大熊を狩れ 2
イデアは震える足で何とか向きを変え、俺に背を預けるように寄りかかる。
「うぅ、ムズムズするよぉ…。」
「すぐに楽になる、じっとしてろよ。」
そうこうしている間にも迫る群れを見やる。
ぱっと見の速度から考えると俺たちがいるところにはたった数秒でついてしまうだろう。
だが、その数秒さえあれば魔法を起動させるには十分だ。
「『魔力放出』!」
イデアの魔力に干渉して直接書き込んだ魔法陣を起動させる。
すると、イデアの漏れ出た魔力が魔方陣に収束し始める。
緑色の光が徐々に強くなっていき、体外の魔力がすべて魔方陣に集まった瞬間に前方へ解き放たれた。
前方、それすなわちロックベアーの群れにだ。
先頭のやつらはは魔力の奔流に気づき止まろうとするが、坂道を駆け下りてきているため急に止まることができず、いまだ気づいていない後方組が速度を落とした前方組に追突。
雪崩のように迫りくる群れと放たれた光線が接触した。
瞬間、魔物が吹き飛んだ。
イデアの魔力は風属性、その属性を帯びた光線によって地を這うものは切り刻まれながら坂を逆流するように押し返され、体が浮きあがったものは瞬く間に宙を舞い彼方へ飛んで行き光の粒子となって消えていくのが見えた。
十数秒経ち光線が収まった後、そこには積もった雪がえぐられた跡と魔物が残した戦利品袋、運よく逃れられた数匹のロックベアーだった。
「これは、ちょっと想定外だったな……。」
イデアが俺とは比べられないほどの魔力を持っていたのはわかっていたが、まさかこれほどとは。
俺はイデアの外に出た魔力に干渉して魔法を発動させた、本来ならその時点で放出されている魔力にしか適応されていない。
しかし、常に溢れ出る魔力は行き場を求めて過剰に魔方陣に吸収されてしまった。
結果としてとんでもない威力の魔法になってしまう、正直かなり焦った。
制御が利かなくなる、という意味ではなくイデアの魔力の使い過ぎのほうで。
あの威力の魔法を俺が放とうとしたら、かなりの無理をする必要がある。
できないとは言わないがしたら卒倒してしまうだろう。
対してイデアはというと……。
「ふにゅぅぅ………。」
今までまともに使ってなかったからか、慣れない感覚に腰を抜かしてしまっている。
過剰な魔力の消費のせいで疲れているようだが、気絶しないでいられるのだからそのポテンシャルは計り知れない。
一先ず、イデアは放っておいても大丈夫だろう。
「そんじゃ、俺は残ったやつの後始末でもするか。」
目視で確認できるロックベアーは、五体。
やつらが体勢を立て直す前に叩く!
俺は徐々に戻り始めている雪道を駆け上がった。




