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04・影芝居

 キーアリーハが悔しげに漏らす。

「アタシ、精霊との相性良くないのよ。だから精霊達が言う事聞いてくれないっ!」

「じゃぁ、得意な魔法をぶちかませ!」

 この際なんでも良い。あの大鼠さえ追っ払えればさ。

 オレの言葉にキーアリーハは一瞬、躊躇する。

「アタシの特技は、あの手の魔物とは相性最悪なんだけど……でも、たぶん行ける!」

 呟くと、キーアリーハの手の中から、無数の光球が散らばり周囲を囲む。そしてキーアリーハを中心に、同心円状に無数の影が伸びた。

 オレとキーアリーハの影なんだが……なんか不自然に動いてるぞ?

「影芝居?」

「ま、そんなトコロね。……光より生まれし影よ。汝らは、我を守る兵なり!」

 キーアリーハの言葉に、影の色が濃くなり起き上がる。そして全身真っ黒な兵士の姿になった。

 その数、ざっと五体。皆が盾と槍を持っている。

 これなら行けそうだな……つうか、最初から、こっちを使えよ。

 そう思ったが、現れた兵士達を見ても大鼠は臆さない……つうか、むしろ興奮してませんか?

 オレと相対した時みたいに、よだれを垂らしてる……あと、影芝居の兵士も、オレや大鼠と似たような気配を発してるな。

 ……キーアリーハが生み出した影の兵士って、オレ同様に魔力の塊なんじゃ?

 って事は、あの大鼠にとって御馳走って事かいっ!

 そりゃ、相性最悪だわ……が、召喚者たるキーアリーハは行けると信じた。一応、ご主人様みたいだし、使い魔のオレも信じてみるしかない。

 さすがは魔法で作られた兵士である。五体が一糸乱れぬ動きで大鼠に向かって槍を繰り出した。

 五本の槍が、大鼠に向かって一斉に繰り出される。が、それより早く大鼠が兵士たちに突っ込む。

 槍を掻い潜り、一体の兵士に体当たりをかましたのだ。そして倒れた兵士の喉元に喰らい付く。

 噛みつかれた兵士は、まるで吸い込まれるかのように大鼠の口の中へと消えていった。

「ひょっとして喰われた?」

「並の魔物には、食べきれないぐらいの魔力を集めて作ったのに……」

 呟くと、キーアリーハは膝を付いた。

 その顔色は悪く、額には脂汗が浮かんでいた。

 渾身の力で影の兵士たちを作り出したのだろう。消耗しきって逃げる事すら難しそうだ。

 そして大鼠……影の兵士を一体、平らげたことで、その体が一回りほど大きくなっている。って事は、残り四体を食った場合、さらにデカくなるって事か!?

 いや、これで満腹して立ち去ってくれても結果オーライか。

 そう思うが、どうも満腹したような気配は無いんだよな。より興奮し、影の兵士を威嚇してるよ。

 兵士たちは仲間がやられても臆した気配は無い。より密集した状態で槍を繰り出す……が、捉えきれない。

 ……あの大鼠。さっきより動きが鋭くなってるんですけど?

「アレ……悪意を持った誰かが放った使い魔みたい。たぶん、禁呪を使ってる……けど、生徒で、こんな事ができる者なんて居ないはずだよ?」

 キーアリーハの言葉にオレは混乱する。

 ゲームやアニメの設定資料集に載ってるような知識なんて、勉強一筋だったオレは、ほとんど持ってないんだけど?

 ただ解るのは、この世界には魔法が存在し、オレは、このキーアリーハに呼び出され猫の体にされちまった。

 そして、そんな事ができるキーアリーハにすら、この状況は想定外って事ぐらいだ。

 オレが考えてる間も、大鼠と影の兵士たちとの戦いは続いている。

 相手が大型獣であったとしても、一糸乱れぬ集団戦術で戦う兵士たちなら負けは無いだろう。が、キーアリーハの言った通り、あの大鼠とは相性が極めて悪いようだ。

 繰り出された槍を、大鼠は口で咥え止める。直後に、咥えた槍諸共、影の兵士を飲み込んだのだ。

 これで影の兵士は残り三体。

 そして、影の兵士の魔力を喰らったためか、大鼠の体は更に大きくなる。

「餌やってるようなモンじゃないか……」

 単なる餌ならいいんだが、食べる毎に、あの大鼠は大きくなってるぞ?

 つまり、より手に負えない状態になっていくわけだ。

「オレを食えば、あの大鼠は満足してくれるかね? ま、どっちでもいいや。オレが時間を稼ぐ。キーアリーハは逃げとくれ。ま、短い間だったけど、猫の体も楽しかったよ」

 そう言うと、キーアリーハの肩から飛び降りる。

 ……まあ、コレってオレが夢を見てるだけなんだと思うんだ。

 だから、あの大鼠に食われ目が覚める……夢の中で女の子を助けられ、おまけにオレも現実に戻れメデタシメデタシって流れで終われそうだ。

 影の兵士と大鼠の戦いに変化があった。

 影の兵士も、あの大鼠が強敵だと認識したようだ。

 自ら仕掛けるのではなく、カウンター狙いに戦術を切り替えたらしい。大鼠に槍の穂先を向け、そして迎え撃つ体制である。

 その兵士の足の下をすり抜け、オレは大鼠の前に立つ。

「動物同士の喧嘩ならいざ知らず、人間に手を出すような事をすれば間違いなく駆除対象にされるぜ?」

 オレは尻尾を立て毅然と言ってやる。

 このまま食われるだろうが、これは夢だ。そう思うと恐怖はなかった。

影法師かげぼうしヲ喰ライ、十分ナ力ヲ取リ込メタ。モウ我ハ狩ラレル側デハナイ。我ハ既ニ捕食者ノ立場ニアル」

 金属が擦れ合わさるような、耳障りな声だった。

 ……今の言葉から察し、人間も捕食対象って事か?

