無題
「これは性交を象徴している。しかもかなりサディスティックな」
「戦争の醜さだ。赤い血が流れている」
「女の顔だね。三番目の愛人だよ」
「パリの街角よ。そこで新たな何かを見つけたんだわ」
有名な抽象画家の最新作を前に、批評家達は独自の解釈を展開していく。
そこに男が一人現れて、絵を申し訳なさそうに回収しようとする。
男は言った。
「違います、違うんです…」
批評家たちは寄ってたかって男をつつく。
「君、勝手に触るんじゃないよ」
「何をするんだね」
「こらこら」
「何が違うのよ」
男は言った。
「すみません。別の絵の下絵を飾ってしまいました。すぐ本物と交換致します」
「………」「………」「………」「………」
………
「暴力。言葉の暴力、視線の暴力、あらゆる暴力がここに詰まっている」
「生まれ変わりだ。胎児、そして子宮。生の粘液」
「見えない搾取に対するアンチテーゼだね。これは歯車」
「極限まで圧縮した白昼夢よ。経験の断片がミリ単位で混ざり合っているわ」
批評家たちは絵の解釈を心行くまで楽しむ。
そこに男が再び現れて、壁に掛けられた絵を外した。
批評家たちはその様子を黙って見ている。
男はひたすら謝った。
「すみません。すみません…」
男は外した絵を百八十度回転させ、再び壁に掛け直した。
そして絵の横の壁にプレートを貼った。
『タイトル ”無題”』
「………」「………」「………」「………」
そこに女が小走りにやってくる。
女は男に言った。
「先生。ご自身の絵でイタズラをするのはやめてください!」