魔法を使えるようになりたい!!
月日が流れるのは早いものだと、7歳になった頃思うようになった。
こんなにも1日1日が早かっただろうか。
前世では、いついかなる時もゲームのことで頭がいっぱいだった。
今はどうだろう。
そもそもこの世界には電子機器が存在していない。
ゲームというには少々アナログなものばかりだ。
それでも、俺はそんな日常を淡々と過ごしている。
転生する前の俺だったら、1日ゲームしないだけで狂喜乱舞していたかもしれない、と言えるくらいにはゲームに熱中していた。
心も記憶も引き継いでいる俺が一切ゲームをすることなく、7年もの間平穏に暮らしていたとなれば、疑問に思うのも当然だろう。
だがこの疑問は、とっくに解けている。
なんて言ったって、この世界そのものがゲームの世界と言っても過言じゃないからだ。
この世界には前世では想像上のものだった生き物や理論や法則が成り立っているのだ。
今俺が読んでいる本がまさにそれを証明してくれている。
「魔法使いになるために:初心者用、ついにこの時が来たんだ!!!」
そう、今手にしている本は前世に生きるほとんどの人が夢見たことだろう、魔法を実現させることの出来る本なのだ!
早速、逸る気持ちに答えるように1ページ目を開いた。
最初のページには、著者の序文が書かれていた。
『この本を手に取った諸君。諸君らはこれから、様々な未知との遭遇を体験するだろう。この世界で一部の人間と数多くの魔物たちが使う、魔法と呼ばれるものとだ。魔物は強力な魔法をいとも容易く、まるで手足のように使う。だが、我々にそれは出来ない。前記のように我々は魔法という知識を得なければ、未知のままなのだ。しかし、我々は魔法というものについて考えることが出来る、研究・改良することが出来る。魔物には到底及ぶべくもない、力となるだろう。だからこそ、私は言わねばならない。魔法に飲まれてはいけない強力な力は人間にとって重要なものを奪うことがある。それは知性と理性だ。魔法は危険なものである。その魅力に取り憑かれ飲み込まれればいとも容易く堕落していくだろう。心を強く持て、知性ある生き物である我々は魔物に成り下がってはいけないのだ。これにて、私の意思を書き記したものとする。』
そして、序文の下に著者名が記載されていた。
アスティア・メルヘル・オルスタイン、と。
誰だろう。
「父さん、このアスティア・メルヘル・オルスタインっていう人は、どんな人なの?」
「そうだな…、アスティア様はエルフでな、古くから魔法について研究してきたそうだ。今でも存命しておられるぞ。今は王都にある魔術学園の学園長をしていらっしゃるそうだ。」
おぉぉ、エルフ!
やっぱり、いるのか!流石RPG世界、なんでもいるんだな。
「すごく長く生きてるんだね。幾つくらいなの?」
「それがあまりよくわかっていないんだ。本人は口外していないようだし、確認する方法もないからな。」
ふむ。
1度会ってみたいものだ。
そのためにはもっと魔法について学ばないとな。
一応目標として、俺はなんでも出来る器用貧乏タイプで進めていこうと考えている。
その後、この世界を攻略していくにあたって、自分に1番あった戦い方とかを学んで、軌道修正していこうと思ってる。
まぁ今までやったきたオフラインRPGゲームでは結局どの職業で、何を重点的成長させて、とか考える前にクリアしていた、なんてこともある。
でもこの世界はオンライン、他の人もたくさんいる、俺と同じ境遇の人は多分いないが、それでも協力プレイはできるだろう。
でも、初対面の人と話せるだろうか。
昔もオンラインゲームでは、基本ソロプレイヤーだったし、協力プレイする時はだいたい緊急レイドとかリアルで友達のやつとしかやったことがない。
緊急レイドは普通のレイドと違ってパーティ制限がないものがある。
そういうものには率先して参加した。
それに普通のレイドクエストやレイドボスはソロでも倒せる。
ただ、とてつもなく時間がかかるし、アイテム消費は計り知れないし、そもそも集中力が持たないだろう。
だが、俺は別だ。
ゲームに関しての集中力は日本一、いや世界一にも届くかもしれないと自負している。
実際、レイドボスをソロで20時間耐久して競り勝ったこともある。
終わった後脱水症状で死にそうになったが、それを忘れてしまうほどの達成感を得られたから後悔はない。
ただ二度とやろうとは思わない、それなら初対面の人にパーティ申請する方がまだマシだ。
リアルの命には変えられない。
少し思考が脱線してしまったが、今はまずこの本を読もう。
次のページには目次が載っていた。
初心者はまず自分が魔法を扱える体質かどうか、魔法を使うための基礎訓練など、まさに初めて魔法を使う人にもってこいの内容になっていた。
さっそく試すことにした。
「えーっと、『まずは目を閉じて体に流れるの血液をイメージして、同じ流れで体の表面を流れているであろうなにかを感じる。感じられない場合は魔力量が少ない場合と魔法が使えない場合がある』と。ざっくりした説明だな。感覚が大事なのか。」
本を置いて目を閉じる。
………じっとしていると、確かに体の周りを滞留しているような、空気ではない何かが感じられた。
どうやら、俺は魔法はちゃんと使えるようだ。
心底安心した。
これでもし使えないようだったら、かなり悲しい。
まぁ魔法が使えなくても、武術一辺倒で冒険者を目指すというのも悪くは無いのかもしれない。
それでもやっぱり魔法って言うのはロマンだと思う。
使えた方がいいに決まってる。
「………、よし。『次は、今は見えないそれを目で見えるようにすることだ。感じているものがそこにあると認識することで見えるようになるだろう。それが君の魔力だ』と。この本、全然親切じゃないな。著者は天才肌だったのかな?」
でもやってみないことには、なんともいえない。
とりあえずやってみよう。
体の周りにあるこの見えない魔力がちゃんとそこにあるんだと考える。
じー。
じーーー。
じーーーーー。
あ、見えた!見えたぞ!!
