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転生したオタクゲーマーは異世界RPGを攻略する。  作者: シュトロム
二章 修行編(仮)
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晩飯行くか

 聞きなれた風切り音がする。

 一振り、また一振りと木剣を振るたびに追随して低く重い音が鳴る。


 普段腰に下げている木剣は、通常の片手直剣サイズではあるが同サイズの鉄剣より重い。

 コノ村付近の森の木を適当に削って作ったのは俺が十歳かそこらの時。

 当時の俺の筋肉量的に、これぐらいの重さはあるだろうなと思っていたのだがどうやらそうではなかったらしく、片手で持った感覚で言うとだいたい木製バット1.5本分くらい。

 今でも片手で使うと少し振り回される、師匠が聞いたら『まだまだ未熟よな』とか言われそうだ。

 実戦で使えないこともないが、本気でやるならやっぱり素手の方がいい。

 まぁ今みたいに素振りをして体の調子を確認するには役に立つ。

 何より、自分で一から作ったという思い入れもある。

 できるだけ壊れてほしくはない、という思いから実戦で使わないようにしている一面もあるのかもしれない。

 どちらにせよ、徒手空拳が一番というのは変わらない気がする。

 …少し心配しているのは、素手だと倒せない・魔法が効かないという条件がそろってしまうとかなり苦戦しそうだなということだ。

 一つくらいちゃんと使える武器も持ったほうがいいのかな、と思ってはいるが鍛冶師の伝手がない。

 いや、ロキオス氏がいるから伝手がないことはないが氏は武器はもう打たないらしいし、氏以外に鍛冶師の知り合いはいない。

 まぁ、今はまだいいか。

 必要な時になったらこの木剣を使って何とか乗り切ろう。


 頬に汗が伝う。

 振っている時間的には一時間にも満たないくらいだと思うが、ほぼノンストップだったし体力的にはこれぐらいあれば十分だろう。

 そもそも長時間の継戦力なんてそこまで必要ない、そうならないように早めに殲滅するか逃げるかするほうが賢い。

 もし実践で一時間も戦うような場面になったとしたら、まぁなんとかするしかない。

 できるかどうかはわからないが、やったこともないしできればそんな経験もしたくない。

 結局のところ、そんな場面にならないとどうなるかわからないってことで。


「フゥ……。」


 まぁ、体はちゃんと動かせてるみたいだな。

 変な後遺症とかなくてよかった、あったら任せろみたいなこと言ってたあの残念女神に文句言ってるところだ、会えないから直接言えるわけじゃないけど。

 とにかく、問題なく明日試験の続き?を受けられそうでよかった。

 そろそろ宿に帰ろうかな。

 俺がどのくらいの間、医務室で寝ていたかはわからないが今の時刻は大体五~六時前後くらいか、もう空がかなり赤みを増して赤と青のグラデーションが作り出されている。

 今日の晩御飯はなんだろうなぁ。


「…ん?」


 帰ろうと街の方角へ振り返ると、なんか違和感を感じた。

 違和感というより気配か、前にも同じことがあったような気がするな。

 ふむ…………。


「……尻尾、見えてるぞ。」

「え、嘘!?」

「嘘だ。」


 大体の当たりをつけて、ハッタリを言ってみたのだが見事に引っかかったな。

 素直で可愛らしいことこの上ないが、なんでまた隠れていたのか。

 前回、俺の後をつけてきていた時は理由が分かっていたが、今回に関しては全く分からない。


「別にそのままでも話はできるけど、どうする?」

「……あー、っと。」


 おずおずと、気の後ろからでてくるのは言わずもがな。


「1・2時間前に別れたばかりだったと思うんだが。」

「そうなんだけど……、ちょっと心配になって。」

「見てのとおりピンピンしてるって。」

「うん、本当にそうみたいだね。よかったぁ…。」


 うーん、まだ責任を感じているのかな。

 彼女自身の気持ちの問題だから、これ以上俺がどうこう言っても慰めにならない。

 そういう性格なのだろう、詮無いなぁ。


「…よく場所がわかったな。ついてきていたようには感じなかったけど。」

「フフン、私意外と鼻が利くんだよ!」


 それは胸を張って言えることなのか?

 この世界に生まれついてこの方17年、未だわからないことが多いなぁ。


 イデアの嗅覚は前世でいう犬並みなのだろうか。

 もしそうじゃなかったら、俺はすごい臭うのかもしれない。

 自分ではそんな気はしないんだが、自分の臭いは自分じゃわからないって聞くしなぁ。

 あぁ、風呂入りたいなぁ……。


「それにしても変な、……個性的?……面白い素振りをしてるんだね!」

「わざわざそこまで言い換えようとしなくても、別に『変な』でいいよ。」


 師匠に一番教わったのはもちろん体術であるため、たとえ剣を振っていても体さばきは剣士のそれとは違ったものになってしまった。

 体術以外にも剣術・槍術・弓術をはじめ、投擲術とか忍術とかなんでそんなものまでっていう(わざ)という術を色々教えてもらった。

 その過程で動きが統合されて剣術的には無為なところで跳んだり、両手剣を片手や逆手で持ったりと傍から見れば初心者か子供の遊びにしか見えないだろう。


「俺自身はこれが最適な動きだと思ってるけど、変なのは間違いないから。まぁ基本素手で戦うしこっちが変でも問題ないだろ。」

「ふーん…。」


 何その含みを持った、ふーんは。


「意外と戦っ(やっ)てみたらやっかいそうだなぁ……。」

「お前もか……。」


 それ師匠にも言われたよ、勝てなかったけど。

 『熟練度と経験の差かのぉ』とか言ってたけど、正直俺としては勝てるビジョンが見えなかった。

 どれだけ練習しようが、実践経験積もうが無理だと思う。

 というか、その理論なら師匠と十分すぎるほど練習したろうに。

 やっぱり素手だな、うん。


「ちょうどいいや、晩飯食いに行こうぜ。おごるって約束したしな。」

「やったー!どこで食べるの?」

「俺が今泊ってるところの食堂。毎日品目変わるから何が出てくるかわからないけど、味はいつもばっちりだ。期待してくれていいぞ。」


 山を下りながら、どんな晩御飯が出るのか話しながら歩いた。

 街に着くころには空は夕焼けの赤から、黒くもほのかに明るい月夜へと変わっていた。

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