36・ご主人様、お邪魔します
キーアリーハに抱かれた状態のままオレは巨大化する。
すると、オレの首に手を回した状態でキーアリーハが背中に乗っかるって状態になった……狙い通りだ。
そんなオレたちを見て、メイド衆は少しばかり驚いたようだ……って事は、コイツらはキーアリーハの実力を、ちゃんと認識できてるって事だわね。
「んじゃ、ご主人様はオレが運ぶわ」
「シャドウがベッドになってくれるんなら、あたしココでも良~よ?」
やなこったいっ!
そ~ゆ~本音を言っちまうのもアレなんでオレだって言葉ぐらい選びますよ。
「ご主人様は重いので、僕ちゃんペチャンコな絨毯になってしまいます。絨毯になってしまったら大切に使ってください」
その言葉の返事は、キーアリーハがオレの首に回した腕を使ってのスリーパーホールドである。
が、メイド衆は無反応……つうか、どこか呆気にとられてますね。
オレとキーアリーハの遣り取りに付いていけないんだろう。
ちなみにオレ……首絞められても苦しくなかったりする。一応、呼吸はしてるっぽいんだけどさ。
「自我を持ち、しかも主に向かって軽口を叩く使い魔……さすがお嬢様です」
どこか感心したような、メイドの呟きである。
なんつーか、それってオレを不良品扱いしてないかい?
一応、言っとくがキーアリーハって別に重くは無いぞ。むしろ痩せ気味なんで、おかげで体の凹凸は少なかったりする。だから、メイド衆は、オレの軽口を黙認したんだと思うんだけどさ。
案内された部屋は……天蓋付きのベッドがある部屋で、寝室と考えるには広すぎるな。
まあ良いやね、とりあえずキーアリーハを背負ったままベッドの上に飛び乗って体のサイズを元に戻す。
そして、オレを逃がすまいとするキーアリーハの腕の中から、体を一時的に軟体化させて抜け出した。
「側には付いててやるから、安心してくれ」
その言葉に、キーアリーハは手を伸ばしてオレの前足を握る……そして寝息を立て始めた。
そんなキーアリーハに、メイド衆は、優しく布団を掛けて退室する。
……さて、コレでキーアリーハと二人っきりで邪魔が入らない状況である。そして、ここは安全と言える環境だ。ならば、するべき事は一つ。
オレが、この世界に喚ばれて未だ数日だが、それなりに情報は集まっているが全然、足らんのよね。で、キーアリーハはオレの頭の中を覗けるようで……オレも同じようにキーアリーハの頭ん中を覗けないかなと。
鍵となる単語から関連する記憶や知識を探るってキーアリーハは言ってたんで、とりあえずキーアリーハの父ちゃんの情報でも得ようかなと。
……では、お邪魔しますよ?
キーアリーハの額にオレの額をくっつける……そして、キーアリーハの父ちゃんと念じる。
オレの頭の中に映像が浮かぶ。立派な口髭の壮年男性……コレがキーアリーハの父ちゃんっぽいな。
この口髭……顔に特徴を出すために、あえて生やしてるんだろうなぁ。コレって戦国武将の髭と似たようなモンだと思う。
シーンが切り替わる……その父ちゃんが大泣きしてるよ。ベッドの傍らでさ。そしてベッドに眠るのは、二回りほど大人びたキーアリーハ……じゃなくて、その母ちゃんっぽいな。なんか、ずいぶんやつれてる……
視点は、まるで見上げるようで……コレってキーアリーハが幼い時の記憶っぽくて、コレって母ちゃんとの死別のシーンっ!?
こんな重たい場面なんて、見たくねーよっ!!
オレは慌ててキーアリーハから額を離す。
キーアリーハって母ちゃん似なんだな。だから父ちゃんは手元に置いておきたかった……そりゃ、心配だろうし、様子見に信頼できる腹心を派遣したりもするわ。
ため息をつき、キーアリーハに視線を向けると寝顔には、うっすら涙がにじんでいる。
「……お母さん」
呟くような寝言である。
オレがキーアリーハの父ちゃんの記憶を検索したおかげで、そっち関係の強い記憶が夢に出ちまったんだろうなぁ……
悪かったよ……もう頭ん中なんて覗かねぇよ。
オレは、そう思いつつキーアリーハに背を向ける。
……で、キーアリーハがオレの頭ん中を検索して拾えた情報って、辞書の内容みたいなモンだったって言ってたなぁ。
つまり、オレにはキーアリーハみたいな人生経験が無い? ……いや、そんな馬鹿な。
断片的とは言え、受験生だったって記憶もあるし、毛嫌いしている奴の名前も覚えてる……けど、記憶が断片的すぎて、わけワカメだ。
まあ、ぶっちゃけ、この世界で飼い猫ライフをエンジョイするには、前の世界の記憶なんて今オレが持ってるレベルで十分なわけだけどさ。
「シャドウ……どこに居るの?」
呼ばれキーアリーハを振り返る……寝言のようだ。
「ここに居るよ」
そう言い、キーアリーハの腕に体を寄せる……すると抱きしめられた。
まあ、いいやね。朝まで付き合ってやるよ。




