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ファミリア  作者: あさま勲


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24/41

24・世界は優しくない

 キーアリーハとガウスさんが大きく息を吐いた。

「今の一撃で魔力切れでしたが……マンティコアの魔力を回収できたため一息つけますね」

 ガウスさんの言葉に、キーアリーハも黙って頷く。

 ……経験値獲得じゃなくて単なる充電ですかい。

「経験値獲得、そしてレベルアップかと思ったんだけど?」

 だから思わず言っちまったい。

「この世界に、そんなものはない……少なくとも、私にはなかった」

 オレとガウスさんの会話に、キーアリーハはキョトンとした顔をする。

「経験値? レベルアップ?」

「経験積んで強くなるって事だよ」

 オレは言ってやるが、実態は大分違う。対戦相手ごとに固定された数字の獲得、その積み重ねで単純に強くなれるゲームの世界とは違い、リアルの世界じゃ数字の積み重ねでは人間や生き物は強くはなれないんだ。

「ひたすら練習したけど、精霊はあたしの言うこと聞いてくれない……」

 どこか悔しそうにキーアリーハは言ってくれる……と言っても、風の長や雷の精霊はキーアリーハを特に嫌ってない感じだったけどな?

「お嬢様には精霊は反応してくれますが、私には無反応……ガン無視を決め込んでくれてますね」

 自虐的にガウスさんは言ってくれたよ。

 まあ、認識できてるのに反応が得られないってのは辛いわね……

 それよりも伏兵を警戒しないと。

 とりあえずオレと回線が繋がってるキーアリーハは伏兵は認識してるみたいだが、ガウスさんは気を抜いちまってるな……

「もう一匹、マンティコアっぽいのが潜んでるぜ……けど、仕掛けてくるかはワカンネェ」

 オレの言葉にガウスさんが警戒体制に戻ったみたいだ。

 一見した限り違いはないが、気配が微妙に変化したんだ。

「さっきの一体ほど強くは無さそうだから、アタシ達に勝てないことは理解してると思うけど……」

 キーアリーハは言うけど、たぶんオレと同じことを考えてる。理解してても仕掛けてくる可能性があるって事をね。

 じゃなきゃ、使い捨てる前提でコイツを戦わせたりはしないはずだ。

 オレは身体を、元の大きさに戻しマンティコアの亡骸に近づく……オレ達の動向を注視してるだろうし、あえて隙を作って逃げて貰うって考えである。

 コイツってガウスさんに二回頭を吹っ飛ばされてるんだよな……でも、記憶経験までは失ってなかったような感じだ。じゃなきゃ、再生した新しい顔が泣いたりはしないと思うんだ。

 体重が数百キロはありそうな、コウモリの翼とサソリの尾を持つ獣の身体……デカイ分、単純に強いだろう。

「アンタってさ……この身体を貰って満足だったのか?」

 オレは問うが、既に事切れたマンティコアの亡骸は何も答えない。

 けど、魔力の残滓から断片的な記憶が拾い出せた……この獣の身体を使って、楽しそうに暴れまわってる記憶と、それ以前の病気で弱り死の淵に立ち何も為せず死んで行く事に対する後悔と未練が。

 だからこそ、強靭な獣の体って餌に喜んで飛び付いたって所までさ。

 ……一時とは言え好き放題に力を振るえたんだから、アンタも満足だろ?

 コイツは、まともに世界を見たことが無かったんだと思う。だから、外に出て向かうところ敵無しと言える獣の身体ではしゃいでしまった。

 まあ、同情できる部分はあるか……けど、コイツを死に至らしめたことに対しオレには後悔はない。

 と、ファルコンの視覚を通し、伏兵のマンティコアが動いたのをオレが認識する。

 逃げる……ならオレは気にしないんだが、こっちに突っ込んでくるよ。

 まあ、それを見越してファルコンが空中待機してるんだけどさ。

 突っ込んでくるマンティコアを見ても、オレは慌てない。

 だってコイツ、一匹目ほど強くないみたいだしさ。たぶん、大猫モードでタイマン張っても勝てると思うんだ。

「ナニ考えてんのよストーカーさんよ?」

 ファルコンの急降下鉤爪アタックを喰らったマンティコアに言ってやる。

 けど、返事は無理じゃねーかな?

 背骨が砕ける音が、しっかり聞こえたしさ。あと、コイツの頭は人間じゃなくて猿だもん。

 マンティコアかと思ったけど……猿の頭に毛の長い犬っぽい胴体と虎の四肢で尻尾は蛇ってコレぬえじゃん。

「私の考えなど決まっている……お前達と遊びたいのだ」

 背骨が砕かれてるにも関わらず、コイツは普通に喋ってくれた。

 そりゃ構わんが、アンタのやってることは遊びの範疇を超えてるぜ?

 だから、オレは……いやオレ達は、コイツに付き合ってやるつもりはない。

 キーアリーハが回線を開いてくれたお陰で、オレにも影が操れると思ったんだ。

 だから、自分の影に意識を向けると影の形が変化する……これなら行けるな。

 そう思ったので、死神のイメージを思い浮かべると、オレの影が黒いローブを纏い大鎌を持った骸骨の姿となり、そして鵺のドタマをカチ割った。

「ぶっちゃけ、オレはアンタが大っ嫌いだよ!」

 そして言ってやる。

「嫌われたものだな……出身を同じとする同胞だと言うに」

 頭が真っ二つになってるのに普通に喋ってくれてるよ……非常識な。

「その同胞が嫌がってるにも関わらずチョッカイ掛けて来るなよ……少なくともオレはアンタとは仲良くしたくないね」

 こういうタイプの人間は……記憶にあるわ。

 嫌がってるにも関わらず楽しそうにオレにチョッカイ掛けて来る奴がクラスに居てね……堪り兼ねて力一杯、ブン殴ったっけ。

 アレでオレが悪者にされ掛けたが、さんざん嫌だと言い続けてたお陰で担任やクラスメイトの記憶にもオレが被害者だったと印象付けられたみたいで……落としドコロに困った担任に喧嘩両成敗とされたっけ。

 まあ以後、奴に絡まれなくなったしオレとしては万々歳なワケだが。

「そうだな……私も別に仲良くしたいワケではない」

 チョッカイ掛けて最終的にはオレはこんなに凄いんだとマウントを取りたいって事だろうけど……精神年齢が低いなぁ。

「典型的な嫌われ者の行動だぜ? アンタ、こっちに来る前も相当嫌われてただろ?」

 奴が激怒するのは想定内で、そうなっても困らないよう対策済みだ。

 いや、対策を取ってたのはオレじゃなくてガウスさんなんだけどさ。

 オレの言葉と同時にガウスさんが鉄貨の散弾を叩き込んだ。

 ……返事を聞いてからでも良かったのに。

 ガウスさんも、コイツの事を相当嫌ってるみたいだな……

 つまり、オレたち三人一行は、このストーカーが大嫌いって事で意見は一致してるワケだ。

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