中級昇進試験 5
「うん、上出来だな。」
スープの味見をしてみた。
我ながら上手くいったと思う。
前世では知識はあったが実際に料理をした回数は少なかったし、今世でもそれほど多くやったことがあるわけじゃない。
とりあえず食べられればいいくらいに考えていたし、ただ野菜を切って入れただけのスープだったので期待はしていなかったが、美味いに越したとはない。
鍋のスープを木の器に移す。
街に行ってから知ったが容器は大体が木製で、銀製のものは上流階級の人が使っているらしい。
陶器に至っては見たことも聞いたことも無い。
いずれ技術が発展していけば使われるようになるのだろうが、俺が生きているうちに見られるかは定かじゃないな。
っと視線を感じるな、やれやれ。
「ほれ、やるよ。」
「えっ、いいの......?」
もちろんその視線はイデアのものだ。
コンソメ(仮)のいい匂いが漂い始めたあたりから、携帯食糧を食べながらチラチラとこっちを見ていたが、今はその手はピタリと止まり鍋を凝視している。
頭頂部の獣人族特有の耳は今までにないほど激しくピコピコしているし、尻尾もベッシベシ地面に叩きつけている。
目は口ほどに物を言うとは前世のことわざだが、この場合だと尻尾と獣耳は口ほどにものを言うかな。
携帯食糧は、言ってしまえば味のしないクッキーみたいなものだ。
一口で忽ち口内の水分を奪い去ること請け合いのそれを食べている横でスープを作るとは、されている側からすれば堪ったものじゃない。
そんな状態のイデアにスープを分けてやるなんて言い出せば、まぁそういう反応するよな。
さながら乾ききった砂漠にオアシスを見つけた時のように、キラキラと瞳を輝かせていた。
イデアはおずおずと俺が差し出した器を受け取ったが、直ぐに手をつけようとはしなかった。
「......本当にもらっていいの?リュートの食べる分が少なくなるよ?」
「逆にもらってくれなきゃ困る。元々あげるつもりで二人分作ってたんだ、どうせそれで済ませるつもりだろうと思ってたからな。」
そう言ってイデアが握ったままの携帯食糧を指す。
「...ありがと。」
「どういたしまして。...あ、これって冒険者が持っていたら便利な技術とかで好評価じゃね?」
「その独り言は私が聞こえてないところですべきだと思うな。」
「......聞かなかったことにして欲しいなー。」
「まったくもう......、美味しい。」
今から雪山登山をするとは思えないほどリラックスして昼食をとる俺とイデア。
いつでも落ち着いていられるのも冒険者に必要な技術だと思えば、こういうのもいいか。




