13・コードレスな関係
オレは地面にヘタリ込む。
歩くつーか立ってることすらシンドイんだもん。
幸か不幸か身体は元のサイズに戻ったから、キーアリーハでも問題なく運べると思う。
だからか、キーアリーハはオレを優しく抱き上げてくれた。
「無茶しすぎよ……飛行に適さない身体で空中戦をやったから、魔力を使いすぎたみたい。魔力を使い過ぎると、その身体を維持できなくなって消えちゃう事だってあるんだから……」
羽根つき猫はファルコンより空力は悪そうだとは思ったけど、特に違和感なく空中戦ができたな。つまり、それって魔力で補助してたからって事か?
そう納得するオレをキーアリーハは、きつく抱き締める。
……なんだろ? なんか力が戻ってくるような……?
ああ、キーアリーハが、魔力をオレに注いでくれてるんだ。
って事は、オレが元気になる代わりキーアリーハが消耗しちまうって事か?
「次から気を付けるよ……で、オレよりお前が疲労困憊で動けなくなる方が、この状況じゃ問題だと思うんだけど?」
「大丈夫よ……ウチの家系は制御は下手でも貯めておける魔力量には定評があるんだから!」
そんな話されてもオレには判らんよ……
とは言え、特にキーアリーハが消耗してる気配はないな。
ラッペトス戦で早々に消耗しちまった原因は……オレを召還したから?
そんなことを考えていると力を緩めてくれたので、オレはキーアリーハの腕から抜け出し飛び降りる。そして、背中に翼があったときの感覚を思い出してみる……そうすれば翼が生えるような気がしたんだ。
思った通り肩から真っ黒な翼が生えたよ……オマケに、羽ばたかなくとも空に浮けると来たものだ。
そんなオレを、キーアリーハは慌てて抱き締める。
「注意した端から魔力の無駄遣いをしないっ!」
……オレとキーアリーハの関係って、コードレス家電と、その充電器に近くないか?
だとすれば、オレって一生、キーアリーハと離れられない? ……って別に構わねぇけどさ。
ただ、キーアリーハから充電させて貰えない状況で派手に飛び回らなきゃ駄目な状況になったらスゲェ困るんだが?
「オレが魔力を使いすぎた場合、自力での充電は無理なん?」
「充電ってナニ?」
問い返されてオレは気づく。この世界にはスマホもバッテリーも存在しないってことに。
つまり充電って概念はないワケだな。
「いや、オレが魔力を遣いすぎた場合、自前で魔力を貯めることってできるのか? ってコトなんだけど……」
俺の問いにキーアリーハは首をかしげる。
「ほとんどの魔法使いは器が二つあって……一つは言ってしまえば体力そのものね。もう一つの器は、周囲から魔力を集めて貯めて使うの。この器の大きさが魔法使いの才能を決めると言って良いわ」
ほう、その器が大きいと自称するキーアリーハ自身は、才能ある魔法使いだと遠回しに言ってるわけですか……いや、これ素で言ってるだけで、自慢してるってワケじゃ無さそうだ。
こういう性格って、敵を作りやすいぞ?
まあ、オレがついてるから大丈夫か。
あと、オレも魔法っぽい物は使えるみたいだから、体力とは別の充電用の器があるのかね?
「オレも似たようなモンか?」
「わかんない。でも、動けなくなるぐらい魔力を使っちゃってる上、今のシャドウって召び出した時より、明らかに魔力の総量が減ってるのよね……」
詰まるところ、オレには充電用の器しかない可能性もあって、自前で充電するためのスキルも無いって可能性もあると……
オレとキーアリーハはコードレスな関係だけど、厄介な紐で結ばれちまってるな……
いや、見知らぬ世界に召還され、頼れる相手がキーアリーハだけって状況も似たようなモンだけどさ。
「今のキーアリーハがラッペトスの時ほど消耗してないのは、事前に貯めてた魔力を使ったから?」
「うん……ファルコンは、ほぼ翼だけで飛んでるから、あんまり魔力は使わないし、触れ合ってる状況なら魔法を使わない限り魔力の供給も出来るから」
そのファルコンをオレが喰っちまったんだよな?
「でもファルコンは、オレが喰っちまったが……怒ってないよな?」
「怒りゃしないわよ……影法師の使い魔はアタシの分身と言うか操り人形? シャドウみたいに複雑な思考はできないし、それ以前に自我と呼べるような物はないからね」
ほう、ファルコンなんて名前を着けちゃいても使い捨て上等な使い魔ってことですかい。
でも、オレがファルコンを取り込んだことで飛べるようになったワケだよな?
「オレがキーアリーハの影法師の使い魔を取り込めば、まだまだオレの能力って増えるのか?」
もしそうなら、オレって簡単にパワーアップできるじゃん!
「別に増えてないわよ? 元々あった能力を自覚して使えるようになっただけ」
……つまり、オレって自分の意思で身体の形を変えられるわけか?
「はい、シャドウ……魔力の無駄遣いはしない!」
実際に身体の形を変えられないか試そうと思った途端、キーアリーハに釘を刺される。
自分じゃ自覚はないが、オレって召び出された時より魔力が弱くなってるって言ってたよな?
この自覚がないってのは問題だわ……調子にのって魔力を使いすぎた結果、身体を維持できなくなったら洒落になんね~よ。
でも、キーアリーハから魔力の供給を受け続けられるなら、オレが空を飛んで帰るって事もできるワケだ。
いや、今のキーアリーハなら、もう一回ファルコンを作る事だってできるハズだ。
とりあえず、キーアリーハの実家に帰る手段は、まだまだあるってワケだ。