今、俺の体には半透明の白いモヤのようなものが見えていた。
これが俺の魔力かー。
ワクワクしてきた!
「よしよし。『見えるようになったらそれが何色であるか確認しよう。色によって君の適正の属性がわかる』。ふむ、それで次のページに見方があるのか。」
そこには5色の色と適正属性があった。
赤、青、緑、黄、紫、の5色。
それぞれ、火、水、風、光、闇、となっているようだ。
あれ?俺白なんだけど。
どういうことだ?
他のページも見てみたが白い魔力の記述はなかった。
まさか、俺適正属性ない?
これはこの本の著者、アスティア・メルヘル・オルスタインに聞いてみたら何かわかるかもしれない。
とりあえず、今は属性魔法は使えないということだ。
仕方ない、読み進めよう。
「えっと、『魔法を使う基礎訓練は、魔力量を増やすということだ。これには近道はない。ひたすら、魔法を使うことで鍛えるのみ。本書では各属性の初級魔法とその他魔法を記す』。で、この本はこれで終わりか。」
次のページを開くと前述通り、各属性の初級魔法のものと思われる、詠唱文、魔法陣、使用時に心がけるべき点などが記されていた。
だが今の俺にはどれが適正かわからないし、その他の魔法を使うしかない。
更に次のページを開く。
そこにあった魔法は2つ、『フィジカルアップ』と『マインドマップ』だ。
文字通り、身体、又は精神の強化の魔法のようだ。
『マインドマップ』は精神攻撃系の魔法や状態異常系魔法に対する抵抗をあげる魔法のようだ。
今使っても実感がわかないと思う。
よって、『フィジカルアップ』を使うことにした。
『フィジカルアップ』を使うには、詠唱による魔方陣の精製、魔方陣へ魔力を注入、発動、という流れのようだ。
本に書いてある魔方陣はイメージしやすいように書いてあるらしい。
「やってみるか。『我が魔力よ、我が肉体をもって、強化せよ』!!」
するとどうだろう、体が軽く感じられるようになった。
『フィジカルアップ』の効果によって筋力が強化され、普段の1.1倍ほどの能力が出せるようだ(試した感覚的に)。
「でも、魔法を使った後は少し虚脱感があるな。魔力を消費したからか。うーん、1日3回が限度かな?」
コツコツ毎日使うことで魔力量も増えていくだろう。
レベル上げと同じだ、淡々とした作業なら得意分野だ。
その後、『フィジカルアップ』の効果が切れたら使い、切れたら使いをして、限界まで魔力を消費した。
そのせいか、体がすごく重く感じた。
これ、寝る前にやろう、動くのが億劫になる。
今日はこれで切り上げようと思い、本を仕舞おうとした時、たまたま読んでいなかった最後のページが開いた。
そこにはこう書かれていた。
『注意事項:これは、主に成人前後の歳の者が使うことを想定してあります。それ以下の年齢の方では、魔力が未発達の場合がほとんどのため、魔力の発現が見られない可能性があります。時期が来た時に本書を再度開いていただけると幸いです。』
つまり、どういうことだ?
俺はまだ7歳だ、その俺には魔力が見えないはずってことか。
でも、見えているってことは、俺はそれなりに特殊なのかもしれない。
適正属性がわからなかったのもそれが原因か。
胸アツ展開じゃないか、こういうのって後々すごく強くなれるってことじゃないか!
より一層やる気のでた俺は、明日からの生活に心躍るのだった。