ポンコツとは言わせない
…まぁ、ポンコツな神様のことは置いておいて。
ここはどこなんだろう?
ベッドから身を起こし周りを見渡してみる。
いくつかの瓶や箱が並ぶ棚、仕切るためなのか部屋の中にあるカーテン、机が一つにイスが二つ。
なんか、保健室みたいなところだな。
イデアがここまで運んでくれたのか、ここが医療施設であるのは間違いないだろう。
「ん…?」
今まで気づかなかったが右手が紙を握りしめていた。
「これは、……書置きか?」
四つ折りにされた紙を開くと一切癖のない活字ような、いや実際活字なのかもしれない字で十数行の文が綴られていた。
日本語で。
「ッ!?」
瞬時に紙を隠し、周囲の気配を探った。
……誰もいない、か。
誰が届けたのか定かじゃないが、ちらっと見た文字が日本語であることは間違いない。
この世界に俺以外に日本語を扱える者がいるということなのか?
いや、それよりもまずこの紙が俺のところにあるというのは、相手が『俺が日本語を扱える』ことを知っているということになる。
俺が異世界から転生してきたことを知っているのは、両親と師匠、鍛冶師のロキオス氏の四人。
だが、その人たちにすら日本語を教えたことも見せたこともない。
可能性があるとするならロキオス氏だが、氏はそんな回りくどいことをするようなタイプではないと思う。
いずれにせよ、怪しいものであることに変わりない。
そして第一文を読んで、
「…はぁぁぁ………。」
盛大にため息をついた。
第一文にはこう書いてあった。
『私です。女神です。』
どれだけ時間が経ったかはわからないが、俺の記憶では精神世界的なところでさっきまで話していたことになっている。
そこで『さてはこの神ポンコツだな?』と思い、できるだけ関わりたくないなと考えた矢先にむこうから接触があるって。
図ってやってないだろうな…。
色々考えた意味なかったじゃないか、くそぅなんか恥ずかしい。
気を取り直して続きを読もう。
『この手紙を見て、あなたはため息をついてるんでしょうね。』
先読みされている、だと…。
それができるなら手紙なんて送ってくるなよ。
『まぁそれはさておきまして、先程説明しきれなかったことを簡潔に説明させていただきます。』
「説明しきれなかったこと?」
『あなたが今後魔法を使うにあたって伝えておくことがあります。』
…そうだ、俺は一番大事なことについて何も知らないじゃないか!
魔法を使いすぎると寿命が削れると言われていたのを今の今まですっかり忘れていた。
『先の戦闘で削れた寿命は僅か二時間程度でしたが、これからどのような人生をあなたが送るのか。』
『そこまでの未来視は私にはできませんから、マナが魔力に変換されるのをこちらで』
『管理・制御することで疑似的に魔力量の最大値を設定することで寿命の減少を防ぎます。』
『なので、魔法を使うことに躊躇する必要はありません。』
…普通にありがたい。
普通に魔法が使えるようになるのは選択の幅が広がって動きやすくなる、魔法の有無は俺にとってかなり重要だ。
俺を転生させているからの特別扱いだろうが、ちゃんと神様らしいことをしているあたり、思ったよりポンコツじゃなかったのか?
『ただこの処置をしたためにいくつか問題が発生しました。』
『一つ目、常時体中をめぐっている魔力が極限まで少なくなりました。』
『二つ目、他者から魔力を感知されづらくなりました。』
『三つ目、魔法に対する耐性が著しく低下しました。』
んー、一つ目二つ目はに関しては、以降どんな影響があるかわからないから保留でいいが、三つ目に関してはかなり困るな。
刃狼のルアのような魔法を使う魔物と戦うことになったら、今までと比べてかなり不利になることは言うまでもない。
それに万が一ではあると思うが、対魔術師戦にでもなったら大苦戦は必至だ。
『三つ目に関しては、影響が大きそうなので少し体をいじって外部からの魔法に対する抵抗力は』
『あなたの身体のポテンシャルに合わせて上げられるだけ上げておきました。』
急に怖いこと書いてあるんですけど!?体いじるって何!?
後神様の上げられるだけってどこまでだよ、とんでもないことになってそうだな。
…ま、まぁないよりはいいか。
自分の身体のポテンシャルがどんなものなのか知らないし、もしかしたら大したことないかもしれない。
あまり過信しないでおいた方がよさそうだな。
『これで伝えきれなかったことは、すべてです。またお会いする時があるとすれば』
『また同じようなことが起きたときでしょうね。そうならないことを祈っていますよ。』
俺もそう思います。
というか直接会って話した時には、あんなにも遠回りな話し方だったのに手紙だと直接的でわかりやすかったな。
最初からそうであってほしかった、まぁもう過ぎたことだから気にしたら負けだ。
やればできるんだなあの女神様も。
「……ん?まだ続きがある…。」
『わかりやすくと言っていたので、伝達神に助言を受けつつ書きました。』
『どうです?これでもうポンコツとは思わせませんよ。』
ぐしゃぁっ!
手に持った紙くずをぐしゃぐしゃに握りつぶして、思いっきり正面にぶん投げた。
その紙ごみは空中で白い炎に焼かれて灰も残さずに燃え尽きた。
さすがにあのごみをほかの誰かに見られるのは神的にアウトなんだろうな。
……うん、ポンコツは撤回しよう。
これからは残念女神と思うことにした。
さっきとは違う意味で更に会いたくなくなった。




