久しぶり
「17年ぶりですね、達人さん。いえ、今はリュートさんと呼んだ方がいいですか?」
見た事のある白い天井と聞いた事のある女性の声。
倒れていた身を起こすと、予想の違わず腰ぐらいまでの長さの金髪と琥珀色の瞳を持った美女、つまりは神様がいらっしゃった。
...ということは、
「え、俺また死んだの?」
「死んではいませんよ。」
「...お早い回答ありがとうございます。」
確か、中級昇進試験を受けて、試験官のイデアとメル雪山に行ってたんだよな。
それであのとんでもない魔物を倒して、そのせいで魔力を使い切って倒れた、はず。
じゃあ、なんで俺はここにいるんだ?
「お答えしましょうか?」
「...それは俺が今考えてた疑問に対して答えてくれるってこと?」
「はい。」
初めて会った時は思考を読んだらすぐに回答してませんでしたっけ?
「その時に『サラッと心読むのやめてくれません?心臓に悪いんです。』と言ったのはあなたですよ?」
...言ったような気がする。
まぁ、神様が言うのだから俺が覚えている覚えていないに関わらず、そう言ったのだろう。
「...ご配慮痛み入ります」
「よろしい。では、」
そう言って両手を広げると数枚のガラス板のようなものが現れる。
ガラス板は俺の前にふわふわと飛んでくる。
そこには三人称視点で見た俺やイデアが映っている。
神様式写真的なものだろうか。
本当に全部見られてたのかと思うと少し恥ずかしい。
「貴方は雪山へ行き、魔物と戦い、魔力の過剰消費で気絶した。ここまでは貴方も覚えていますね?」
「はい、......はい?」
魔力の過剰消費?
残ってる魔力を全て使うつもりの攻撃はしたが、過剰消費ってどういうこと?
「過剰消費というのは、普段生命活動を行うために消費されているマナが魔力に変換されていることを指します。そのせいで貴方は気絶している訳ですが。」
マナってのは魂が生成する生体エネルギー的ななにかだよな。
それが体外に漏れて寄り集まると魔物が産まれるんだったはず。
それがないとこの世界じゃ万物等しく形を失って土に還るとかなんとか。
「なぜそんなことに...。」
「『魔力を全て使う』ということを、意識的に行うことは本来不可能です。ですが貴方はしようと思えばできるようです。...いえ、できるというよりそうなってしまうと言った方が適切ですね。」
「...つまり?」
「魔法が不発することはありませんが、現存保有魔力以上を使いすぎると寿命を削ります。」
「何その諸刃の剣、要らねぇ...。」
それってただの自滅行為では?
でも使いすぎなければいいんだ、難しい事じゃない。
8割9割で抑えておけば、
「その上、自身の魔力量はあまり正確には把握できないようですね。」
希望なんてなかった。
「...俺、魔法の才能ないのか...?」
「その代わり、魔力操作はかなりのものですよ?緻密な操作も魔力量の調整もお手の物です。」
「...でも使ってると知らないうちに寿命削ってることになるんだろ?」
「はい。ですが、そのために私がここにいます。」
「いきなり話が元に戻った!?」
「初めから逸れてなどいませんでしたが?」
「俺が気絶した理由しかわからなかったんだが?というか途中から俺のステータス公開みたいな会話だっただろ!」
「そうですね、興が乗りました。」
......さては、この神ポンコツだな?
「む、失敬な。これでも情報を司る神ですよ?」
「その情報でより残念感が増したわ!情報司ってるのに情報伝達下手くそってどういうことだよ!!」
「情報伝達は伝達神や記録神の得意分野です。私はあくまでも情報に対して関与することが得意なだけです。その後のことは知りません。」
「あぁ、もう手遅れだこの神!」
頭を抱えながら叫びたい衝動がとうとう抑えきれずに真っ白な天井を仰いだ。
そうしたせいか天井にヒビが入っているのが見えた。
そのヒビを見つけた瞬間から少しづつ広がっていた範囲が急速に拡大し、目に見える範囲全てに亀裂が走り始めた。
「なんだあれ?」
「おや?もう時間ですか。」
「へ?」
さっきからもう何が何だかわからなくなってきてる俺に、これ以上訳の分からないことを言うつもりじゃないだろうな。
「貴方はあと少しで目が覚めます、魔力もマナも安定してきましたから。」
「それとあのヒビにどういう関係が?」
「夢というものは唐突に覚めるものでしょう?そういうことです。」
「じゃあ初めからここは夢の中だったってことか!それを最初に言え!!」
「さっき言ったじゃないですか。『貴方がここにいる』のではなく『私がここにいる』と。」
「そんな言葉でわかるか!もっとわかりやすく言ッ!?」
亀裂は真っ白な空間全てに行き渡り、空間そのものが崩壊した。
謎の浮遊感が体を包むのと同時に、重力に引っ張られ裂け目に落ちていく。
「うぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
落下速度は速く、裂け目の中は先程とは打って変わって真っ暗だ。
回転しながら落ちているため、どこが上でどこが下かわからなくなった。
夢とわかっているが、底知れない不安に包まれ、そしてーーー。
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目が覚めた。
目の前に広がる景色は1色、ではなかった。
知らない場所だが、あの真っ白な空間でないことがわかるだけでも安心感がある。
できればもうあの空間には行きたくないと、ポンコツ女神とできるだけ関わりたくないとそう思った。
女神はポンコツ女神に進化した。




