51・ウィル君・その1
エレンスゲの背に乗ったまま公国の王城へと向かう。
城の隣に、馬鹿デカイ石造りの犬小屋とでも称したくなる建物があるな……アレが、ここでのエレンスゲの寝床なんだろう。高さを稼ぐのが大変みたいで、居室の半分は地下……つまり穴を掘る事で何とかしてるっぽい。
その犬小屋ならぬ竜小屋の前にエレンスゲは降り立った。
降り立つまでの間、キーアリーハの父ちゃんは愛娘たるキーアリーハに、こんな柄の悪い魂なんて認めません……みたいなことを言ってるけど、何故そうなるのかオレにはワケワカメである。
『ファミリアに選ばれる魂は、同性ならば一生続く親友……異性ならば限りなく夫婦に近い関係だ。公王が認めたがらぬのも当然だろう?』
オレの頭ん中にエレンスゲの声が響く。魔法による念話みたいで、オレ以外には聞こえてないっぽいな?
ほう。つまりオレが居る以上、キーアリーハは嫁に行けない……つうか、行かないってことですかい。
……別に構わんのでは?
キーアリーハの父ちゃんって、まだ若いみたいだし子作りだってできるし相手だって簡単に見つかるだろ?
『キーアリーハ姫は、早逝した王妃の生き写しで公王にとって特別な存在だ……後妻から産まれた他の子供達よりな。が、行き遅れどころか行かず後家になるのは、公王にとっては好都合かもしれんな?』
オレの頭ん中を覗いたのか、エレンスゲの声が再び響く。
イヤんっ! オレの頭ん中を覗かないでよっ!
キーアリーハにやられたみたいに、頭ん中を引っ掻き回される感覚がないんで、覗かれてるのが判んないってのが質悪いわ。
『思考の表層に浮かんだ疑問に答えたまでだ……覗き込んだわけではない』
なら良いや……って割りきれるもんでもないんだけどさ。
そしてエレンスゲの意識がウィル君に向けられた気配……けど、ウィル君は、ボーっとキーアリーハを見つめてて気づいてないっぽいな。
ちと、顔が赤いですよウィル君?
股間にアレが生えたお陰で、思考と言うか性的欲求が男になっちゃったんだし仕方ないか。オレも人間化した時はキーアリーハを色っぽいとか思っちゃったしさ……ただーアリーハには、もっと胸は欲しいなぁ。
『ウィルよ。その恋は実らぬし、様々な意味で汝は挫折と落胆に暮れることとなるだろう……ごく、近い将来にな』
何やら変な予言をしてくれますね、エレンスゲさん?
ウィル君に対する言葉みたいだけど、オレにも声は聞こえた……キーアリーハと、その父ちゃん父娘には聞こえてないっぽいけどさ。
「お嬢様に嫌われてるってのは百も承知。だから隙を見て押し倒して……」
開き直ったっぽいウィル君の言葉を聞き、オレはサー君を喚び出してウィル君をぶん殴る……が、読まれてたみたいでサクッと避けられたよ。
オレを見て笑うウィル君を黙殺する……キーアリーハの番猫を真面目に勤めないとなぁ。ガチな戦闘力じゃキーアリーハどころかウィル君にも及んでないけど、警報器としての仕事ぐらいはできないとマジでリストラされかねないしさ。
とりあえず、ウィル君を牽制するためキーアリーハにすり寄る……が、ウィル君じゃなくてキーアリーハの父ちゃんが反応してくれたよ!
「獣の分際で、私の愛娘にすり寄るかっ!?」
いや、あなたの愛娘であることは、しっかり存じております。その虫除けとしての役割を果たそうとしてるんですよオレは?
そうは思えど、それを口にするわけには行かんわね……
「シャドウは、アタシのファミリア……アタシの半身にして真なる盟友。常にアタシと共に歩み、アタシと苦楽を共にする存在。……断じて獣じゃないっ!!」
父ちゃんの言葉に対し、キーアリーハは怒鳴り返す……止めて! オレのために争わないでっ!!
……とは思ったけど、端から見てる分には、この状況って結構楽しいな?
ウィル君も状況を引っ掻き回してることを楽しんでいるふいんき……じゃなくて雰囲気だ。
ぶっちゃけ、オレ自身も楽しんでるワケなんだけどさ……
かくして、オレとウィル君は、キーアリーハから距離を取るべく寝室は隔離されウィル君とオレは同室となったわけである……キーアリーハと同室より、グッスリ眠れそう。
……そうは思ったけどさ、何故にクソ狭い一人部屋なのよ?
いやまあ、オレの体は子猫状態にしたから面積的には問題はないんだけどさ?
まあ、文句を言うほどでもないんでオレもウィル君も何も言わんかったけどね。
他人に干渉されないで睡眠取りたいんで相部屋でも二人部屋のほうが良かったなぁ……そんなことを思いつつ、オレはウィル君の枕元で丸くなる。
ちなみにウィル君だけど、オレの背中や頭は撫ではしたけど過干渉は無さげなふいんき……じゃなくって雰囲気。
オレのご主人様としては、キーアリーハよりウィル君の方が良さげだなぁ。
そんなことを思いつつ、オレは眠りについたわけだ……
が、オレは翌朝早朝、ウィル君の悲鳴で叩き起こされたわけである。




