29・いざ街へ
とりあえず、この世界は一神教じゃないって事は理解できた。
いや、一神教が存在しないと断定は出来ないが、その可能性は低いと思う。
「ちなみに、この世界の連中ってカミサマを崇めたりはしない?」
「崇める人もいるけど……最寄りの魔法使いに頼ったほうが早いから、そんなに神様に頼る人はいないわね」
魔法使いに出来ることは限られているが、それでも使えない者達にとって魔法の恩恵ってのは大きいわね。その魔法使いが、自分達のために魔法を使ってくれるのであれば、皆から拝まれたりとかするかもね。
ただ、気紛れで膨大な力を能えてくれるカミサマってのは、一発逆転を狙いたい連中にとっては有り難いかも。
「どうも、ガウスさんはカミサマの恩恵を受けてるらしいけど……特に使命は帯びてないと?」
「公爵閣下からキーアリーハお嬢様の近状確認と、そのついでに学園や王都の現状把握という使命は帯びたが……あの声は、私に気楽に生きろと言っただけだ」
公爵家の使いっ走りって立場は気楽なのかねぇ?
「で、ガウスさんは気楽に生きてるの?」
「まあ、それなりに気楽にやらせてもらっている。一芸者とは言え、魔法も使えるし商社に勤めていた経験も役に立ってくれる」
商社マンの仕事とスパイ活動って平時は、ほとんど一緒だって話だからね……まあ、なら密偵紛いなことも出来そうだわね。
「王都の状況ってキーアリーハは把握できてんの?」
「アタシが知るわけないでしょうに」
オレの問いにキーアリーハが即答してくれる……うん、その辺は全然興味ないって顔してたし、まあ、そーだろうよ。
それをフォローするかのようにガウスさんが口を開いた。
「学園や王都では魔獣騒動が起こっているらしい事は把握している。何者かが魔獣を放って騒ぎを起こしているようだが……騒ぎの規模は小さく、目的も読めないそうだ」
あのストーカーは『遊びたい』って言ってたね……その遊びの一貫で魔獣を放ってるわけか。迷惑なヤツだな。
「ただの愉快犯で特に目的は無いと思う……で、そのターゲットにオレ達が選ばれたふいんき」
「『ふいんき』じゃなくて『雰囲気』でしょ?」
キーアリーハに訂正されちゃったよ……いや、知ってるってばさ。
「マンティコアや鵺は、明らかにお嬢様とシャドウを標的にしていましたね。公爵家より事情を話した上で学園で守りを固めた方が……いや、それはそれで拙いか」
魔法使いが沢山居る学園の方で準備万端で迎え撃った方が……って、あのストーカーは学園関係者っぽいんだよな。
「そうよ……あたしは二流三流の魔法使いなんだしさ」
何やら楽しげに言ってくれるね。
キーアリーハも学園じゃ実力を隠して三味線弾いて過ごしてるって言ってたな。事情を話すと、その実力がバレちまうと。
まあ、キーアリーハは得手不得手がハッキリしてるんで、苦手部分を前面に出せば簡単に三流は演じられるだろうけどさ。
あと、実家である公爵家お抱えの魔術師になれるそうだし、あえて実力を見せつけ目立ったりすると宮廷魔術師として引き抜かれ王家お抱えになっちまうモンな。
そうなると娘を手元に置いておけなくなった父ちゃんが嘆くか。
「んじゃ、公爵領に戻るって事で決定?」
オレとしてはキーアリーハの父ちゃんも巻き込んだ方が、事態の収集が着きやすくなると思う。
オレがソノ便マサ菌に付きまとわれた時は、周囲も巻き込み大事化するって方法でヤツの悪事を大々的に公開してやったな。
スマホの録音機能を使って証拠の音声を押さえ、あと協力者に証拠の動画も撮って貰ったっけ。
アイツ自身は人気者のつもりだったけど、その性格の悪さから普通に嫌われてて……まあ協力者なんて簡単に見つけられたよ。
ただ、この世界に録音や録画ができる機械なんて無い。魔法で代用……は無理だと思う。たぶん実写レベルのCGみたいな認識だしフェイク動画なんて作りたい放題だろうからね。
でも、公爵であるキーアリーハの父ちゃんが状況を把握すれば話は変わってくるね。
公爵の言葉なら、そうは無下にできないハズだ。だって貴族階級の最上位だからな。
オレが得てる断片的な情報だけでも、結構な権力を持っているハズだ。
じゃなきゃ公爵令嬢をお忍びで留学させるなんて出来ねぇわね。
そんな事を考えてるとガウスさんの準備が終わったみたいだ。
気配を察したようで、キーアリーハはオレを抱き上げ馬車に乗り込んだ……いや、言われりゃ自分で馬車に飛び乗れたけどさ。その気になれば空も飛べるし。
「昼過ぎには街に着きます……公爵閣下への手紙を書きますので、それを持ってお帰りください。私はお嬢様と街まで戻ったのち、再度、王都へ向かいます」
キーアリーハと一緒に街まで戻る……要は街に足跡を残した上で、王都の現状を確認に向かうってことね。
この世界には携帯電話もインターネットもない……つまり離れた場所を繋ぐ通信手段が無いってことだ。
……まあ、そういう魔法も在るかもしれないが、とりあえずキーアリーハやガウスさんには使えないっぽいな。
だからこそ、ガウスさんは街に足跡を残した上でキーアリーハに手紙を持たせる……街に寄ったという事実が手紙が偽造された物ではないって証拠になるし、ガウスさんが仕事をしてるって証拠にもなる。
まあ『仕事してます。嘘は言ってません』ってアピールだわね。
そんな事を考えてる内に馬車は出発し、そして昼過ぎにオレ達は街へと到着したわけだ。
このファミリア……仕事の休憩時間にタブレットをポチポチしつつ書いてます。
Bluetoothキーボードを使ってた時期もありましたが……これで良いやねと。




