大熊を狩れ 1
突如として現れた魔物に、焦りが生じそうになる。
落ち着け俺、こういう時こそ冷静になれ。
まずは現状の確認と整理だ。
俺にはまだ視認できない距離に把握するためには...、
「ここからロックベアーの大体の数はわかるか?」
「!?えーっと......、ダメ。先頭を走ってる4匹はちゃんと見えるけど、雪が舞い上がって後ろに何匹いるかはわからないよ!」
「そうか...。」
敵の数がわからない以上、このまま降りてくるのを待っていたら危険だ。
かと言ってこの辺りに隠れていられるような場所はない、強いて挙げるなら雪の中だが外の状況がわからなくなるのはより危険になる。
となると後は…、
「イデア、事情とか諸々全部後で話すから手伝ってくれ。」
「いいけど、あれをどうにかできるの!?」
「やってみないとわからないが、やらないよりはましだ。...どうする?」
イデアは一瞬の逡巡の後に、覚悟した目付きで答えた。
「...やる!」
「よし、いい返事だ。」
「私はどうすればいい!?」
「俺の前に立ってくれ。」
「うん、ここでいい?次は?」
「気張れ、あとくすぐったいかもしれないが我慢してくれ。」
「くすぐったい?」
俺はイデアの腹部に、正確にはイデアを覆っている魔力に対して魔法陣を描きはじめる。
「ひゃぁう!!?」
「あんまり動かないでくれ、少しの辛抱だ。」
「そう言われても、ひぃやぁ!!」
わかるぞー、くすぐったいよな。
魔力は生き物の持つエネルギー的な何かであるマナが変質したもの、極端に捉えれば体の一部と言ってもいい。
自分で扱う分には問題ないが、他人にいじられると形容し難い感覚に襲われる。
だが別にその感覚は激しく感じられる訳では無い、ただそれがくすぐったいという表現が一番近いのだ。
そのせいで頭でくすぐったいと勝手に認識して、通常以上に鋭敏に感じるようになってしまう。
特に魔力量が多い人はより一層強く感じる、俺がそうだからな。
師匠と実践訓練している時、よく魔力に干渉されていたからイデアの気持ちがよくわかる。
俺は淡々と魔法陣を描いていくが、イデアはただでさえ獣人族で五感が鋭いというのに魔力量も多いから非常に辛そうだ。
そして俺が描き終える頃には足がガクガク震えるほどになっているがなんとか耐え切ったようだ。
「上出来だ、よく頑張ったな。」
「はぁ...はぁ...、もうダメ......立ってられないよ...。」
「悪いがもう少し我慢だ。大丈夫、支えてやるから。」
「うぅ.......。」
イデアが俺に寄りかかれるように移動して、イデアの肩越しに頂上方面を見る。
ロックベアーの群れは既に俺にも視認できる所まで降りてきている、せいぜい300メートルかそこらだろう。
成功するかどうかわからないがこの一撃にかける!




