12・猫に翼
元は前足だった手が、今は翼になってる。そして猫の後ろ足が今は猛禽の足……
目は……無茶苦茶よく見え、落っこちてゆくキーアリーハを一発で見つけられた。
……つまりアレだな。
ファルコンに食われた事で、オレがファルコンになったわけだ。
おかげて、飛び方も体が憶えてる。
とりあえずは、オレたちのご主人様たるキーアリーハの救助だわ。
そう判断し、オレは翼を畳み急降下を始める。無論、デカブツの挙動には気を配ってるよ。
キーアリーハを追い抜くと、オレは翼を広げ背中で受け止める。
さすがは我らがご主人様だ。この状況でもしっかり意識は保ってたよ。
「ファルコン、シャドウは、どうなったのっ!?」
う~ん……今のオレってファルコンなのかシャドウなのか、どっちなんだろうね?
「さあ? オレにも判んねぇよ?」
だから正直に答えてやる。
「シャドウ……アンタ、ファルコンを食べちゃったのっ!?」
……いや、むしろオレが食われたって認識なんだが?
って、デカブツがオレたちを照準した気配。それと同時に急加速してくれたよっ!
「この体、使い難いぞぉっ!」
俺は叫ぶ。
前の体なら、足で蹴飛ばし回避するって事もできたが、ファルコンの体は、そこまで可動範囲は広くないんだ。
つか、猫ほど柔軟な体じゃ無いってのが最大の問題か。
でも、やらなきゃキーアリーハは守れない。
だから突っ込んできたデカブツを蹴飛ばす事で、何とか直撃を避けたわけだが……なんかバリって裂けたような感触があったぞ?
……でも痛くない。
そして翼とは別に四肢の感覚がよみがえり、そして口内には牙の感覚も。
「シャドウ! やっぱりアナタ、大当たりの使い魔よっ!」
キーアリーハに言われる前に、オレは何があったのか見当がついていた。
まあ、オレがファルコンを取り込んだわけだね。今のオレはファルコン並みの体躯を持つ、翼を持つ黒猫なワケだ。
体が変わったからと言って、飛行能力に大きな変化が出たような感じは無い。むしろ猫の身のこなしができるようになった分、前よりやりやすいぞ!
回避に専念して、あのジェット・グリフォンが力尽きるのを待つか、それとも叩き落とすか……考えるまでもねぇな。
オレは瞬時に決断し、ゆっくりと旋回しつつジェット・グリフォン突っ込んでくるのを待つ。
「しっかり掴まってろよ?」
キーアリーハに向かって叫ぶと、オレは急降下で逃げると見せかけ、翼を開き急ブレーキをかける。
そして、オレの動きについて行けず真下を通り抜けるジェット・グリフォンに向かって爪を振るった。
最高速度じゃ勝ち目はねぇが、猫の動体視力を嘗めるんじゃねぇっ!
魔力の爪を五本。オレが出せる目一杯の長さで形成してやった。その爪が見事、ジェット・グリフォンを捉えた。
生物なら、間違いなく致命傷だ。
ジェット・グリフォンは煙を吐きながら飛んで行き、そして爆発した。
……なんで爆発するかねぇ?
爆発を眺めつつ、オレは思ったりする。
キーアリーハの電撃浴びた群体型なら、まあ血液が沸騰し気化する過程での爆発って事で理解はできるんだが。
「あれほどの使い魔を平気で使い潰すなんて……」
ほう……アレってオレ並みに激レアな使い魔なのか?
「つまりアレって、オレ並みに手が込んでるのか?」
「体の方はシャドウより手が込んでる……本物の獣を合成して幻獣を再現するってのは、本物の幻獣を捕まえ使い魔にするより難しいのよ。無論、魔力を集めて使い魔を形作るよりも」
という事は、オレってボディ自体は別に激レアってワケじゃ無い?
……って、なんか一気に疲れが出てきたんだけどっ!
「とりあえず着陸するわ……息が上がってきた」
そんなワケで、オレは地面に降りたわけだけど……着陸と同時に気が抜けたからか、体が縮んで元の大きさになったあげく、せっかく生えた翼も消えちまったよ。
おまけに歩けないぐらい疲労困憊……
えっと……この状況で、キーアリーハの実家まで歩いて帰るの?




