレの意識を移したわけね?
「シャドウって、そんな簡単に人間になれるんだ……」
キーアリーハは感心したように言ってくれるよ……いや、人間型ではあるけど本当に人間になったワケじゃないぞ?
オレの身体を構成するのは魔力で、コレは猫の姿の時と同じわけだしさ。
とりあえず自分の身体を確認するが、黒い服を着た人間姿のようだ……袖から飛び出す剥き身の手までは真っ黒じゃない。触ってみると髪も生えてるし、目鼻口に耳も揃ってる……たぶん、人間だった頃のオレの身体が再現できてると思うんだ。
「ちと確認取りたいんだが、今のオレって前ウィル君が言ってたみたいにエンジン全開状態じゃねぇよな?」
あの状態は強いらしいけど燃費が悪すぎるのよ。魔力切れで身体が維持できなくなると消えちまうみたいで、そうなったらオレがどうなるかは想像も付かない。
キーアリーハはオレの手を握る。
「……大丈夫。前みたいな戦闘モードになってないから、魔力の消費も十分、抑えられてる」
なら大丈夫っぽいな……大容量の外付けバッテリーであるキーアリーハに頼れば、たとえ戦闘モードでも無理は効きそうだけどさ。
「なら、この身体の使い方の練習も兼ねて小物細工でも一緒にやってみましょうかい?」
オレの言葉に、キーアリーハは嬉しそうに頷く……チョロすぎませんかい、ご主人様よう?
人型になっても、今のオレのキーアリーハに対する感情は猫の時と変わらない……だって、この身体には敢えて男にはある股間のアレを付けなかったしさ。
まあ、人の姿になるときは、この一点は気を付けておきましょうか……キーアリーハとの今の主従関係を壊したくないしさ。
「お姫様っ!! 人型……男の姿になれる魂をファミリアとして召喚したんですかっ!?」
キーアリーハの父ちゃん含め、どうもオレが男だってのが問題臭いな? エレンスゲも言ってたっけ……ファミリアとして呼び出された魂が同性ならば一生続く親友。異性ならば限りなく夫婦に近い関係ってさ。
コレ突き詰めると、キーアリーハってオレが居ると普通に行き遅れになりそう……うん、コレに関してはキーアリーハの父ちゃんも文句は言わんだろ。
「じゃあ、こうしようか……」
オレの髪が唐突に長くなると胸も膨らむ……身体を女体化したわけである。ついでに声色も変えられたぜ。
キーアリーハも変幻自在に影法師を作り出せるけど、オレも結構、変幻自在に身体を変えられるっぽい。
「男の姿のままで良いのに……」
キーアリーハは不満そうに言ってくれるけどね……面倒避けるためならオレは女体化だって躊躇なくやってやるぜい?
あと女体化したからといって、特にオレの思考が変わるとかは無さ気な感じ……コレってアレか? 元が男なのに形だけ女になったからなのか?
この辺の問題は身体のホルモンが関係してるらしく……女体化しても表面的なものでしかないんで女性ホルモンが分泌されてないからか?
コレは一度、完全な女体化で試して……みなくて良いやね。




