48・公国へ
大猫モードになるな……そうキーアリーハに言われたが大猫状態になることはできた。
まあ、『猫状態で肉体固定されちまっても良いの?』……そう伝えたらサクッと折れてくれたしさ。キーアリーハの操縦方法を見つけ、オレの明るい未来に、また一つ近付いたよ。
……そーいや、オレって明るい未来のために勉強してたんだよな? その明るい未来って具体的に何? ……まあ、いいや。今のオレには必要ない情報だわね。
そして大猫状態になったオレは、肩に意識を集中し翼を生やす。
大猫状態になった上でオレの肩から翼を生えたのを見てメイド衆は驚くが、それも一瞬だけだ……みんなプロなんだな。
その後は動じることもなく、オレの背中に鞍を載せ隙間埋めの毛布なんかも駆使しつつ固定してゆく……この鞍、タンデムサドルって言う二人乗り用の鞍だな。
正確には、普通の鞍の後ろに二人乗り用の鞍を追加でくっつけたみたいな形だな……なぜ、オレにタンデムサドルなんて知識がある? オレって乗馬趣味とかは無いと思うんだけど、実はあったとか?
……オレって、なんか変な知識持ってるけど、コレって大学入試には不要な知識だと思う。なんでこんな知識をオレは持ってるんだろう?
「オレがシャドウさんの手綱を取った方がいいのかな?」
いや、オレには手綱なんか着けんでくれ。無論、馬銜も不要だ。
ちなみに馬銜ってのは馬の口に噛ませる棒状の金具な? 手綱を通し馬に指示を伝達するための馬具……って、やっぱ何で、こんな知識をオレは持ってる?
……競馬漫画とか読み漁ってたとか?
まあ、オレは、この世界で生きていくつもりなんで、気にしないで良いやね。
「シャドウに手綱は要らない……あたしとシャドウなら、以心伝心で飛べるんだもん!」
以心伝心……キーアリーハと接触状態なら、なんか漠然とキーアリーハの行動は判るから、それに合わせたりはしてるけどさ。
「じゃあ、オレがお嬢様の後ろに乗るわけだ……抱きついて良いですか?」
この鞍、結構しっかりしてる感じで、掴まる持ち手もちゃんとあったぞ?
「……抱きついたら落とすわよ?」
冷たい声でキーアリーハはウィル君に言う……コレ、たぶん抱きついたらマジで落とす気だ。
「ウィル君って、空は飛べるの?」
「飛べるワケ無いじゃん」
オレの問いにウィル君は即答してくれる……つか、キーアリーハの機嫌を損ねたのかと、ちょっと顔がひきつってますね?
公爵令嬢どころか公国の姫殿下がキーアリーハってワケで……その不評を買った場合、ウィル君の立場が色んな意味で危うくなる。
……ウィル君。頭良さそうで、変なトコロで抜けてますねぇ?
普通に強いんだけど魔法使いとしてはガウスさん同様、尖りまくってるんで高い評価を得づらいって事をウィル君も自覚があるってことだろうけどさ。
「ウィル君って、所謂、ヘッドハンティングって受けたりしてる?」
そう思ったから聞いてみる。
「受けてるよ……いや、受けてますっ! でも鉄砲玉みたいな使われ方されそうで全部、断ってますっ!」
……受けてない。そーゆー前提での質問だったんだけどなぁ?
まあ、でも、即ウィル君が欲しいって人は、そーゆー使い方が大前提になりそうだわね……
「アンタ、伯爵家のお手付きさんとしての声も掛かってたんじゃなかったっけ?」
キーアリーハは冷たい声でウィル君に言う。
「嫌だよ……じゃない嫌ですよっ! あんな初老のオッサンの相手なんてっ!」
「そーいや、ウィル君って今は男だったっけ?」
いや、初老のオッサンが相手なんて年頃の女性でも嫌か……でも金を積まれれば喜んでOKする人も居そうだけどな?
「オレは男だって言ったのに、それでも構わないとか言ってくれて……別にオレって、金が欲しくて公国に仕えてるってワケじゃないのにさ」
ほう、つまり公国というか公爵……いや公王陛下に恩義があって仕えてるわけですかい。
いや、ウィル君って義理堅いんだねぇ……?
「無茶振りされず、食うに困らない気楽な暮らし……その前提で考えたら公国が最適解だった。ウィル……あんたガウスに、そう語っていたそうね?」
……ウィル君って前世で海賊船に乗ってたんだっけね。そりゃ気楽な暮らしを望むってのも理解はできるけどさ。それを内輪だけじゃなく雇い主に話しちゃうってガウスさん、アンタ鬼ですか?
「ガウスさん……あの人、なんで、そんなことを公王様に話しちゃうのよ?」
愕然としたように言うウィル君に、キーアリーハは吹き出した。
「ガウスも、そんな考えでお父様に仕えてるそうよ? だから自分同様裏切らないから安心して使ってくれってさ」
……自分同様、公王の腹心にできる。そういう前提でガウスさんが売り込んだわけですか。
でも、股間にナニがあることを知られたらウィル君の立場って、危うくなりそう。
そんなこんなで、オレ達がコントみたいなことをやってる間に、出発準備が整ったみたいだ。
ウィル君には、道中で食べる弁当を持たされてる……水筒はないっぽい。ウィル君が何も言わないってことは、道中に水場があるってことだろう。
まあ、水は重いんで現地調達できるなら、それに越したことはないか。
ウィル君が荷物を持たされてる間に、キーアリーハがオレに跨がる。そして遅れてウィル君が乗ったのを確認し、オレは大地を蹴って飛び立った。
「お嬢様、お気をつけて!」
見送りのメイド衆の呼び声である。
この言葉、キーアリーハだけじゃなくてウィル君やオレも対象になってるっぽいふいんきだね。
たぶん、お嬢様たるキーアリーハが皆から好かれてるって事なんだと思う。
……キーアリーハって、そんなに好かれそうな事をやってたっけかねぇ?




