大熊を狩れ 5
体調不良のため遅れました。まだ咳きは出ますが来週も投稿できるよう頑張ります。
「おーい、大丈夫か?」
「うぅ…、少し気持ち悪いかも……。」
流石にイデアの膨大な魔力量を持っていても、さっきの魔法にほとんど使い切り所謂魔力切れというやつになっているのだろう。
魔力切れ状態になると激しい頭痛と吐き気に襲われ、まともに身動きが取れなくなり最悪の場合気絶する。
死にはしないと考えれば怖くないように思えるが、気絶する直前の頭痛の激しさは想像を絶する(経験者)。
イデアはそこまでひどい状態ではないようだが、つらいと感じることに変わりはない。
それに半分は俺が無理に魔法を発動させたのが悪い、俺が治してやるべきだ。
「ちょっと肩、触ってもいいか?」
「……今度は、何をする気…?」
「今イデアは魔力切れという状態になっている。それを治したいんだ。」
「…………。」
…まぁ警戒するよな、普通。
魔力切れになった原因は俺だ、そんな奴にいきなり体を触らせてくれと言われて「はいどうぞ」となるわけがない。
だけど症状を治すには直接触れる必要がある。
「もちろん無理にとは言わない、イデアなら数分休めば元通りになるからな。でも数分の間そのつらい状態は続くことになる、その原因を作ったのは俺だ。お詫びと言うには勝手だが、それを治させてくれないか?」
「………。」
イデアは黙ったまま、静かにこちらを見つめ返す。
俺が信用できるか見定めている、といったところだろうか。
俺も目を離さずじっと見続ける。
信用してもらおうとあれこれ言っても意味はない、黙して待つしかない。
数秒して、イデアはしぶしぶといった様子で言った。
「……わかった、その言葉信じるよ。だから、優しくしてね?」
「まかせとけ、むしろいつもより快調にしてやるさ!」
許可は得た、後はイデアの信頼にこたえるだけの仕事をするだけだ。
そっと肩に触れ指先に魔力を集中させる。
魔力切れを治すには魔力を回復する必要がある、自然回復が基本なのだが他にも裏技のようなものがあるのだ。
あれは三年前の話だ、俺と師匠で俺の白い魔力がどんな特性を持っているか調べようとした時のこと。
一般的な五色の魔力はそれぞれ対応した得意属性を持っているが、俺の白い魔力には得意属性はなかった。
それなら属性の得意不得意とは別の特徴があるだろうと、師匠が言い出したのがきっかけだった。
それから一週間ほどかけて見つけたのが『魔力への干渉力が高い』ということだった。
『魔力への干渉力が高い』というのは、ざっくりいうと魔力自体をある程度自由に扱うことができるということだ。
この話と今の状況がどうつながるのかというと、その力を使うからこそ魔力切れを自力で治すという荒業ができる理由になるからだ。
自分の魔力を自由に操れるとはいうが、どこまで自由かというのはまだ把握しきれていない。
だが、師匠はこう言った。
「普通の魔法を平均的に使うことができるんじゃから、質の良い魔力や熟練の魔法使いと出会いそれを真似れば、お主の魔法を強くできるかもしれんのぉ。」
ということは、俺の魔力はその質や得意属性すら変えることができるんじゃないだろうか。
物は試しにと師匠に手伝ってもらった結果、俺は自分の魔力を人の魔力にそのまま模倣できることが分かった。
今回はそれと俺の魔力への干渉力を使う。
さっきイデアの魔力を使って魔法を放った時に魔力の特徴や癖は把握済みだ。
穏やかでありながら力強さを兼ね備えたいいい魔力だ。
指先の魔力に意識を集中させて、魔力の模倣を始める。
徐々にではあるが俺の魔力の白が緑に変わっていっている。
緑白色となった魔力に干渉力を使い、空気中の魔力は他の魔力に引き寄せられる特性に強化と変更を施し、強制的に体表で発動させる。
後はそれを体表から引き離してイデアの肩に纏わせておけば処置は完了だ。
緑白色の魔力が微かに残ったイデアの魔力と混ざり、そのまま馴染んでいき元のイデアと遜色ない色に戻った、俺の魔力がイデアの魔力に溶けた証拠だ。
「よし、終わったぞ。」
「え、もう?」
「あぁ、さっきより大分ましになったんじゃないか?」
「…本当だ、いつのまに…。どうやったの?」
「そういう話はあとでな、今はここを移動することのほうが先決だ。」
「……そうだね、わかった。」
色々あって忘れかけているが、あのロックベアーの群れは一斉に山頂のほうから下りてきた。
それはなぜだ?あれだけの数のロックベアーが逃げてきた理由が山頂にあるということだ。
それが魔物なのかなんなのか、なんにせよこの場にとどまり続けることは危険だ。
多少は回復したがイデアは万全ではない、ロックベアーの群れをすべて蹴散らせるような魔物がいるのだとしたら今遭遇することは避けたい。
俺たちは一まず安全と思われるところまで下山することにした。




