中級昇進試験 7
遅れました。時間が取れそうなので来週も投稿します。
残された痕跡をたどりながら山道を進むと、雪が所々に積もっているのが見え始めるようになった。
このメル雪山は名前の通り雪山であるが、わざわざ名前にまで雪山とつけられているのは少し変わったところがあるからだ。
それは『積もった雪の嵩がほとんど変化しない』というもので、雪が降ったり無理やり溶かしたりしても数分でもとに戻るというのだ。
どうやら頂上に棲む魔物の影響でこのような現象が起こっているらしいのだが、数百年前に一度山から降りてきたという記録が残っているだけで、それ以外のその魔物の見た目や特徴の類いの情報は一切なかった。
ただ、標高1000メートルもなく暖かなこの場所でさえ溶けずに雪が残こっているのだから、とてつもない力を持った魔物がいるというのは確かだろう。
その魔物の討伐依頼は出ていない、というのもメル雪山の頂上まで無事に登ることのできる人がいないのと、こちら側の実害がないというのが理由だ。
今やおとぎ話程度の存在をわざわざ依頼を出してまで探して討伐する意味もなければ、依頼するやつもいない。
俺個人としては戦おうとは思わないが、せめて一度その姿を見てみたいとは思う。
それからまた少しずつ山道、もとい雪道を進んでいっているわけだが。
「本当に何もいないな。」
「そうだね...。それにこの雪のせいでさっきまで続いてた足跡とかもなくなっちゃったし。」
「この山はいつもこんなにも静かで魔物のいない山なのか?」
イデアは首を横に振った。
「メル雪山はロックベアーと刃狼の討伐依頼が定期的に出てるぐらいたくさんいるはずなんだけど、1度も魔物と遭遇しないなんて、普通ありえないはずだけど…。」
「明らかにおかしいってことか。何がおこってるんだ?」
確か刃狼の討伐適正はR/Bー3、三等の中級冒険者1人だったはず。
ロックベアーがどれだけ強いのかわからないが、痕跡の主はそれらの魔物を纏めて相手をしても、勝てるだけの力がある魔物ということになる。
そうでもなければこの状況の説明がつかない。
ここからはより一層気をつけなければいけない、と思ったその時。
「っ足音がする!正面から何か来るよっ!!」
イデアの耳がピコッと反応した。
俺には全く聞こえないが獣人族の優れた身体能力が遠くの音をすかさず察知したようだ。
「何かって何だ?まさかさっきの痕跡の!?」
「違うと思う。足跡がいっぱい聞こえるよ!」
「いっぱい!?」
イデアは目を凝らして雪道の先を見ている。
俺も視力にはそこそこの自信はあるが見えるのは白一色のみ、頼れるのはイデアの五感だけだ。
そしてイデアは見えたものに驚きを隠せず慌て始めた。
「...あれは!?」
「どうした、何が見えた!?」
「ロックベアー!群れが一斉に山を駆け下りてきてるよ!!」