「オレ同様、誰かに喚ばれたか造られた存在みたいだけど、お前は何の目的で、ここに居るんだ?」

 そう問いかけるオレも、キーアリーハが何を思ってオレを喚び出したのか知らないんだけどさ。

「創造主ハ我ニ命ジタ。全テヲ喰ラエ……ト」

 ……テロ目的に持ち込まれた無差別兵器みたいなモンか?

 この世界って剣呑だねぇ……この場を切り抜けても、キーアリーハの安全は保障されないんと違うか?

「集え、雷の子らよ……つぶてとなりて敵を撃ちぬけ!」

 声に振り返ると、キーアリーハの手の中から小さな紫電の弾丸が飛び出した。

 今度は大鼠を直撃する……が、仕留められるだけの威力はなかった。先ほどと比べ余りにも規模が小さかったのだ。

 確かに効いてはいる。が、人間が蜂に刺された程度の痛手でしかない。人間だってショック症状を起こさなければ、蜂に刺されても痛いで済むのだ。

 そして、あの大鼠も、痛い止まりで済んだらしい。

 だから、キーアリーハを次の標的に定めたようだ。

「おい、オレは逃げろって言っただろっ!」

「アナタの召喚に一年以上もかけたのよ! それにファミリアは使い魔の中でも特別な存在なのっ!」

 そりゃ、召喚者の半身にして真なる盟友なんて仰々しい言葉で飾られたら特別な存在って事ぐらいわかるけどね。

 でも、自分の命の方を大事にしてくれよ……既に疲労困憊してるのに、さらに魔法使ったから、たぶんまともに動けないぞ?

 それにこんな状況で目が覚めたら寝覚めが悪いじゃないかっ!

 そう思ったから、オレは大鼠に飛び掛かる。

 今度はハッキリと意識して魔力の爪を形成し、前足を振るった。

 蠅を切り裂いたときは一センチにも満たない長さだったが、今回形成した魔力の爪は十センチを超える。

 オレが使い魔ガチャの激レアってのは本当らしい。けどね……引き当てたばっかで、全然、育ってない状態なんだよな。

 対し大鼠。ガチャとしては、そこまでレア度は高くないみたいだが、どうやら最終形態か、その間近まで育ってるっぽい。

 ……勝てるかっつーのっ!

 魔力の爪は、大鼠の表皮に傷をつける。傷は深いが、痛手ではあっても致命傷ではない。

 そして、大鼠にとって最大の脅威はオレじゃなくてキーアリーハっぽいんだよな……

 だからオレは無視され、大鼠はキーアリーハに飛び掛かった。

 時代劇でなんかで聞く、人を斬る効果音が聞こえた……でもアレって、実は濡れ雑巾を引き裂くことで音を再現してるんだとか。

 ……思わずに現実逃避してしまった。

 キーアリーハに大鼠の牙が……そう思ってしまったのだ。

 が、違っていた。

 キーアリーハが作った影の兵士。それが繰り出した槍が、大鼠の体を貫いたのである。

 大鼠の体を、完全に貫通していた。

 そして、立て続けに二回、同じ音が響く。残った二体の兵士も、大鼠に槍を突き立てたのだ。

 大鼠は、その体を痙攣させている……間もなく、その命の灯は消えるだろう。

 そう思った矢先、大鼠がキーアリーハに顔を向ける……それは瀕死の獣の動きではなかった。

「成長しきった魔獣ラッペトスを影法師(かげぼうし)で倒すか……影使いよ。名を聞いておこう」

 言葉を発したのは大鼠だ。それは間違いないとオレの耳は判断した。が、口調が大鼠とは全く違っていた。

 つまり、あの大鼠を造り、送り込んだ張本人が大鼠を通し話してるわけだな。

「用件だったら直接、言いに来い。電話やメールで全部済まそうって輩は女の子に嫌われるぜ?」

 バイト先の主任が、先輩バイトに言っていたセリフの盗用である。

 シフトのドタキャン常習犯かつ代役も立てない困った先輩に対する説教。その中の一節だったっけ。

 大鼠は俺に視線を向けた。

「異界から魂を喚び寄せファミリアとしたか……極めて珍しい例だ。面白い」

 そう言って、ニヤリと笑う。

 鼠の表情なんか読めるわけないのに、何故かオレには笑ったと判ったのだ。

 そして、吐血し大鼠は事切れた。

 その身体から腐臭を伴う煙を発しつつ骨になり、そして塵となって消えた。

 不自然な生物ゆえ、死体も残らないのか……オレも死んだら、こうなるのかね?

 ……いや、夢から覚めて、受験勉強の再開だな。

 そう思うと、目が覚めるのを寂しく思ったりする。

 そんな事を考えていると、キーアリーハがオレを抱きしめた。

「シャドウ! アナタはアタシの半身なのよ……だから、危ない事はやめて!」

 いや、それはオレが言いたい。

 キーアリーハは女の子で、オレの召喚者にしてご主人様である。そのキーアリーハが危険な事をやらかす方が問題だろう。

 そう言ってやろうかと思った矢先、キーアリーハが崩れるように倒れる。

 魔法を使ったことによる疲労の為か、それとも気が抜けたのか……こりゃ両方だな。

「おい、こんなトコロで倒れるな……つうか寝るな! 気を失うな!」

オレは叫ぶが、キーアリーハの意識が戻る気配は無い。

 オレに、どないせいつーのよ。人間ならキーアリーハを部屋まで運べるけど、猫の体のオレには運ぶ事なんてできないんだけど!

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