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転生したオタクゲーマーは異世界RPGを攻略する。  作者: シュトロム
二章 修行編(仮)
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大熊を狩れ 6

 数分ほどかけて雪道でなくなる程度、麓の方まで下りてきたわけだがこれからどうするかを早急に決めなければならなくなった。

 もともとここには依頼を受けてきた、内容は『メル雪山に生息する魔物の確認及び討伐』。

 魔物の討伐に関しては戦利品袋もあるし十二分に達成している、しかし確認の方はどうだろうか。

 ロックベアーがいることは確認したが他に何がいるのか確認できていない。

 メル雪山にはロックベアー以外にも確実に魔物が存在するはずだ。

 報告が不十分だと依頼達成にならない、だがこのまま依頼を続行して受けていていいものだろうか?

 山頂に少なくともロックベアーの群れが逃げ出す程の強力な魔物がいることは間違いないだろう。

 そんな相手に現状で立ち向かえるだろうか、答えは否だ。

 さっきの群れはイデアの力を借りて一掃したからよかったものの、純粋に戦っていたら数分もたたぬうちに死んでしまう。

 回復したとはいえ本調子ではないイデアと俺では勝てないことは明らかだった。

 ここまで不利な状況であるとわかった上で、帰還する以外に選択肢はないはずだった。


 だが、俺たちは今だに山の中腹にいる。

 嫌な考えが頭をよぎるのだ。

 ロックベアーの群れが逃げ出すような魔物、ソイツは今どこで何をしている?

 これは予測でしかないが、逃げ出した群れは初めはあんなにも大所帯じゃなかったのではないだろうか。

 逃げていくにつれて数が増し、あの数になったのでは?

 もしそうなら魔物が逃げ出して自然と形成された群れは俺たちの方向にしかきていないのでは?

 それにあの数になるまで逃げてきたのであれば相当の距離を移動していることになる。

 長距離逃げてきたのなら途中で振り切っている可能性だってある、それに気づかないほど魔物は馬鹿じゃない。

 だが群れは俺たちがいるところまで全力で逃げてきた、イデアの攻撃に気づかないほど必死に。


 ここまで考えれば導き出される答えは一つ。

 ソイツも山を下りてきているのだ、群れの全速力と同じほどではないにしろ確実に。

 悪い考えは悪い考えを呼ぶ、俺の頭の中はぐちゃぐちゃだ。


 ソイツのわかっている情報が少なすぎる。

 ソイツは単体か複数体か、亜種・特殊体か外来種か。

 それだけじゃない、大きさは?体格は?素早いのか?剛力なのか?近接攻撃?それとも魔法を使う?

 わからないことが多すぎる以上、そう簡単に手出しできない。

 俺たちが町へ帰り報告している間に山を下りきり、暴れまわったらどうする?

 だが放置することもできない。

 かといって俺たちだけで迎え撃つことはできない、足止めはできるかもしれないが俺とイデアの二人でなければまともに戦えるかどうか。

 一人が足止め、一人が報告に、と分けるなどもってのほかだ。

 これでは堂々巡りだ、どうする?どうする…?


「もう一度登ろう。」


 思考の渦に飲み込まれていた俺は、イデアの一言で意識が現実に引き戻された。


「報告をしに戻るにしても情報が足らない。山頂の方で何があったのか、何がいるのかを確かめてからじゃないと。」

「何言ってんだ、まだ回復しきってもないのに。落ち着いてちゃんと考えて…。」

「落ち着いてるからこそ、だよ。」


 真剣な顔で言うイデア、その様子からは彼女の言うとおり焦りは一切なく落ち着いているようだった。


「それならわかってるだろ?今のままじゃ良くても普段の五割の力しか出せないはずだぞ。」


 魔力のほとんどを使い切ったんだ。俺が処置したとはいえそんなにすぐに回復しない。

 魔力の回復は、個人差はあるが十分で総量のうちの一%しか回復しない。

 俺の施した処置は俺の魔力の譲渡ともう一つ、回復の促進の効果がある。

 促進とは言ったもののその差は微々たるものだ、精々コンマ一%増えるか増えないか。

 さっきの魔法を放ってから精々三十分程度、俺の処置も含めてイデアの現保有魔力は通常時の一割にも満たない。


 まともに魔力を扱えていない今のイデアでは、戦闘中に魔法を使用するという意味では影響は出ないだろうが、魔力があるだけでも効果はあるのだ。

 大きく表れる効果としては、『魔法による攻撃全般の抵抗力をあげる』ことと『身体能力の補助』が挙げられる。

 そもそもの魔力量が少なければ微々たる効果に過ぎないが、イデアの場合はそうはいかない。

 彼女の魔力量は群を抜いて多い、悪魔である師匠でさえここまで多くの魔力は保有してなかった。

 となれば、それによって得られる恩恵もまた大きい、特に後者はイデアには必要不可欠ではないだろうか。

 イデアの戦闘スタイルは背中に背負った大剣を使った剣術だろう、体術も使うかもしれないがメインはそっちのはずだ。

 故に後者の『身体能力の補助』は効果が大きければ大きいほど、大きく重い武器を扱う上では必要となってくる。

 現状のイデアが戦闘する際に、身体能力の低下は相当の痛手となるだろう。

 一般常識とまでは言わないが、冒険者や戦うことを生業にしているものは誰もが知っている知識だ、イデアが知らないはずないのだが。


「んーと、ちょっと見ててね?」


 そういうと、背中に背負った大剣を抜き正眼に構える。

 ふぅ、と一呼吸置き上段に振りかぶり勢いよく振り下ろす。

 その一連の動作は流麗で一切力任せではなかった、しっかりと技術を体得している証拠だ。

 それに大剣でこの動作をすると大剣の重さに振り回されがちだが、イデアは完ぺきにコントロールしていた。

 それは動作ごとの静止のタイミングで剣先を見ればよくわかる、ブレなく美しく静止している。


「どう?これでも心配?」


 いたずらっぽく笑うイデアに俺が何を考えていたのか筒抜けになっていたことを知った。

 敵わないな、これが人生の先輩ってやつか。

 年上かどうかまだわからないが。


「わかった、登ろう。でもすぐに戻るからな!」

「はーい。」


 もしも今から見に行くソイツにばれたとしても逃げ延びることくらいはできるだろう。

 先達の言葉におとなしく従うとしよう。

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