21・隠し球
巨大化したオレにキーアリーハが抱き付く……力が漲ってくるような感じがするんで充電してくれてるんだろう。
「今のシャドウには、グリフォンと戦った時ほどの力はないから無茶しないで?」
オレの耳元でキーアリーハが囁く。
キーアリーハも連戦で魔力が底を尽きかけてるんだろう。つまり、これ以上の充電は期待できないワケで……バッテリーならぬ魔力の消耗を抑えつつ戦わなきゃダメなワケだ。
……要するに最少の手数で勝利しろと?
そもそもからして、オレの方が強いって保証も無いのに?
とは言えオレが、この世界で生きていくには、ご主人様であるキーアリーハが必要なわけだ。
そして、そのキーアリーハは公爵令嬢で大当たりなご主人である……オレの事を普通に可愛がってくれてるしね。
だから、使い魔としての義務は果たすさ。
「ちなみに、アンタの要求は?」
オレは警戒しつつもマンティコアに問う。
「私は遊びたいのだ……世界を変えられる力を持ちつつも、変える意義を感じられない。世界を支配したいという欲求も持てない。だが、力は振るいたい」
振るえば良いじゃねーか……人に迷惑かけなきゃ好きにすれば良いし、喜んでもらえる方向なら感謝だってしてくれるだろう?
「アンタが作る魔獣は労働力になるだろ……重機替わりに使えそうだから開墾なんか捗るぜ?」
だから、オレは提案してみる。
「我ら魔法使いは選ばれし存在だ……そのような下賎な事に力は振るわぬ」
アンタ転生者だろうに、なんでそんな選民思想に凝り固まってんの?
「公国では、術師は積極的に民のため力を振るっている。そもそも、王国が魔法学園を設立した理由も、術師を管理し、その力を大衆に還元する事を目的としているはずだ」
ガウスさんが言う。
なるほど……キーアリーハの使う魔法なんかだと人形の労働力が提供できるってだけで、すごい戦力にはなるわね。
キーアリーハは宮廷魔術師や魔法士団の座は狙ってないって言ってたっけな。学園では三味線弾いて目立たず過ごし、卒業と同時に故郷に帰るって腹積もりなんだろう。
そりゃ実家に魔法使いとしてのポジションが用意されてるなら、普通にソッチを選ぶわね。
「アタシは振るってたわよ? 収穫で人手が必要なときは、アタシが影法師の使い魔を作って手伝いをさせたりとか……」
「開墾でも使い魔を提供していましたね……私とは違い、汎用性の高い魔法の才があるお嬢様を羨ましく思っていました」
ガウスさんの魔法って、磁力を操る事に特化してるんで使いどころは難しいわね。戦争ならコイルガンのみならず鉄の鎧を着た相手の動きを封じたりとか色々と出来そうだけどさ。
まあ、話をしたところで、このストーカーとは解り合うことは出来ないような感じだな。
キーアリーハが嫌がってるってのにアレコレとチョッカイ掛けてくるあたり、小学生並みのメンタリティーしか無い感じだ。
オレもコイツとは仲良く出来なさそうな感じだわ。
が、面倒事は避けたいわね。
「まあ、オレがアンタに付き合ってやるよ……そのマンティコアと戦えば良いのか?」
そう言いつつ、一歩前に踏み出す。
「そうだな……まずは貴様の力を見極めたい」
いや、オレって自分の力を全然把握出来てないんだけど?
「下手したら殺されかねないんで、最初から手加減なしで勝ちに行くけど?」
オレは言ってやる。
充電の際にキーアリーハが回線を開いてくれたんで、今のオレって間接的にキーアリーハの力が使えるのよね。
まあ、影法師の使い魔を作ったりは無理だけど、キーアリーハが作ったファルコンと今のオレって回線で繋がってるのよね。
あと確証はないが、キーアリーハが新たに影法師の使い魔を作った場合、回線を繋いでくれたらオレにも扱えると思う。
……問題は、今のキーアリーハに使い魔を作れるだけの魔力が残されてなさげな点だ。
だから、オレとしてはファルコンを上手く使って勝ちを拾いに行くしかないわけだ。
「殺してしまっては詰まらんから手加減してやる」
余裕ブっこいた言葉にオレは、この場を切り抜けられたと確信する。
オレが勝っても、アイツは手加減してやったって言い訳が成り立つわけだからメンツは保てるわけだ。
なら、そこまで恨まれる事も無いだろう。
遠くはなれたゲルの前に待機していたファルコンが夜空に向かって飛び立った。無論、オレの意思に従ってである。
このファルコンが、この対マンティコア戦でのオレの隠し球だ。
ファルコン、頼りにしてるぜっ!




