15・ポンコツ家電
再びファルコンに乗って空を飛ぶ。
オレはキーアリーハに背中を預けつつ……実は、そのキーアリーハを探ってたりする。
今のキーアリーハの内蔵魔力バッテリーはファルコンを、あと一回作れるぐらいの魔力しか残ってない感じだ。
だから、現状で喧嘩売られたら、とりあえず地面に降りて墜落の危険だけは避けたいところだ……たぶん、もう大丈夫だと思うが。
ちなみに魔力量……何かしら魔力を使ってる状態なら、そこから察する事ができるな。
風の長のネェちゃんは、空を飛ぶのに結構な魔力を周囲に放射してて、オレは、そこから漠然と相手の強さを察したわけだ。
キーアリーハも大がかりな魔法を使うときは、結構馬鹿にできない魔力を発してて……風の長の姉ちゃんの発する魔力、その一桁上を行ってたよ。
もっとも、ガチな戦闘モードに移行した風の長のネェちゃんの魔力放出量は、もっとありそうだけどさ。
「シャドウ……そうやって相手の魔力量を探るってのは、すごく失礼な事なのよ?」
おや、気づかれたよ……まあ、人の財布の中を覗くようなモンだし、マナー違反ってのは判るけどさ。
「いや、またさっきみたいに喧嘩売られたら、次は凌ぎきれるかと心配になってさ」
その言葉に、キーアリーハは両手でオレを包むように抱く。
直後に、全身を蟻が這い回るような不快感を感じ、思わず全身の毛が逆立っちまった。
「次は凌ぎきれないと思う。アタシが貯め込んだ魔力の大半を使っちゃったし、シャドウの魔力量も全然回復してないし……で、シャドウ。相手の魔力量を探るのが失礼な事だってのが、理解できた?」
……魔力量を探るって、相手に凄い不快感を与えるのね。って、以前オレの魔力量を探ったときは、何にも感じなかったんだけど?
「今の……ワザとだろ?」
その返事は、キーアリーハの押し殺した笑い声だった。
「上手く隠しても、気づく人なら気づくのよ……ちなみに、シャドウの体はアタシが作ったから、その気になれば気づかれずに魔力量を探れる」
要は製作者にしか見えない燃料計みたいな物でもあるのね。問題はオレ自身が、全然気づけないって事だけどさ。
「ちなみに、オマエは自分が貯め込んだ魔力量は、ちゃんと把握できてるんだよな?」
「当たり前じゃない。貯められる上限や使った量、それに残った量……全部把握してるわよ?」
凄げぇ気になってたから聞いたんだけど、オレと違って完璧に把握してるっぽい……自分のポンコツっぷりに愕然とするよ。
「けど、オレは全然判んねぇ……どれだけの魔力が自分にあるのか、どれだけ使ったのか。あと残された残量も、わけワカメだ」
「わけワカメ?」
日本語であっても特殊な言い回しは、この世界じゃ通用しないか……いや、オレは日本語のつもりで話してるんだけどさ。
「わけワカランって意味……この世界ってワカメある? 海藻なんだけどさ」
誤解の無いよう言っておくが、別に食いたいワケじゃ無いぞ。
「海藻はあるけどワカメって海藻があるかは知らない……というか、海藻の名前自体、アタシ知らない」
そーいや、キーアリーハって、どっちかって言うと内陸の人間だっけか?
日本人のつもりで話しても、その言い回しが通じないってのは不便だわね。
と、キーアリーハは嬉しそうに笑うとオレを抱き上げる。
「やっぱりシャドウ……あなた大当たりの使い魔だ!」
そうかい。
内蔵バッテリーも消耗し、充電にも手間がかかるポンコツ家電な使い魔のオレが大当たりですかい。
「例えばどこが?」
自覚は無いものの電池切れが近いって言われ、やぐされてたオレは問い返しちまった……デリカシーねぇなと気づいたが、後の祭りである。
「アタシが知らない事を、いっぱい知ってる!」
けど、キーアリーハは気分を害した様子も無く、嬉しそうに言ってくれたよ。
コレって、オレがキーアリーハに持ってる考えと同じだよな。
ある意味、互いの欲している情報を持っているわけで、お互いの情報交換でwinwinの関係ってワケだ。
「じゃあ、オレの持ってる知識……って、この世界で役に立つのか?」
言いかけ、オレは気づいちまう。正直に言って、オレの知識が役に立ってる気配なんて皆無な事に。
「立ってくれてる。さっき使い魔に襲われたとき、シャドウはファルコンに的確な指示を出してくれた……コレって知識の裏打ちが無ければできない事よ?」
いやまあ、挙動を見極め先読みしただけなんだけど?
「キーアリーハが、この世界の知識や常識をオレに教えてくれたら、もっと役に立てると思う」
その言葉に、キーアリーハはオレを優しく抱きしめる。
「教えてあげるわよ……アナタはアタシの大事な半身だもの?」
正直な話、半身と言われても全然ピンとこないんだけどさ……
まあ、この世界の知識と常識が得られれば良いさ。いまオレに必要なのは、この世界の知識と常識だからね。
それに、さっきみたいにガチで襲いかかってくる輩も居るしさ……
アイツ、元はオレと同じ日本人っぽいけど、オレたちが死んでも構わないぐらいの感覚で使い魔を放ったんだよな?
頭のネジが飛んでる感じで、もう関わりたくねぇなぁ……




