46・妬き餅からの考察
キーアリーハは再度、風呂に入ってる。ウィル君の残り湯じゃなくて、別の浴槽に新たに湯を沸かして入れたとか。
……マジでキーアリーハってお嬢様だったんだな。いや、お姫様か。
オレも連れ込まれそうになったが、断固として拒否した。お湯に魔力が溶け出すとか屁理屈も並べたしさ。
砂だらけになったウィル君は、先程使った風呂で既に身体を洗い終えたらしい……ちゃんと汚れは落ちてるんで烏の行水じゃないみたいだ。
服は、ここのメイド衆と同じメイド服になってるな……なぜまた、メイド服?
「ウィル君ってさ、別にメイド服なんて着なくて良いんじゃないか?」
「いや、船の中じゃメイド服着てることが多かったんで、この格好の方が落ち着くんだよ……」
……どーゆー海賊船ですか?
そうは思ったが、ウィル君は壁際に腰を下ろして刀を抱えて目を閉じる……相当、眠いみたいだし今回は聞けそうにないわ。
ウィル君の寝顔を見る……顔だけ見ると女の子に見えるな。風呂上がりのキーアリーハへの反応は男の子のソレだったけどさ。
発する魔力も、かなり弱ってる感じ……さっきの戦いで、相当消耗したんだろう。
それ考えるとキーアリーハって凄げぇな。オレにかなりの魔力を分けてくれたのに全然、消耗してないっぽい。
だから、キーアリーハを乗せて公国まで飛んで帰るってのも問題なくできそうだわ……ああ、ウィル君とも一緒にね。
……ちなみにサー君と一体化したオレは、のっぺら坊じゃ無かったけど、どんな顔だったんだろう?
つか、猫状態の自分の顔すら、まともに見たこと無いなオレってさ。
一応、サー君の視線でオレの猫姿は見たけど、まじまじって程は見てねぇな……
だからオレは、サー君を呼び出して、その視点で自分の猫姿を確認する。
見事なまでの黒猫である。小柄で瞳孔のみ黒い金色の瞳の仔猫……コレがオレの猫姿だ。
「シャドウ……ナニやってんの?」
声に気付き視線を向けると、背後に若い男を従えたキーアリーハが……って、アンタ一人で風呂に入ってなかったっけっ!?
つか、キーアリーハに付き従う男の顔に、オレはハッキリと見覚えがあった。
……アレってオレじゃんかっ!
人間だったときのオレの顔で、一目見て自分の顔だって認識できた。
ただ、まともな生物でないってことは、同様にまともな生物じゃないオレには一発で理解できた……つまりキーアリーハの影法師ってワケ。
「ソイツにナニやらせてたの?」
「背中を流してもらって、身体洗ってもらって……」
さらに、その先のイケナイ事までやってないでしょうかね?
一瞬、そう思ったが、その心配は無さそうだ……だってコイツ、人間化したオレやウィル君にはある股間のアレが無いみたいだしさ。
たぶん、キーアリーハが、まともに見たこと無いから付けられないんだと思う……なら安心だ。
「じゃ、公国まで飛んでいきましょうかね……」
ソックリさんな影法師に、オレが食い付かなかった事がキーアリーハには不満なようだ。
「妬いてくれないの……?」
いや、焼くって何よ?
「ホットケーキでも、オレに焼けってか?」
いやまあ、材料があったら焼いてやっても良いんだけどさ。
「……妬き餅」
「この世界に、餅ってあんのっ!?」
思わずオレは聞いちまったい!
「一般的じゃないけど、一応あるよ……ガウスさんに頼めば分けてくれると思う」
目を覚ましたウィル君の言葉である。
が、猫の身体であるオレには、餅なんて興味はないなぁ……つか、この身体って食事はできるけど、何も食わなくても魔力を取り込めれば死なないっぽいしさ。
「その焼き餅じゃないっ!」
いや、判ってますがな。けどね、妬き餅って言葉には、「焼く」と「妬く」をかけた洒落と、嫉妬して顔を赤らめ頬を膨らませる姿が、餅を焼いて膨らむ様に似てるからって言われてるんだぞ?
つまり、妬き餅という言葉が通じる以上、この世界に餅が存在すると判断できるわけだ……ぶっちゃけ食いたいわけじゃねぇんだけどさ。
「別に何もしてねぇんだろ? ソイツに妬き餅焼くならファルコンにも妬き餅焼かにゃイカンよ……」
オレの言葉にキーアリーハは大きな溜め息を吐く。
「お父様は大慌てしたのに……」
そりゃ、そーだろーがよ?
こんなドッキリを仕掛けられたキーアリーハの父ちゃん可哀想……
「父ちゃん、泣かなかった?」
「泣いて怒って、泣くほど怒られた……」
……そりゃ当たり前や。
この手の話を聞くと、キーアリーハの実家に行きたくなくなるなぁ……
「ちなみにウィル君が男だって事を、父ちゃん知ってるのか?」
「知らないと思う……オレは何も言ってないしガウスさんも黙ってたみたいだし」
そこまで言い、ウィル君は唇に立てた人差し指を当てる。
キーアリーハの出発準備を終えたメイド衆が、こちらに向かってきたのだ。
……つまり、ウィル君の性別ってトップシークレットって事ですかい。




