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ファミリア  作者: あさま勲


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38/43

38・命名……サー君

 オレは一人、部屋に残され留守番である。

 別に不満はない……つうか、トイレにまで連れ込まれるのは御免被りたい。

 ちなみにオレの便意や尿意に関しては自分でも、どうなってるのやら皆目見当が付かなかったりする。

 この世界に喚ばれて既に数日。なのに大小あわせても数回にも達してねえな……しかも強烈な便意や尿意なんか一切感じてないと来たものだ。

 最初の一回は、トイレに来たから出しておこう程度の感覚で、思い返すとこの世界に喚ばれてから一回も小便をしてない気がする。

 ……オレって小便できるのか?

 そう思った途端、強烈な尿意が……

 ちょっと待て! オレって、そんなに水は飲んでないぞっ!?

 生物の排便排尿は体内の老廃物の排出って側面があるんで、飲み食いしなくても出るものは出るわけだけど……オレって、いわゆる普通の生物じゃねぇんだけど!?

 扉を開けようとするが丸いドアノブなので猫のカラダでは開けられない……ジャンプして両手で掴むまでは行けるけど回せねぇよっ!

 むきーっ! 腹いせにベッドの上でしてやろうか?

 ……って迷惑を被るのはキーアリーハじゃねぇんだよな。

 どうにかしてドアノブを回す必要があり、それは猫のカラダでは極めて困難。人間の手が必要なワケで……

 オレは自分の影に視線を向け意識を集中する。

 前にキーアリーハに回線開いてもらった際、影法師の死神を創ったことを思い出したんだ。

 今度は死神じゃなくて人間の姿をイメージしてみる……真っ黒な影法師で表情以前に顔すらねぇな。あのストーカが作った影法師みたいなのっぺら坊だぜ。

 でも、ドアノブを掴み回す程度の事は出来るはず……って出来たよ!

 トイレの場所は……キーアリーハは恐らくトイレに行ったんだろうからキーアリーハの居場所を探ればOK。

 ……一階じゃねぇかっ! って、ここ二階で水洗トイレなんて川に直接、垂れ流す以外に存在しない世界観なんだよな。そりゃ一階に作るだろうよ。

 自分で走ると漏らしそうなので、オレの創った影法師に抱き抱えさせキーアリーハの居るトイレを目指す。

 ……幸いトイレは複数あった。細長い大部屋で、壁際に個室が並んでるのね。使用不使用は、外からじゃワカンネェや。

 内側からカンヌキで施錠できる構造になってるね。で、便座と思しき箱の中に蓋がされた大きめの壺が入ってる。

 にゃるほど……壺に溜めて蓋をする事で臭いを抑えるか。そして臭わないってことは、清掃直後……オレが初ションだと申し訳ない気持ちになるが、既に我慢の限界である。

 立ちションだと飛び散って汚しそうなので便器に腰かけて小便をする……オレの尿意は消えたがオイ、影法師。なぜオマエが小便をしやがりますか?

 股にナニが見えたんで、オマエは男だと判断したが竿だけっぽくて造形も雑だな……いや、オレに代わって小便ができるなら造形雑でも問題ないんだが。

 ……って、ファルコンの時みたいに、オレと一体化した結果だと思う。といっても、ファルコンの時と違って合体したワケじゃない。オレは影法師に抱かれた状態のままだけどさ。

 つまり、オレが人形ひとがたになるってのは、この影法師と合体すりゃ良いワケかい……いや、しねぇけどな?

 オレ、あんまキーアリーハにベタベタされたくないのよ……猫って結構、独りの時間を好むんだぞ? まあ、厳密にはオレは猫じゃねぇんだけどさ。

 もっとも、あのストーカーの造った影法師同様に、のっぺら坊な影法師姿のオレにキーアリーハがベタベタしたがるかは疑問だが……過干渉は嫌だけど嫌われるのも嫌なのよね、オレってさ。

 まあ、もっとマシな姿の人形ひとがたになれるとしても、その事はキーアリーハには知られないようにしよう。

 そんな事を思いつつ、影法師に個室の戸を開けさせてから引っ込める。そして個室から出た途端、キーアリーハと鉢合わせたワケだ。

 小にしては時間掛けすぎじゃね? そう思ったが、それを言わないだけの分別ぐらいオレにもありますよ?

「シャドウ……何でアンタがココにんのよ?」

 怒気を含んだキーアリーハのお言葉である。

 いや、小便したくて堪らなくなったんでココに居るんだけど?

「急に御手おて洗いに行きたくなって……」

 そこまで言ってオレは思い出す。学園のトイレには手洗い場が無かったじゃねぇかと。つまり、キーアリーハにとって御手洗いってのはイミフな単語な可能性が高いわけだ。

「御手洗い……トイレの事っぽいわね。まあ、信じてあげるけど、シャドウ。アナタの手で、どうやって個室の戸を開けたの?」

 問われオレは観念する……でも、キーアリーハって普通に頭の回転速いよな?

 そして自分の影に意識を向け、人形の影人形を呼び出した。

「オレの使い魔……になるのかね? サー君と呼んでくれ」

 サー君……サーバント。使用人・召使い・奉仕人を意味する単語から今、即興で命名した。

「アンタがホントに大当たりの使い魔だって事は、よ~く理解してるし、たった今も再確認させてもらったけど……トイレまで着いてこないでよっ!!」

 オレってさ、キーアリーハのストーカーじゃねぇんだよ?

 いや、マジで小便が我慢の限界だったのよ……ただ、オレじゃなくてサー君が小便することで尿意が解消されたことが色んな意味で解せない。

 やっぱ、オレって普通の生き物とは程遠い存在みたいだわ……だから、この場を取り繕う言い訳すら思い付かねぇよ。

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