オリジナル魔法が作りたい!
「おはよう、師匠。」
「おう、おはよう。今日も一段と早いのう。ちゃんと睡眠時間とっておるのか?幼子はよく食べ、よく動き、よく寝ることが大切なのじゃ。」
「わかってるって、それは問題ないよ。毎日のように体力をギリギリまで使い果たして帰ってるから、晩飯食べるのと体拭くくらいしか動く気力すら残ってないよ。おかげで毎晩ぐっすり眠れているよ。」
ハウラスさんとの修業を続けてかれこれ五年がたった。
あれからハウラスさんとかなり仲良くなった。
堅苦しいから敬語はやめてほしい、と言われてからは素の自分の話し方で接している。
ただ村の同い年くらいの子たちと一緒に遊ぶ機会は減ってしまったのだが。
もともと多くはなかったしどちらかというと年上の人とかかわる機会が多かったので、とくに寂しさを感じているというわけではない。
前世では親友と呼べる友達が何人かいたので、この世界でもそんな友達ができればいいなと思っていたので、その機会を自らなくしてしまったと考えると、もったいなく思えた。
でもそれは、仕方ないことでもある。
人は何かを成すためには何かを犠牲にしなければならない、という言葉を聞いた覚えがある。
俺にはこの世界のすべての事物を知り尽くすという大きな目標がある。
そのため村の人たちとの交流ではなく、自分を鍛えることに時間を割いたのだ。
そして俺は、その選択により目標達成のための大きな基盤づくりは順調に進んでいる。
この五年の間に見違えるほどの成長を遂げることができたと思う、というかめちゃくちゃ身長伸びた。
ハウラスさんはかねてから、俺に足りないのは筋力と手足の長さだと言われてきた。
ハウラスさんから教わっている武術は多種多様で、誰でも知っているような剣術や槍術をはじめ、見たことも聞いたこともないような古武術だったり、ほかの武術との複合がしやすくどの武術にでも適応し応用の利く基礎体術など、本当に多岐にわたる。
それらは全て、ハウラスさんが自ら体得したものだというのだから驚きだ。
そして、俺ができる最大限の努力をしているつもりなのだが、どうも今までの小さく未発達な体のままでは武術そのものとの相性が悪いらしく、うまく力を発揮できなかった。
しかし、それは時間の流れが全て解決してくれた。
十二歳になって、前よりはがっしりとした体格になり、鍛えつづけてきた筋肉がようやく十全に力を発揮できるようになった。
体づくりと各武術の基礎知識・形の練習ばかりを続けてきたが、最近では実戦訓練も行うようになった。
この調子で成長し修行を続けていくと後五年もすればほとんどのことは教えきれると、ハウラスさんは自分の指導力を自賛しつつも、俺に才能があることを認めてくれた。
現状、武術の修練は順調に進んでいるし、できるなら武術を教わり切ったときにコノ村から出て、どこか大きな町に行こうと思っている。
ただ、それには小さくはない問題があって……。
「それじゃあ、今日も今日とて始めるか。」
「といっても、そんなに簡単に新しい魔法なんて作れるものではないがの……。まぁ、魔法が発動せずとも魔力は使うだけで成長するが、そんなことをせずとも既存の魔法をつかえばいいのではないかのう。」
「それだと面白くないだろ?なんかこう、……かっこよくない?そういう自分が作った魔法で戦うって。」
「うぅむ、わからんでもないが……。まぁ、見ている分には飽きぬからいいがの。」
そう、俺はオリジナル魔法を作るために日々奮闘しているのである。
ただでさえ魔法そのものがロマンだと言うのに、それの先駆になれるかもしれないとなると熱中したくなるものだろう。
新しい魔法を作るには、魔指を使って魔法陣を描くことから始まる。
ここでハウラスさんから教わった、魔法陣を描くときに大切なことをおさらいしておこう。
まず、魔法陣には内円と外円というものがある。
内円の中に五芒星を描く、これがなければ魔法陣として成り立たない、というよりはこれでは魔法は必ずと言っていいほど発動しないらしい。
ごく少数の例外があるようなのだが、ハウラスさんでもそれがどんな魔法なのか知らないと言っていた。
それで、五芒星を描いた後、内円と外円の間に模様を描くことで魔法陣が完成する。
この模様の複雑さや内円と外円の幅の広さ、魔法陣自体の大きさによって消費する魔力が大きくなる。
小さい魔法陣に多くの魔力を込めれば相応の威力や効力を発揮するのだが、小さい魔法陣には込められる
魔力の限度が大きい魔法陣よりも小さくなる。
これは魔指で描かれた線の長さに比例すると、今までの魔法の研究でわかったことだ、まぁ研究といってもただ魔法陣を描いて魔力を込めるという、単純作業をしていただけなのだが。
まぁそれはいまはどうでもいい。
ここで重要なことを一つ、魔法陣は時間が経つにつれて込められた魔力が抜けていくのだ。
長く維持するためには、多めに魔力を込めておくか魔力をつぎ足していく必要があるというわけだ。
こうしてできた魔法陣は魔力を込めた人とパスが繋がっていて、任意のタイミングで魔法を発動することができる。
それじゃあさっそく、新しい魔法を作っていこう。
内円・五芒星・外円を描き、適当に模様を描く。
先人たちも今の俺と同じように適当に模様を描いていたのだろうなと思うと、非常にワクワクしてきた。
「ここをこうして……、できた!これで問題ないか?」
「うむ、発動させてみるとよい。」
「よし……、発動!」
俺の声に応じて魔法陣が光を放つ、俺の魔力と同じ白色の発光だ。
その光はどんどんと輝きを増していき、そして……。
数十秒経ったがなにも起こらなかった、ただ光っているだけだ。
「うーん、またこれか…、失敗だな。」
「やはりそううまくはいかぬといううことだ。元々魔法を新たに作るということは根気のいることなのじゃ。失敗なぞそれこそ万を超えるほどするじゃろう。あきらめずに続けていくのじゃな。」
確かに、そう簡単にはいかないとわかってはいるのだが、何か引っかかるんだよな。
もしかしたら気づいていないだけで、意外と簡単にいく方法があるのかもしれない。
一から本でも読んで考えてみるかな。