49・翼よ! あれが実家で良いのかなぁ?
大翼猫状態で舞い上がり……オレは正直、後悔した。
たぶんオレって、ファルコンの姿になれると思うんだよな……ファルコン状態の方が飛行には適した形状と言えるワケだしさ。
ファルコンの姿になると翼の生えた大猫状態に合わせて取り付けられた鞍が合わなくなるし、鞍を付けた状態での変身……つうか変態にも不安が出てくる。
ちなみに変態ってのは生物が世代交代なしで形状を変えるって事だぜ?
昆虫なんかが幼虫からサナギを経て成虫になるってのも立派な変態と言えるってワケ。だからオレの形状変化も変態になると思う……ゲームなんかじゃ進化とか表現されてるけど世代交代を伴わない形態変化ってワケで生物学的には進化って表現は間違ってると思う。
まあ、空力の悪い翼猫状態でも大容量の外付けバッテリーたるキーアリーハが乗ってくれてるんで、魔力切れは気にしないで良さそうなのが救いではある。
ウィル君は……普通に大人しくしてる。さすがに寝てはいないみたいだ。
まあ、鞍を掴んで身体を固定しなきゃダメなんで寝たら普通に落っこちるし、そりゃ寝てられないか。
キーアリーハは……何か不機嫌だな? そんな気配を感じる。
「なんか視線を感じる……」
キーアリーハは呟く。
「オレも感じるなぁ……」
ウィル君も言ってくれるが、オレは何も感じねぇ……ちと、キーアリーハの探知能力を借りてみるか。
「ああ、確かに。でも、ストーカーの気配じゃないな?」
視線が向けられてるのは、キーアリーハやオレじゃなくてウィル君みたいだ……何故にウィル君?
「ウィル……アンタ、誰かの恨みを買うようなことやった?」
「基本はメイドの仕事だけど、時々、旦那様に言われて刀を振るったりするけどさ……こんな感じに監視できるような相手の恨みを買うような大仕事なんてやってないよ?」
ウィル君を『視』てるヤツって、あのストーカーより格がダンチで上な感じ……別に、あのストーカーって弱くないっつうか、かなり強いぞ?
オレのご主人様たるキーアリーハと同格……いや、経験では勝ってそうだからキーアリーハより格上と言える実力が、あのストーカーにはある。それをダンチで超える力を持つって何者っすか?
そんな事を思ってるうちに、視線の気配は消えた。
「ウィル……アンタを転生させたカミサマが意識を向けてくれたのかもね?」
キーアリーハの言葉に、オレは納得した。
この世界に異世界人を転移・転生させることの出来る存在が居るのならば、自身が転移・転生させた存在に興味を持つのは当然だろう。
たぶん同じく転生者である、あのストーカーとウィル君が交戦したことで、ウィル君の事を思い出したから意識を向けたってことだと思う。
「つまり、ウィル君の守護神が新しい力を授けてくれるって可能性もあるとか?」
オレの考えを言ってみるが、ウィル君は考え込んでいるような気配。
「いや……あのカミサマ、オレの話を全然聞かずに話を進めてくれるし、そんな事してくれそうな感じじゃなかったけどなぁ?」
ウィル君。その話を件のカミサマが聴いてたら拙いんでないかい?
いや、気配はバッチリ消えてるし、盗み聞き出来るなら最初から気配を消してやるだろうしで、色んな意味で盗み聞きは腑に落ちないが。
「カミサマに頼んで、転生前の女の体にしてもらったら?」
キーアリーハは冷たい声で言う。
「もう十五年も、この体で生きてきたんだし、この体で良いやとか思ってるんだけどなぁ……せっかく付いたアレも使ってみたいしさ」
ウィル君。その対象をキーアリーハにしてるんなら、色んな意味で危ないぞ?
今のキーアリーハって、影触手の槍を使えるようになったんで接近戦にも対応できるし、何よりウィル君の雇い主の娘さんだぜ?
「使いたい相手とか居るの?」
なんで聞いちゃうかな……オレ?
「……お嬢様」
ボソリとウィル君は言い、次の瞬間、ウィル君の体は宙に舞っていた……キーアリーハが蹴り落としたみたいだけど、なんであんな馬鹿力が出せるのよっ!?
魔法を使った気配はあったけど、ウィル君が使う身体強化の魔法とは発動時の気配が全然違ったぞっ?
気配としては、影法師を呼び出したときに近い感じだ。
疑問はあるが、とりあえずがウィル君を回収しないと洒落にならない……オレは急降下して落下するウィル君を追い抜き、そして背中で受け止める。
ガチで殺す気は無かったようで、キーアリーハはオレの行動には怒ってないみたいだな……
「お嬢様……何も蹴り落とすことはないでしょうにっ!」
ウィル君……ガチで怯えてますね。
そりゃ雇い主の愛娘を怒らせちまったんだし地雷を踏んだ自覚はあるんだろうけどさ。
ウィル君を蹴り落とした一撃……かなり洒落にならない威力があった。身体強化を発動させたウィル君と比べても遜色ない感じだったぜ?
「今、どんな魔法を使ったの?」
キーアリーハに聞いてみる。今のオレが一番、興味があるのは、コレなんだ。
「影法師を体に纏い、その影法師の力でウィルを蹴り飛ばしたの」
ほう……所謂、魔法で作ったパワードスーツですか。
キーアリーハの得意魔法は影法師で、影を実体化させることができて形状は変幻自在。やろうと思えばパワードスーツだって作れるって事だわね。
発想の柔軟性を身に付けたことで、ここ数日でキーアリーハって滅茶苦茶レベルアップしてるじゃん!
このパワードスーツ……オレの身体能力強化と根は同じ感じだ。ただ、やっぱキーアリーハの方が色んな意味でレベルが上。
……オレのキーアリーハの用心棒ポジションって、色んな意味で危うくなってきたなぁ?
そんなこんなしてる内に、街が見えてくる……城壁で囲まれたデカイ街だ。
真ん中には、さらに城壁で囲まれた土地があり、その中央には堀に囲まれた立派な城が建ってる。
……エレベーターあるのかねぇ? あの造りだと上下移動が大変だと思うぞ?
「あの真ん中の城に住んでるの?」
「住んでないわよ? あそこは最後の籠城場所」
ああ、日本のお城の天守閣みたいなモンですかい。
織田信長が安土城天主を建てて、一時期そこに住んでいたとか言われてるけど……エレベーター以前に電気も水道もない時代の高層建築。建物内での上下移動が大変だったってのは想像に難くない。
風呂や飯、トイレの問題もあるな……ブランベルクにあった公爵家の別邸もトイレは壺だったしさ。
けど安土城の天主のおかげで、以後、城を建てるときは天守閣を作るのがブームになっちまったワケだけどさ。
と、洒落にならない魔力の気配。
魔力を感じた方向に視線を向けると……翼を持つ馬鹿デカイ爬虫類。
頭には厳つい角に口には鋭い牙……所謂ドラゴンですな。
けど、ウィル君は慌ててない。キーアリーハは少し緊張気味だが……
頭の上に人が乗ってて……アレってキーアリーハの父ちゃんっぽいな?




