中級昇進試験 4
遅くなりました。
「よっこいしょ、っと。」
背負っていたバッグを下ろし、昼食を作るのに必要なものを出していく。
ただ、小さくはないが大きくもないバッグにパンパンに詰められた荷物から、必要なものだけを取り出すのは時間がかかる。
「......朝見た時も思っていたけど、すごい量の荷物だよね。重くないの?」
「このくらいならまだ大丈夫だ。」
「力持ちなんだね!」
「そうでも無いけどな。」
イデアは片手に携帯食糧を持ちながら話しかけてきた。
普通はそれで済ませるのだろうが、俺はどうにも好きになれない。
だからわざわざこうして調理道具を持ってきている訳だが。
俺は何を作るか考えながら黙々と準備を進める。
「これは、…鍋?なんで鍋?」
「なんでって、料理には欠かせないだろ?」
「料理するの?今から?」
「そのために持ってきたんだから、料理しなかったら持ってきた意味ないだろ。」
「えぇ......。」
なんとも微妙な顔をしておられる。
俺は気にせず食材を準備し始めた。
今日のメニューは野菜のコンソメスープとパンだ。
スープの具は、見た目は完全に白菜と人参と玉葱なんだが、名前が違うからややこしい。覚えるのは諦めた。
コンソメの素になるものも、前世のとはまた違う。
こっちのは、そもそも分類が鉱石扱いだからだ。
一見ただの赤い石に見えるものを削って、お湯に入れるとあのコンソメの匂いがするのだから驚きだ。
料理の準備は出来た、あとは調理し始めるだけなのだがその前に。
「先に言っておくけど、今からすることは他言無用な。」
「どういうこと?」
「こういうこと。」
俺は地面に魔法陣を描いて魔力を流し込む。
「『火』っと。火力高いな、調整調整。」
「!!それって魔法!?でもそんな魔法見たことも聞いたことも...。」
「だから他言無用なんだよ。厄介なのにバレると困るからな。」
しー、と口元に指を立てる。
また微妙な顔をするイデア、そんなに似合わない仕草だっただろうか。
「うーん、理由はわかったけど、それってすごいことなんじゃないの?」
「まぁ傍から見れば凄いのかもな。そんなに大したことじゃないけど、魔法に関しては何も教えないからな?」
「いいよ、私魔法使えないし...。」
「え?」
それはおかしい。
もう気にならないというか気にしていないが、今も溢れだしている魔力があるのに魔法が使えないのは妙だ。
試してみるか…。
スッと指を立ててイデアに見せる。
「......これ、見えるか?」
「指だよね?さすがにそれは見えてるよ。」
「じゃあこれは?」
「.........さっきと何が違うの?」
「なるほど、そういうことか。」
俺は2回目の時、魔指を使った。
普通は体を魔力が覆っている状態であれば見えたはずだ。
今のイデアの状態はそれに近いが、指向性を持たない魔力ではなんの効果も生まれない。
つまりイデアは魔法が使えないのではなく、魔力が扱えていないだけのようだ。
「どういうこと?」
「んー、努力すれば魔法は使えるな。」
「本当に!?どうすれば使えるようになるの!?」
「それは教えん。さっき言っただろ、魔法に関しては教えるつもりは無いって。自分でなんとか頑張るんだな。」
「むぅ、ケチ!!」
「ケチで結構。」
そうこうしている間に、野菜のコンソメスープは出来上がっていた。




